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第43話 ハルカの秘密

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――治癒魔術師のハルカは最近に気になる男の子がいた。その男の子は一か月ほど前に彼女と祖父の命を救ってくれた少年であり、最初に出会った頃からハルカは彼の事が気になっていた。

ハルカ達を助けてくれた少年の名前は「リン」であり、男の子にしては綺麗な顔立ちだったので最初は女の子かと思ったぐらいである。しかし、今までハルカが出会った男の子の誰よりもたくましくてとても強い男の子だった。

彼女の祖父は助けてくれたお礼としてリンをうちの屋敷でしばらくの間は面倒を見る事に決め、それに対してハルカも賛成だった。聞くところによるとリンは身寄りがおらず、幼い頃に両親を失ったという。彼女も母親を小さい頃に失くしており、親が居なくなった悲しみはよく理解できる。

リンは少し変わった子で魔法使いでもないのに魔力を操る事ができる。しかも彼は本来ならば治癒魔術師の紋章を刻まなければ覚えられないはずの回復魔法も扱えた。但し、ハルカの扱う回復魔法と比べて回復速度は格段に遅く、しかもかなりの魔力を消費するのか彼が回復魔法を扱う時はかなり疲れた表情をしていた。


『どうか俺を……弟子にしてください!!』
『……えっ!?』


ハルカが治癒魔術師だと知った途端、リンは何を考えたのか彼女に弟子入りを頼んだ。だが、ハルカは治癒魔術師としては決して優れているわけでもなく、むしろ落ちこぼれだと思っていた。


(あの時は本当に驚いたな……こ、告白されるのかと思っちゃった)


最初にリンが自分の手を掴んで真剣な表情を浮かべてきた時、ハルカは彼に告白されるのかと思った。別に男子から告白される事は初めてではなく、この年齢になるまでにハルカは何人もの男子から告白されている。しかし、一度たりとも付き合った事はない。

ハルカに告白を申し込む相手の大半は彼女の中身ではなく、外見に惹かれて告白してくる人物が大半だった。現にハルカを告白する男子の大半は彼女の胸元にちらちらと視線を向けており、明らかに身体が目当てだった。

年齢の割にはハルカは発育が良く、特に胸が同世代の女子と比べて大きく育った。彼女の母親も胸は大きかったが、ハルカの場合は同じ年齢の頃の母親よりも大きい。祖父によればハルカが生まれる前に亡くなった祖母も大きかったらしく、彼女の家系の女性は全員が胸が大きいらしい。


(私に告白してくる男の子って、だいたい皆が私の胸を見てくるから嫌な気分だったけど……リン君だけは違ったな。あ、でも紋章を見せる時は凄く見てたような気がするけど……)


治癒魔術師である事を証明するためにハルカはリンに胸元を見せた際、リンが凝視してきた事を思い出してハルカは頬を赤く染める。あんなに間近に胸を男の子に見られたのは初めての経験だったが、今思えばリンが向けていた視線は他の男の子と違って邪な感情はなかったように見える。


(胸を見ていた時のリン君、凄く真剣な表情をしていた……あんな顔で胸を見てくる子なんていなかったな)


ハルカは自分の胸元を少し開き、胸に浮かんだ紋章を確認した。この紋章を見る度にリンに間近で凝視された事を思い出して恥ずかしくなる。


「リン君……会いたいな」


自分の部屋の中にいたハルカはリンに会いたくなったため、少し早いが中庭へ向かう事にした。もう少したてばリンと共に修行を行う時間帯のため、彼女は急ぎ足で中庭へ向かう。


(リン君、先に来てたりしないかな?)


最近のリンはハルカが教えた練習に励み、彼女がいない時でも中庭で修行を行う事が多かった。そのせいで中庭の花壇の一角はリンが育てた花が大量に植えられており、今日もハルカよりも先にリンが先に中庭に居た。


(あ、やっぱり居た!!)


中庭にいるリンにハルカは声を掛けようとした時、リンは既に修行を行っている事に気が付く。目を閉じた状態でリンは両手を握りしめ、その様子に気付いたハルカは少し離れた場所で様子を伺う。

リンが次に目を開くと両手を離す。すると掌の上に芽を生やした種が置かれ、それを地面に植えると今度は両手を翳す。地面に植えられた芽は徐々に大きくなり始め、やがては立派な花を咲かせる。それを見たハルカは驚きを隠せない。


(あ、あんなに早く花を咲かせるなんて……私にもできないのに)


何時の間にかリンが自分よりも花を育てるのが早くなっている事を知り、彼女はショックを隠せなかった。少し前まではリンは芽を生やすのが精いっぱいだったが、いつの間にか彼はハルカよりも早く花を咲かせるようになっていた。

たった一か月でリンが自分よりも種から花になるまで成長させる事ができるようになっていた事にハルカは動揺し、声を掛ける事もできなかった。その一方でリンは咲いた花を見て満足そうに頷くと、振り返りもせずに後方にいるハルカに話しかける。


「ハルカ、そこにいるんでしょ?」
「えっ!?」


リンに気付かれていないと思っていたハルカはいきなり声を掛けられた事に驚くが、リンは振り返ると笑顔を浮かべる。そんな彼を見てハルカは胸が高鳴り、恐る恐る彼に近寄る。


「ど、どうして分かったの?」
「何となくかな……最近、ハルカが近くに居るとすぐに気付けるようになった気がする」
「そ、そうなんだ」


ハルカはリンの言葉を聞いて内心は嬉しく思い、一方でリンも不思議そうな表情を浮かべる。いつもの彼女ならばリンを見つけたらすぐに声をかけて近寄ってくるはずなのに、今日は隠れて様子を見ていた事に疑問を抱く。


「どうして声をかけてくれなかったの?」
「えっ!?えっと……リン君、集中してるみたいだから邪魔したら悪いかなと思って」
「そうだったんだ。気を遣ってくれたんだね、ありがとう」
「う、うん」


お礼を言われたハルカは何とも言えない表情を浮かべ、本当は声を掛けなかったのはリンが花を育てる姿を見て驚いたからであり、声を掛ける暇もなかった。


「……綺麗な花だね」
「うん、ようやくハルカに追いついたよ」
「そんな事ないよ。もうリン君は私よりも上手いよ……」


何気ないリンの言葉にハルカは悲し気な表情を浮かべ、今のリンはハルカよりも早く花を育てる事ができるようになっていた。それはつまりリンはもうハルカを越えた事を意味している。

この一か月の間にリンの魔力操作の技術は格段に上達しており、今では回復魔法の使い手であるハルカよりも先に花を育てる事ができた。しかし、リンはこれぐらいではまだハルカを越えたと思っていない。


「ハルカ、ちょっといいかな?」
「え?」
「今度はハルカが種を育てる所を見せてくれる?」


余っていた種を取り出したリンはハルカの手を掴んで彼女の掌の上に置くと、ハルカは戸惑いの表情を浮かべる。


「ど、どうして?」
「ちょっと気になる事があって……とにかくやってみてよ」
「う、うん……リン君が言うなら」


リンに頼まれたハルカはいつも通りに両手で種を握りしめ、魔力を送り込んで育てようとした。その様子をリンは間近で確認し、そんな彼にハルカはどぎまぎした。


(リン君が見てる……あの時と同じ顔で見つめてくる)


最初にリンがハルカの紋章を見せて貰った時と同じ表情をしている事に気が付き、ハルカは緊張して上手く魔力を送り込めなかった。そのためにいつも以上に時間が掛かってしまい、それに気づいたリンは不思議そうにハルカの顔を覗く。


「どうかしたの?」
「な、何でもないよ!?」


尋ねられたハルカは慌てて誤魔化し、早く種を育てようとがむしゃらに魔力を送り込む。しかし、それに気づいたリンはハルカの両手を掴んで落ち着かせる。
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