上 下
39 / 71

第39話 天才と凡人の差

しおりを挟む
――その日、結局はリンは種に芽を生やすのが限界で修行を終えた。ハルカは見事に種から花を咲かせるまでに成長させる事に成功し、改めてリンはハルカとの差を思い知らされる。


(……ハルカは天才だ。それに比べて僕はただの凡人か)


一緒に修行をした事でリンはハルカの凄さを思い知り、彼女は自分を落ちこぼれと思い込んでいたが、実際は魔法使いとしての一番重要な才能を持っていた。それは生まれながらに膨大な魔力を有しているという事であり、今よりも魔力操作の技術を磨けば必ず優秀な魔術師になれるだろう。

ハルカと違ってリンは普通の人間であり、魔力を操作する技術を磨いていくうちに魔力も伸ばす事ができた。だが、ハルカと比べるとリンは自分の魔力はちっぽけな物に感じられ、天才と凡人の差を思い知らされて落ち込む。


「羨ましいな……」


生まれた時から膨大な魔力を持つハルカにリンは羨ましく思い、もしも彼女のように自分も膨大な魔力を持って生まれていたらと考えてしまう。しかし、そんなありもしない妄想をするより、現実に向き合わなければならない。


「……修行するか」
「ウォンッ?」


部屋の中でぶつぶつと呟くリンにウルは不思議に思うが、すぐに昼寝を再開した。家の中に居る間はウルはのんびりと過ごし、食事の時だけ目を覚ます。森の中ではあり得ない生活であるため、ウルは今の生活を満喫していた。


「全く、僕よりも贅沢しているな」


呑気に眠り始めたウルにリンは苦笑いを浮かべ、彼は屋敷に滞在する間はカイに依頼された回復薬の製作の仕事を行っている。だから仕事もしないで食べては寝るだけの生活を送るウルに呆れてしまう。


「さてと、修行修行」


昼寝を始めたウルを放っておいてリンは鞄の中から水晶玉を持ち出し、森を出る時にリンはマリアが残した吸魔水晶を持ち出していた。吸魔水晶はただの鍛錬器具ではなく、魔力を故意に吸い上げさせる事で魔力量を伸ばす道具にもなる。

魔力の限界を伸ばすためには一度は魔力を使い切る必要があり、自然回復するまで待つ。マリアが調合した薬を飲めば回復速度も速まるが、生憎と今のリンは薬は持ち合わせていない。調合技術は身に付けたが、魔力の回復を早める薬の素材は持ち合わせていない。


「ふうっ……」


水晶玉を手にした状態でリンは座禅を行い、まずは水晶玉に魔力を送り込む。魔力を水晶玉に注ぎ込むと水晶玉の内部に白炎が灯り、どんどんとリンは身体の力が失われていく。


「くっ……まだまだ」


意識を失わないように気をつけながらリンは魔力を水晶玉に注ぎ込み、限界まで魔力を送り込むと座禅したまま動かない。ここから先はに集中する。


(回復させるんだ、魔力を……)


何年も費やしてリンは魔力を伸ばす訓練を続けた結果、彼は自力で魔力を回復させる方法を身に付けていた。但し、この方法を実践するには高い集中力を必要とするため、回復させている間は身動きすらもできない。

失った魔力の代わりに新しい魔力を体内で生成する場合、精神力だけではなく体力も消耗する。そのためにリンは森に居た頃は身体を鍛えるのと同時に体力を伸ばし、そのお陰で彼は魔力を自力で回復させる事ができるようになった。


「はあっ、はあっ……やっぱり、この修行が一番きつい」


どうにか動けるまでに魔力を回復させると、リンは全身から汗を流していた。この回復手段は体力を大幅に消耗し、しかも回復させるためにはかなりの時間を必要とする。だが、この方法ならば体力がある限りは何度でも魔力を回復させる事ができた。


(きついけど、後でもう一回ぐらいしないとな……)


魔力を伸ばすためには地道に毎日訓練を行い、時間は掛かるが着実に魔力を増やす事はできる。だから昔は普通の人間にしか過ぎなかったリンも今では魔物を倒せる程の力を身に付けることができた。

だが、今回は修行を終えた後と言う事もあってリンはいつも以上に疲れて座り込む。もしも自分がハルカだったらこんな修行をする必要もないのかと考える。


(ハルカは修行無しで僕以上の魔力を持っている……世知辛いな)


ハルカが全く悪くはないがリンは彼女の才能に嫉妬してしまい、しかし頭を振って邪な考えを振り払う。


(ハルカは凄くいい子なんだ。それに他の人間と比べる必要なんてない、僕は僕なりに成長すればいい)


自分と他人と比べる事が馬鹿らしくなったリンは考えを改め直し、自分のできる事を始める事にした。まずは種から花を咲かせるまで成長させる事に専念し、どうして修行が上手くいかないのかを考える。


「種が上手く成長しないのは魔力を上手く送り込めないのが原因なんだ。実際、修行を終わっても僕の魔力はかなり残ってた」


ハルカのように種を成長させるにはリンは今以上に魔力を送り込む方法を極める必要があると考え、彼は吸魔水晶に視線を向けた。この吸魔水晶は触れるだけで強制的に魔力を吸収する代物だが、そのお陰でリンは魔力を留める技術を身につけられた。

魔力を留める事ができるようになると自然と外部に発散する方法も身に付け、そのお陰でれリンは他の生物の怪我も治せるようになった。しかし、ハルカの回復魔法と比べてまだまだ粗削りであり、彼女のように瞬く間に怪我を回復させるには魔力を送り込む技術を本格的に極める必要があった。


「長丁場になりそうだな……でも、やり遂げて見せるぞ」


気を取り直してリンはハルカに頼んで修行を再開しようとした時、不意に彼は机の上に置かれている木箱に気が付く。この木箱は今朝に薬草が入っていた木箱であり、まだ返し忘れていた事を思い出す。


「これ、返しに行かないと……待てよ?」


リンは薬草が入っていた木箱を見てある考えが浮かび、カイが用意してくれた薬草は森で生えている薬草と比べて質が悪く、調合しても市販の回復薬よりも少しだけ効果の高い物しか作り出せない。

薬草の質が高ければもう少しは良い回復薬を作れると常々思っていたが、リンはハルカとの修行を思い出す。


「もしかしたら……」


慌ててリンは空の木箱を持ち上げて新しい薬草をカイから受け取りに向かう――



※次回はリン以外の人間の視点の話になります
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

薄明宮の奪還

ria
ファンタジー
孤独な日々を過ごしていたアドニア国の末の姫アイリーンは、亡き母の形見の宝石をめぐる思わぬ運命に巻き込まれ……。 中世ヨーロッパ風異世界が舞台の長編ファンタジー。 剣と魔法もありですがメインは恋愛?……のはず。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...