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第25話 反魔の盾と魔力剣

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「あの、それで僕に渡したい物は……」
「気になるか?なら見せてやろう……こいつがお前さんの武器だ!!」


ドルトンは背中に抱えていた鞄から包みを取り出し、それをリンに差し出した。リンは緊張した様子で包みを開くと、円盤型の盾が露わになった。それを見てリンは驚き、先ほどの話だとマリアはリンのために武器の制作を依頼していたようだが、出てきたのは防具だった。


「えっ……これが僕の武器、なんですか?」
「驚いたか?そいつは一見は盾にしか見えないが、特別な力を持っている」
「特別な力?」
「そいつを利き手じゃない方の腕に装着しろ」


リンはドルトンの言う通りに左腕に装着すると、鞄の中から鉄槌を取り出したドルトンはリンの盾に目掛けて振り翳す。


「避けるなよ!!しっかりと受け止めろ!!」
「えっ!?ちょっ……うわぁっ!?」


鉄槌が振り下ろされた瞬間、咄嗟にリンは左腕の盾で防ごうとした。鉄槌が衝突した瞬間、盾から衝撃波のような物が発生してドルトンが握りしめていた鉄槌が吹き飛ぶ。


「うおっ!?」
「うわっ!?い、今のは……」
「いててっ……ちょいと強く叩きすぎたな。だが、これで分かっただろう。そいつの凄さをな」


弾き飛ばされた鉄槌を拾い上げながらドルトンは笑みを浮かべ、リンは彼の言葉を聞いて自分が装着した盾を見つめる。先ほどドルトンが繰り出した鉄槌を受けた際、盾から衝撃波のような物が発生して吹き飛んだように見えた。

改めてリンは盾を確認すると、盾は全体が鏡のように磨き上げられており、試しにリンは右手に魔鎧を発動させて盾を軽く叩く。すると叩いたのと同じぐらいの衝撃が返り、彼の右手は押し返される。


「これってまさか……衝撃を跳ね返してるんですか」
「察しが良いな。そいつの名前は反魔の盾だ」
「反魔の盾?」
「外部から受けた衝撃を跳ね返す事ができる特製の盾だ。但し、そいつを使いこなせるかどうかはお前さん次第だがな」
「どういう意味ですか?」
「そいつを儂に貸してみろ」


ドルトンの言葉にリンは不思議に思うと、彼は盾を自分に渡すように促す。言われた通りにリンはドルトンに盾を返すと、彼は両手でしっかりと持った状態でリンに盾を構えた。


「よし、今度は坊主の方から殴ってみろ」
「え?でもそんな事をすれば大変な事になるんじゃ……」
「軽く小突くだけでいい。いいか、軽くだぞ?」
「は、はあっ……分かりました」


リンは言われた通りに右手に魔鎧を発動させ、盾に向かって大して力を込めずに殴りつける。するとどういう事なのか、リンが装着していた時は盾は外部からの衝撃を跳ね返したが、ドルトンが持った時は衝撃を跳ね返さずに彼は後ろに下がってしまう。


「おっとっと……」
「あれ?今の……衝撃波が出ませんでしたよね?」
「そうだ。俺にはこいつを使いこなす事はできない、何故ならこいつは本来は魔術師専用の装備だからな」
「それって、どういう意味ですか?」
「要するにこいつは魔術師にしか扱えない防具だ」


盾をリンに返しながらドルトンは説明を行い、彼によれば「反魔の盾」は本来は魔術師専用の防具だと言う。この盾を使いこなす事ができるのは魔術師だけであり、その理由は魔力が関わっているらしい。



――反魔の盾は物理攻撃だけではなく、魔法などの攻撃さえも跳ね返す事ができる優れ物だった。だが、この反魔の盾を扱えるのは魔術師だけであり、普通の人間が反魔の盾を装備したとしても性能は発揮できない。

何故ならば反魔の盾が生み出す衝撃は所有者の魔力を消費して生み出されており、魔力を扱いこなせていない一般人には反魔の盾は使いこなせない。反魔の盾を扱う事ができるのは魔力の制御に長けた人間だけであり、基本的には魔術師以外に反魔の盾を使いこなす事はできないと言われている。

リンの場合は魔術師ではないが魔力の制御に長けているので無意識に利用できたが、ドルトンのような魔法も魔力も扱えない者は反魔の盾の性能を引き出す事はできない。だからリンが盾を持った時は攻撃を跳ね返す事はできたが、ドルトンが装備した時は攻撃を跳ね返せなかった。

但し、反魔の盾が跳ね返す事ができる攻撃の限界は所有者の魔力の総量次第であり、強力な攻撃を受ければその分に所有者の魔力が消費されてしまう。もしもリンが魔力を使い切った状態で反魔の盾を装備していた場合、魔力がなければただの盾と化してしまう。



「マリアにどんな考えがあってその盾を坊主に託したのかは俺には分からねえ。だが、きっと意味があるんだろう」
「師匠がこの盾を僕に……」
「そいつの製作に大分時間が掛かったが、その盾はただの防具じゃねえ。使い方によっては攻撃にも利用する事ができる。尤もそれを使いこなせるかどうかはお前次第だがな」
「……ありがとうございます」


マリアが死ぬ前に自分のために盾の制作を依頼していた事を知り、彼女の気持ちを無駄にしないため、リンは有難く盾を受け取る事にした。ドルトンの言う通り、この盾を生かせるかどうかはリン次第であり、彼は必ずや反魔の盾を使いこなす事を心の中で誓う。


「そうそう、それとこいつも渡しておく。こっちは儂からの餞別の品だ」
「え、これは……剣ですか?」
「抜いてみろ」


ドルトンは鞘に納められた剣を手渡し、いきなり渡されたリンは戸惑う。彼は剣を扱った事は一度もなく、強いて言えば魔力で作り上げた光剣ならば使用した事はあるが、本物の剣なんて触れた事もなかった。


「ドルトンさん、僕は剣は使った事がないんですけど……」
「いいから抜いてみろ」
「は、はあっ……あれ?抜けない!?」


渡された剣を受け取ったリンは鞘から刃を抜こうとしたが、どれだけ力を込めて抜けない事に気が付く。疑問を抱いたリンはドルトンに振り返ると、彼は刃を抜く方法を教えてくれた。


「そいつは力任せに引っ張っても駄目だ。抜く時は魔力を込めるんだ」
「魔力を?」
「いいからやってみろ」
「は、はい!!」


リンは言われた通りに柄を握りしめながら魔力を送り込んだ途端、鞘の部分に紋様が浮かぶと柄から刃が引き抜かれる。それを見たリンは驚き、鞘から出てきたのは金属製の刃ではなく、リンが使用する光剣そのものだった。

どうやらドルトンの渡した剣は元から刃は存在せず、その代わりに魔力を込めると一瞬にして光剣を形成する。これまでにリンは光剣を作り出す時は棒切れなど利用したり、あるいは魔力を練り上げて手刀に纏わせる形で作り上げてきた。しかし、ドルトンが渡した刃がない剣は魔力を込めただけで瞬時に光剣を形成する。


「こ、この武器は!?」
「魔力剣だ。そいつは俺が作り出したこの世に一つしかない武器だからな、気に入ったか?」
「凄い……こんなに簡単に光剣を作り出せるなんて初めてです」
「そういってくれると嬉しいぜ。そいつを作り出すのに特別な鉱石を使ったからな」


ドルトンの用意してくれた「魔力剣」なる武器は刃がない柄を鞘に収めただけの武器だが、この刃がない柄と鞘の部分に特別な術式が組み込まれた紋様が刻まれており、魔力を込めるだけで一瞬にして光剣を作り出す事ができる。

これまでの光剣と違う点は物体(棒切れなど)に魔力を包み込んで作り出す必要もなく、光刃を作り出すまでの時間が一瞬で済む。しかも鞘に柄を納めている状態ならば傍目からは普通の剣にしか見えないため、もしもリンが鞘から光り輝く刃を抜き放てば相手の意表を突きやすい。


「これ、試し切りしていいですか!?」
「ああ、好きにしろ」


光剣改めを手にしたリンは興奮した様子でドルトンに尋ね、彼の承諾を得ると試し切りに丁度いい物を探す。すると先ほどから様子を見ていたウルが試し切りに相応しい物を見つけて声を掛ける。
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