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第19話 最後の難関
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「あんた、まさか……やり遂げたのかい!?」
「はい……師匠のお陰です」
「そうか、よく一人で頑張ったね……」
マリアは自分の修行の意味を理解し、遂に自力で大岩を破壊したリンに涙を浮かべそうになった。だが、彼女は必死に泣きそうになる気持ちを抑えてリンをハクの背中に乗せた。
「大岩を壊した事は褒めてやるよ。だけど、まだ修行は終わりじゃないよ」
「えっ……」
「……最後の修行がまだ残っているだろう?」
疲れ切ったリンに対してマリアは水晶玉を取り出し、それをリンに見せつけた。リンは最後の修行である吸魔水晶の事を思い出し、彼女はこれからの修行は吸魔水晶に取り組むように告げる。
「もう朝と昼の稽古は必要ない、これからはこいつを使って修行しな」
「師匠……」
「これが最後の難関だよ。この修行を終えた時、もうあたしからあんたに教えられる事は何もない。だから、頑張るんだよ」
リンは吸魔水晶を渡され、この時に彼はマリアが吸魔水晶に触れているのに水晶玉に何の変化も起きていない事に気が付く。リンが触れた場合は吸魔水晶は彼の魔力を吸い上げて水晶玉の内部に白炎が発生する。しかし、何故かマリアの場合は水晶玉に変化が起きない。
(どうして師匠が触っても何も起きないんだ?)
吸魔水晶に毎日触れているだけにリンは不思議に思い、指一本でも触れた途端に吸魔水晶は磁石のように引き寄せ、触れた箇所から魔力を吸い上げる。しかも吸引力は半端ではなく、今のリンでさえも10秒も触れていれば意識を失う程に魔力を奪われてしまう。
魔法使いであるマリアもリンと同様に吸魔水晶を触れれば魔力を奪われるはずだが、今までにマリアが吸魔水晶を触れた時は一度も水晶玉の内部に反応がなかった事をリンは思い出す。
(師匠は触れても魔力を奪われない方法を知っている?それを師匠は自分で見つけるように言っているのかな?)
リンは差し出された吸魔水晶に視線を向け、もう殆ど魔力も残っていないので身体を動かす事もきついが、どうにか右手を伸ばして受け取ろうとした。
「うっ……」
「ほら、落とすんじゃないよ。しっかりと握っていな」
「クゥンッ……」
ハクの背中の上でリンは吸魔水晶を受け取ると、掌に張り付くように吸魔水晶が離れなくなってしまい、残された魔力も奪われていく。このままでは意識を失いそうになるが、ある事に気が付く。
(あれ?何だかいつもより……)
普段ならば触れた途端に魔力を吸い上げられてしまうが、今回は何故か吸魔水晶の吸引力が弱まり、魔力が殆ど残っていない状態のリンでも持ち上げる事ができた。
「やっぱり、今のあんたなら平気みたいだね」
「師匠、これは……」
「……今のあんたは自分の生命を維持するための魔力しか残っていない。だから肉体の方がこれ以上に魔力を奪われる事を拒否してるんだよ」
「拒否?」
マリアの言葉にリンは驚き、彼女によればリンは無意識のうちに吸魔水晶に魔力を奪われる事に抵抗しているらしく、そのお陰で殆ど魔力を奪われずに済んでいるらしい。
現在のリンは魔力が殆ど残っておらず、そのためにこれ以上に魔力を失うと命の危機に瀕する。そのため、肉体の方が勝手に魔力を奪おうとする吸魔水晶に抵抗し、魔力を体内に留めているという。
「吸魔水晶に対抗するには奪われそうな魔力を体内に留めるしかない。あんたは前の二つの修行を乗り越えた事でより一層に魔力を操る技術が向上されたんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「そう、あんたはとっくに最後の修行も負えていたんだよ」
前の二つの修行は魔力操作の技術を磨く修行であり、最後の修行は前二つの修行の集大成ともいえる。完全に自分の魔力を操れるようになった事でリンは何時の間にか三つの修行を終えていたのだ。
「おめでとう、これで本当にあたしがあんたに教えられる事は何もない」
「そんな……でも、僕はまだ師匠から学びたいんです!!」
「無理だね、あたしが教えられるのは魔力の扱い方だけさ。魔法使いでもないあんたにこれ以上の事を教える事なんてできないんだよ。だって、あたしは魔力使いじゃなくて魔法使いだからね」
「あっ……」
リンはマリアの言葉を聞いて自分がかつて口にした「魔力使い」という言葉を思い出す。マリアは魔法使いとしてリンが覚えられる範囲の技術を教えたが、魔法使いではない彼にはこれ以上の魔法の技術を教える事はできないという。
「これからは自分で考えて行動するしかないんだよ。勿論、どうしても困った時はあたしも協力してやるさ。だけど、あたしからあんたに教える事はもう何もない……ここから先は自分の力だけで生きていくしかないんだ」
「師匠……」
「情けない顔をするんじゃないよ、それでもあたしの弟子かい?魔法使いなんかになれなくても、あんたはあたしの自慢の弟子に変わりはないんだからね」
「う、ううっ……」
マリアの言葉にリンは涙を流し、遂に彼女の口から自分を弟子と認めてくれた事に感動する。そんな彼にマリアは頭を撫でて励ます。
「こんな事で泣くんじゃないよ、これだけ大きくなっても泣き虫だねあんたは……」
「う、うぁあああっ!!」
「クゥ~ンッ……」
この日にリンは子供のころ以来に大泣きしてしまい、そんな彼をマリアとハクは優しく宥めてくれた――
――それからさらに時が経過し、間もなく15才の誕生日を迎えるリンはかつてホブゴブリンに襲われた大樹に赴いていた。彼は大樹の前に立つと、精神を集中させるように目を閉じて右拳を握りしめる。
「ふうっ……」
大樹を前にして立ったリンは目を見開くと、彼の身体中の血管が浮き上がり、一瞬にして身体強化を発動させた。その状態でリンは右拳を振りかざすと、大樹に目掛けて突き出す。
「はあっ!!」
拳が大樹に触れる瞬間、彼の右拳を魔鎧が包み込む。その結果、大樹に強烈な衝撃が広がる。大樹は激しく揺れ動き、枝に実っていた木の実が大量に落ちてきた。
リンは大樹にめり込ませた拳を戻すと、既に魔鎧は消え去っていた。そして彼は頭上に目掛けて落ちてくる木の実を見て掌を伸ばし、魔力を集中させて今度は円盤状に伸ばした魔力の盾を作り出す。
「よし、今日は大量だな」
木の実が落ち切るまでリンは魔力の盾で防ぎ、やがて木の実が降って来なくなると地面に落ちた木の実を籠の中に放り込む。この大樹の木の実は殻は硬いが中身の身は美味しいため、定期的に訪れては回収を行う。
後にマリアから聞いたところによると、この大樹の名前は「世界樹」というらしく、なんでも世界が誕生した時から生え続けている樹木らしい。実際に世界が誕生した時から存在するのかどうかは不明だが、マリアが生まれるずっと前からこの場所に生えているという。
世界樹の木の実を回収したリンは拳を握りしめ、以前よりも魔力の操作が格段に上手くなっていた。だが、彼はこれでも満足しておらず、もっと強くなりたいと考えていた。
「そろそろ、かな」
リンは籠に木の実を背負った状態で自分の家に帰ろうとした。だが、先ほどの大樹を殴りつけた時の轟音を聞いてきたのか、森の中から狼の声が鳴り響く。
「ウォオオンッ!!」
「この声は……」
狼の声が聞こえた方角に視線を向けると、そこには一回り程大きくなったハクが駆けつけてきた。現在のハクは馬よりも大きく育ち、もう普通の狼とは比べ物にならない程に巨大さだった。
ハクはリンの元に駆けつけると、嬉しそうに尻尾を振って座り込む。リンはそんな彼を見て笑みを浮かべ、実を言えば彼と会うのは久しぶりである。
「はい……師匠のお陰です」
「そうか、よく一人で頑張ったね……」
マリアは自分の修行の意味を理解し、遂に自力で大岩を破壊したリンに涙を浮かべそうになった。だが、彼女は必死に泣きそうになる気持ちを抑えてリンをハクの背中に乗せた。
「大岩を壊した事は褒めてやるよ。だけど、まだ修行は終わりじゃないよ」
「えっ……」
「……最後の修行がまだ残っているだろう?」
疲れ切ったリンに対してマリアは水晶玉を取り出し、それをリンに見せつけた。リンは最後の修行である吸魔水晶の事を思い出し、彼女はこれからの修行は吸魔水晶に取り組むように告げる。
「もう朝と昼の稽古は必要ない、これからはこいつを使って修行しな」
「師匠……」
「これが最後の難関だよ。この修行を終えた時、もうあたしからあんたに教えられる事は何もない。だから、頑張るんだよ」
リンは吸魔水晶を渡され、この時に彼はマリアが吸魔水晶に触れているのに水晶玉に何の変化も起きていない事に気が付く。リンが触れた場合は吸魔水晶は彼の魔力を吸い上げて水晶玉の内部に白炎が発生する。しかし、何故かマリアの場合は水晶玉に変化が起きない。
(どうして師匠が触っても何も起きないんだ?)
吸魔水晶に毎日触れているだけにリンは不思議に思い、指一本でも触れた途端に吸魔水晶は磁石のように引き寄せ、触れた箇所から魔力を吸い上げる。しかも吸引力は半端ではなく、今のリンでさえも10秒も触れていれば意識を失う程に魔力を奪われてしまう。
魔法使いであるマリアもリンと同様に吸魔水晶を触れれば魔力を奪われるはずだが、今までにマリアが吸魔水晶を触れた時は一度も水晶玉の内部に反応がなかった事をリンは思い出す。
(師匠は触れても魔力を奪われない方法を知っている?それを師匠は自分で見つけるように言っているのかな?)
リンは差し出された吸魔水晶に視線を向け、もう殆ど魔力も残っていないので身体を動かす事もきついが、どうにか右手を伸ばして受け取ろうとした。
「うっ……」
「ほら、落とすんじゃないよ。しっかりと握っていな」
「クゥンッ……」
ハクの背中の上でリンは吸魔水晶を受け取ると、掌に張り付くように吸魔水晶が離れなくなってしまい、残された魔力も奪われていく。このままでは意識を失いそうになるが、ある事に気が付く。
(あれ?何だかいつもより……)
普段ならば触れた途端に魔力を吸い上げられてしまうが、今回は何故か吸魔水晶の吸引力が弱まり、魔力が殆ど残っていない状態のリンでも持ち上げる事ができた。
「やっぱり、今のあんたなら平気みたいだね」
「師匠、これは……」
「……今のあんたは自分の生命を維持するための魔力しか残っていない。だから肉体の方がこれ以上に魔力を奪われる事を拒否してるんだよ」
「拒否?」
マリアの言葉にリンは驚き、彼女によればリンは無意識のうちに吸魔水晶に魔力を奪われる事に抵抗しているらしく、そのお陰で殆ど魔力を奪われずに済んでいるらしい。
現在のリンは魔力が殆ど残っておらず、そのためにこれ以上に魔力を失うと命の危機に瀕する。そのため、肉体の方が勝手に魔力を奪おうとする吸魔水晶に抵抗し、魔力を体内に留めているという。
「吸魔水晶に対抗するには奪われそうな魔力を体内に留めるしかない。あんたは前の二つの修行を乗り越えた事でより一層に魔力を操る技術が向上されたんだ」
「じゃ、じゃあ……」
「そう、あんたはとっくに最後の修行も負えていたんだよ」
前の二つの修行は魔力操作の技術を磨く修行であり、最後の修行は前二つの修行の集大成ともいえる。完全に自分の魔力を操れるようになった事でリンは何時の間にか三つの修行を終えていたのだ。
「おめでとう、これで本当にあたしがあんたに教えられる事は何もない」
「そんな……でも、僕はまだ師匠から学びたいんです!!」
「無理だね、あたしが教えられるのは魔力の扱い方だけさ。魔法使いでもないあんたにこれ以上の事を教える事なんてできないんだよ。だって、あたしは魔力使いじゃなくて魔法使いだからね」
「あっ……」
リンはマリアの言葉を聞いて自分がかつて口にした「魔力使い」という言葉を思い出す。マリアは魔法使いとしてリンが覚えられる範囲の技術を教えたが、魔法使いではない彼にはこれ以上の魔法の技術を教える事はできないという。
「これからは自分で考えて行動するしかないんだよ。勿論、どうしても困った時はあたしも協力してやるさ。だけど、あたしからあんたに教える事はもう何もない……ここから先は自分の力だけで生きていくしかないんだ」
「師匠……」
「情けない顔をするんじゃないよ、それでもあたしの弟子かい?魔法使いなんかになれなくても、あんたはあたしの自慢の弟子に変わりはないんだからね」
「う、ううっ……」
マリアの言葉にリンは涙を流し、遂に彼女の口から自分を弟子と認めてくれた事に感動する。そんな彼にマリアは頭を撫でて励ます。
「こんな事で泣くんじゃないよ、これだけ大きくなっても泣き虫だねあんたは……」
「う、うぁあああっ!!」
「クゥ~ンッ……」
この日にリンは子供のころ以来に大泣きしてしまい、そんな彼をマリアとハクは優しく宥めてくれた――
――それからさらに時が経過し、間もなく15才の誕生日を迎えるリンはかつてホブゴブリンに襲われた大樹に赴いていた。彼は大樹の前に立つと、精神を集中させるように目を閉じて右拳を握りしめる。
「ふうっ……」
大樹を前にして立ったリンは目を見開くと、彼の身体中の血管が浮き上がり、一瞬にして身体強化を発動させた。その状態でリンは右拳を振りかざすと、大樹に目掛けて突き出す。
「はあっ!!」
拳が大樹に触れる瞬間、彼の右拳を魔鎧が包み込む。その結果、大樹に強烈な衝撃が広がる。大樹は激しく揺れ動き、枝に実っていた木の実が大量に落ちてきた。
リンは大樹にめり込ませた拳を戻すと、既に魔鎧は消え去っていた。そして彼は頭上に目掛けて落ちてくる木の実を見て掌を伸ばし、魔力を集中させて今度は円盤状に伸ばした魔力の盾を作り出す。
「よし、今日は大量だな」
木の実が落ち切るまでリンは魔力の盾で防ぎ、やがて木の実が降って来なくなると地面に落ちた木の実を籠の中に放り込む。この大樹の木の実は殻は硬いが中身の身は美味しいため、定期的に訪れては回収を行う。
後にマリアから聞いたところによると、この大樹の名前は「世界樹」というらしく、なんでも世界が誕生した時から生え続けている樹木らしい。実際に世界が誕生した時から存在するのかどうかは不明だが、マリアが生まれるずっと前からこの場所に生えているという。
世界樹の木の実を回収したリンは拳を握りしめ、以前よりも魔力の操作が格段に上手くなっていた。だが、彼はこれでも満足しておらず、もっと強くなりたいと考えていた。
「そろそろ、かな」
リンは籠に木の実を背負った状態で自分の家に帰ろうとした。だが、先ほどの大樹を殴りつけた時の轟音を聞いてきたのか、森の中から狼の声が鳴り響く。
「ウォオオンッ!!」
「この声は……」
狼の声が聞こえた方角に視線を向けると、そこには一回り程大きくなったハクが駆けつけてきた。現在のハクは馬よりも大きく育ち、もう普通の狼とは比べ物にならない程に巨大さだった。
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