上 下
7 / 71

第7話 光刃

しおりを挟む
――マリアに助けてもらって無事に家に帰った後、その夜にリンはベッドの上で自分の指を眺める。意識を集中させて魔力を指先に集めると、白炎を光の刃へと変化させた。


「……できた」


折れた短剣の刃を魔力で再現した時のように、今度は指先に魔力を集中させて刃物を作り出す。指先にできあがった光の刃を見てリンは名前を付ける事にした。


「光刃、と呼ぼうかな。名前がないとあれだし……」


今度からは魔力で造り出した刃の事を光刃と呼ぶ事に決め、指先で造り出した光刃を見つめながら身体を起き上げる。光刃の切れ味を確かめるために何かないのかと部屋の中を見渡すと、昼間に刃が折れた短剣を発見した。

刃が折れたので短剣はもう使い物にならず、マリアからも捨てるように言われた。リンは短剣の柄の部分を持ち上げると、光刃を近づけて切れるかどうかを確かめる。


「くっ、意外と硬いな……」


指先の光刃を短剣の柄の部分に構え、そのまま切りつけるが時間が掛かってしまう。光刃は鉄以上の硬度を誇るが切れ味の方はそれほどでもなく、柄を切りつける事ができたが切断には至らない。


「このままじゃ駄目か。もっと刃の切れ味を上げるには……」


意識を集中させてリンは光刃の形状を更に鋭くさせると、その状態で柄に振りかざす。すると今度はあっさりと切り裂く事ができた。


「あ、切れた!?」


刃物の形を変えた途端に簡単に切れた事にリンは驚き、これならば武器としても十分に扱えそうだった。この方法を一角兎と戦う前から知っていればあれほど苦戦する事はなかったかもしれない。


「これは魔法……とは違うのかな?」


光刃を見つめながらリンは自分が魔法を覚えたのかと思ったが、あくまでも光刃は魔力を「硬質化」させただけに過ぎず、マリアの扱うような魔法とは言えない。

ちなみにマリアは風の魔法を得意としており、昼間に彼女が使った魔法は「スラッシュ」と呼ばれるの魔法だとリンは教えて貰った。マリアによれば魔法といっても様々な種類が存在し、その中で彼女が得意とするのは風を操る魔法だと語る。



――この世界の魔法の種類は「風」「火」「水」「雷」「地」「聖」「闇」の七種類に分かれており、種類以外に魔法には段階が存在する。例えばマリアが使用した「スラッシュ」の魔法は風属性の魔術師が最初に覚える「初級魔法」と呼ばれ、他には「中級魔法」や「上級魔法」が存在する。

段階が上がる事に魔力消費量も増えるが威力も大幅に上昇し、一流の風属性の魔術師ならば竜巻を作り出す事もできるらしい。しかし、自分の力量以上の魔法を使えば命を削る危険な行為と化す。


「僕の光刃はどの属性なんだろう……色合い的には聖属性かな?」


白色に光り輝く光刃を見てリンは不思議に思い、聖属性の魔法は白色の光を放つと聞いた事があるので彼は光刃の正体が聖属性の魔力かと思った。しかし、形を定める前のリンの魔力は白色の炎を想像させるため、もしかしたら火属性の可能性もある。


「う~ん……考えても分からないし、とりあえずはこれをどう扱っていくかな」


指先に作り出した光刃を見つめ、これからリンは魔力を利用した戦闘法を編み出す事にした。昼間に魔物に襲われた事を思い返し、危うく自分とハクが死にかけた事を思い出して身体が震えた。

マリアによればこの森に魔獣が現れた事自体が珍しく、本来ならば一角兎もファングもこの森には生息しない魔獣だった。それが急に現れた事を考えたらもしかしたら森の中の生態系に大きな変化があったのかもしれず、これから森の中で生きていくのならば身を守る術は身に付けておかなければならない。


(ハクは僕のせいで怪我をしたんだ……今は元気になったけど、あの時に僕がしっかりと戦っていればあんな怪我をさせなかったのに)


ハクはリンを守るために二度も一角兎からの攻撃を庇ってくれ、もしも最初からリンが光刃を扱いこなしていればハクが怪我を負う前に一角兎を仕留める事ができた。だからリンはこれからは魔獣に襲われても自分で対処できるように戦う術を身に付ける事にした。


「強くなるんだ、今度は僕が守るんだ」


もうを失うのは嫌だと思ったリンは自ら強くなり、どんな危険な相手が現れても自分一人で戦える力を身に付けるため、もっと魔力を使いこなした戦法を考える事にした――





――色々と悩んだ末にリンは最初に取った行動は本棚を漁り、魔力に関する知識を深める事にした。そして彼は自らの魔力を増やす方法を見つけ出す。


「あった!!これをすれば魔力を伸ばす事ができるのか……」


本を読んだ結果、リンは魔力を増加させる方法が記された書物を見つけた。この書物によれば魔力を伸ばすためには限界まで魔力を使い果たし、その後に魔力を完全回復させる。それを繰り返す事で徐々に魔力の限界量を伸ばす事ができるという。


「何度も魔力を使い切って回復するのを繰り返せば魔力が増えていくのか……あれ、だけど魔力を使い切ったら大変な事になるんじゃ……」


過去にリンは魔力を使い果たしたせいで倒れた事を思い出し、あの時は夜に外で魔力を操る訓練をしていた。この時はマリアに助けられてもらい、寝ぼけて外に出て眠ってしまったと誤魔化したが、あの時の事を思い出すだけで顔色が悪くなる。

魔力を使い果たすと激しい頭痛と疲労感に襲われて意識を保てなくなり、数時間の間は眠り続ける。起きた後も身体が重くてしばらくはまともに動けず、ずっとベッドで身体を休める羽目になった。


「あんなのを何度も体験しないといけないのか……ほ、他に方法はないのかな?」


リンは魔力を使い切った時の出来事を思い出し、魔力を使い切る以外に魔力を伸ばす方法がないのかを調べた。すると本には別の方法が記されており、大抵の魔術師はこちらの方法を利用して魔力を伸ばしている事が判明した。


「何々……一般の魔術師は魔力を回復させる特殊な薬草を調合し、それを日頃から飲用することで魔力の限界量を伸ばす。注意すべき点は毎日少量ずつ飲用する事であり、下手に飲み過ぎた場合は体調不良を引き起こす、か」


魔力を回復させる薬草に関してはリンもマリアから聞いた事があり、この森に生えている貴重な代物だった。マリアは時々森に出向いてはこの薬草を採取し、それを利用して薬を作っている。


(師匠が時々飲んでいる青色の液体の薬、もしかしたらあれが魔力を回復させる薬なのかも……でも、勝手に僕が飲んだら絶対に怪しまれるよな)


マリアならば魔力を回復させる薬を調合して保管しているだろうが、それを無断で飲む事は流石にできない。そうなるとリンが残された手段は一つしかなく、彼はこの日から魔力を伸ばす方法を実践する。


「やるしかない、か……」


薬を当てにできない以上はリンが残された手段は魔力を使い切り、自然回復するまで身体を休ませるという手段だけだった。この方法ならば薬などいらず、時間さえあれば何度でも試す事はできる。だが、魔力を使い切る度に彼は意識が保てないほどの苦痛と疲労感を味わう羽目になる。

本音を言えば薬を飲む手段の方が手っ取り早く、大した苦労も味わわずに済む。しかし、マリアに迷惑を掛ける事はできないと判断したリンはこれから毎晩は魔力を使い切り、魔力を回復させて限界量を伸ばす手段を実行した――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

性転換スーツ

廣瀬純一
ファンタジー
着ると性転換するスーツの話

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...