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冒険者の試験

閑話 《大魔導士に最も近い魔術師》

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――時はレノが試験から帰還を終えた後まで遡り、レノの祖母であるマリアはダガンと別れた後に王都に存在する冒険者ギルドへ赴く。王都にはいくつもの冒険者ギルドが存在するが、その中でも魔術師が最も多く所属しているのは「氷雨」という名前のギルドだった。

三大ギルドの一つである「氷雨」は数十年前に創設された冒険者ギルドであり、ギルドマスターを勤めるのは創設者の「アメリア」という名前の女性だった。彼女は元々は腕利きの冒険者だったが、ある日を境に冒険者を引退して自分を慕う冒険者を集めて冒険者ギルドを作り上げた。


「アメリアはいるかい?」
「えっと……どちら様でしょうか?」
「マリアが来たと伝えな」
「は、はあっ……」


氷雨のギルドに訪れたマリアは受付嬢にアメリアに会いに来た事を伝えると、受付嬢は要望通りに連絡すると、すぐに応接室に通すように伝えられた――





――受付嬢に連れられてマリアは応接室に訪れると、既に目的の人物は待ち構えていた。応接室には二人分の紅茶を準備をする女性が存在し、それを見たマリアは声を掛ける。


「……まさかあんたとこうして顔を合わせる事になるとはね。いったい何年ぶりだい?」
「そうね……30年は経っているわね」


マリアの視界には年齢は20代前半ぐらいの金髪の女性が座っており、外見は若々しいが実はマリアよりも年齢は年上だった。彼女はエルフと呼ばれる種族で人間よりも寿命が長いので実年齢は100才に近いのに外見は20代の姿を保っている。

世間ではこの国の中で最も「大魔導士」の称号に近い魔術師だと聞かれた場合、誰もが氷雨のギルドマスターのアメリアの名前を口にする。その理由は彼女こそがヒトノ国で最も有名な魔術師であり、そんな相手とマリアは子供の頃からの付き合いがあった。


「それで今日はどんな用件かしら?私の顔を見に来ただけではないのでしょう」
「ふん、当たり前さ。単刀直入に言わせてもらうよ……うちの孫に手を出すんじゃないよ」
「……何の話かしら?」


アメリアはマリアの言葉を聞いても全く動じずに優雅に紅茶を飲む。そんな彼女の態度にマリアは苛つきながらも冷静に話を続けた。


「大方、あんたの事だからうちの孫がイーシャンの所に通っているのは知っていたんだろう?」
「いいえ、貴方の孫が家を飛び出した時から噂はよく耳にしていたわ」
「何だって!?ならまさかあいつが学園に来る前から目を付けてたのかい!?」


マリアはアメリアの返答に動揺を隠せず、レノが学園に入学する前からアメリアは彼の存在を把握していた事に驚く。


「貴女に孫が生まれたという噂を聞いた時からどんな子なのか気になっていたわ。ずっと会ってみたいとも思っていたのよ。でも、まさかお祖母さんと喧嘩して家を飛び出すようなやんちゃな子だとは夢にも思わなかったけど……」
「くっ……相変わらず嫌味な奴だね!!」


昔からの付き合いだがマリアはアメリアの事を苦手としており、今回だって用事が無ければ彼女に会いに来るつもりはなかった。しかし、どうしてもアメリアに会って話をしなければならない事があった。


「だったら話は早い!!あいつが試験に合格しても他のギルドに所属させるから妙な真似をするんじゃないよ!!」
「どういう意味かしら?私としては貴女の孫ならうちで面倒を見たいと思ってるのだけど?」
「それは……それだけは駄目だね」


アメリアの言葉を聞いてマリアは首を振り、どうしてもレノをアメリアの元に行かせるわけにはいかなかった。しかし、アメリアとしてもちゃんとした理由を聞かなければ納得はできない。


「どうして私に預けるのを嫌がるのかしら?可愛いお孫さんを私がいじめると思っているとしたら心外ね」
「いや、そういうわけじゃ……」
「ならどういう事か説明してくれるかしら?いくら私と貴女の仲でも理由も教えてくれないのなら承諾できないわ」
「……分かったよ」


久しぶりに再会した相手に一方的に要求するのは流石にマリアもばつが悪く、彼女は改めてアメリアと向かい合う形で座る。二人は机の上の紅茶を口に含み、しばらくの間は黙り込む。

紅茶を飲んで心が落ち着いたマリアはアメリアに何処から話すべきか悩み、とりあえずはレノが自分の元を出て行った経緯を簡単に話す事にした。


「あの子が……うちの孫のレノが家出をしたのは5年前さ」
「知っているわ。10才の子供に家出を決意するなんてどんな酷い事を言ったのかしら?」
「う、うるさい!!こっちだって反省してるんだから茶化すんじゃないよ!!」


マリアはレノが出て行った後に彼に酷い言葉を告げてしまった事を後悔したが、レノの意志を尊重して彼を連れ戻すような真似はしなかった。


「あの子に魔法の才能がある事が発覚した時、あたしは大魔導士になる夢を託そうと思った。だけど、あの子は収納魔法しか扱えない事が分かった時……あたしはあの子に取り返しのつかない事を言ってしまった」
「……収納魔術師は大魔導士になれないと伝えたのね?」


アメリアはマリアが言い終える前に彼女がレノに投げかけた言葉を予想する。もしもアメリアがマリアと同じ立場だった場合、きっと同じことを言っていた。


「あの時のあたしはどうかしてたんだ。小さな子供にあんなひどい真似をするなんて……」
「……それで彼はどうしたの?」
「すぐに家を出て行ったよ。まだ10才そこらの子供が家を飛び出すなんて……よほど傷ついたんだろうね」


まさか家出する思わずにマリアはレノを追いかけようとしたが、彼を引き留める事はできなかった。追いかけて連れ戻したとしてもマリアはレノと今まで通りに接する自信がなく、そのために彼に会いに行く事もできずにいた。


「収納魔術師が大魔導士になる事は有り得ない。だから現実を見て自分に見合った職業に就くべきだと伝えようとした。だけど、あの子がそもそも大魔導を目指した理由はあたしのせいなんだよ」
「……どういう意味かしら?」
「あの子がまだ小さい時、あたしは大魔導士を目指していた頃の話をしたんだ。森の中では碌な娯楽がないからね、あたしの昔話をまるで絵本を読み聞かせる時のように楽しく聞いてたんだ」


レノが大魔導士を目指す切っ掛けを与えたのは紛れもなくマリアであり、彼女は大魔導士がどれほど凄い存在であるのかを語る。若かりし頃のマリアは本気で大魔導士を目指していたが、色々とあって夢を断念する。

もしかしたらマリアがレノに自分の昔話を聞かせた理由は、自分がなれなかった大魔導士の夢をレノが引き継いでくれる事を期待していたのかもしれない。しかし、彼が収納魔術師である事を知ってマリアはレノには自分の夢を託す事はできないと思った。
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