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少年の過去 《冒険者養成学園》
閑話 《教師として》
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「――もう行ったぞ、何時まで狸寝入りをしておる」
「……やはり気付いてましたか」
レノが医療室を去るとイーシャンはベッドで横たわっているダガンに声を掛けた。眠っているふりをして自分達の話を盗み聞きしていた彼にイーシャンはため息を吐き出す。
「聞いての通りじゃ、あの子は不正をしてお主を倒したわけではない。納得したか?」
「ええ、よく分かりました。しかしまさか収納魔法を使っていたとは……」
「ふん、あんな小僧に後れを取るとはお主も老いたな」
「言い返す言葉もありません」
イーシャンの言葉にダガンは悔しがる様子もみせず、素直に自分の敗北を認めた。そんな彼にイーシャンは前々から気になっていた事を尋ねる。
「どうしてお主はあの坊主に対してだけ厳しく接する?まさか子供の生徒が気に入らないからいじめているわけではあるまい」
「……先生は去年に入学した生徒がどれほど残っているか知っていますか?去年は40人も加入しましたが、残っている生徒は10人にも満たしていません。しかも子供の生徒はあの子だけです」
「なんと……」
去年に入学した生徒の中で子供の生徒はレノ一人しか残っておらず、彼と同世代の子供は最初の一年目で全員が辞めてしまった。過酷な訓練に耐え切れずに子供達は辞めてしまい、もう残っているのはレノだけだった。
「私としてはそもそも子供を学園に入学させる事自体に反対なのです。まだ身体が成熟しきっていない人間を無理やりに鍛え上げ、しかも命を落とす危険性が高い冒険者の職に就かせるなんて……」
「それでお主はあの子を厳しく指導していたというのか。あの子が自分から学園を去るまで扱くつもりだったのか?」
「その通りです。しかし、まさかあれほどの力を持っていたとは……」
ダガンがレノを徹底的に痛めつけていたのは彼なりにレノの心配をしていたからであり、このまま学園に通い続ければレノの身体が壊れる危険性もあった。万が一にも学園を卒業して冒険者になれたとしても、彼が仕事で命を落とす可能性は高い。
子供の生徒が冒険者になった後に死ぬ確率は非常に高く、かつてダガンが指導した子供達も何十人も死亡した。だからこそダガンはこれ以上に子供の犠牲を防ぐため、学園に入学した子供の生徒には厳しく指導を行ってきた。
「お主の気持ちは分からんでもないが、流石にやり過ぎじゃろう。どうしてあんな痛めつける真似をした?他にもやり方はいくらでもあっただろう」
「痛みを教える事が一番手っ取り早いんですよ。痛みを与えれば大抵の子供は怖気づいてしまいます。しかし、あの子の場合はどうやら逆効果だったようだ……」
「分かっておると思うが、あの子の魔法の秘密は誰にも明かすんじゃないぞ。それをしたらお主は教師失格じゃ」
「分かっています。決して誰にも口外しません……私ではもうあの子を止められませんからね」
レノの強さを思い知ったダガンはこれからは彼が冒険者に成る事を邪魔をするのを止め、教師としてレノの手助けをするつもりだった。レノは普通の子供とは違い、一人前の冒険者になれるだけの器を持っていると彼は信じていた。
「先生もどうかあの子の事を目にかけてください」
「ふん、儂が面倒を見る義理はないわ……どんな怪我をしたとしても儂が必ず治してやる。これでいいか?」
「ありがとうございます」
イーシャンの言葉にダガンは深々と頭を下げ、そんな彼を見てイーシャンは苦笑いを浮かべる。生徒達には誤解されやすいがダガンほど真面目に生徒達の事を大切に想う教師はいない。生徒に嫌われようとダガンは彼等のためならば悪役になる覚悟はあった。
この後にダガンはレノを訓練で集中的に痛めつけるような真似はせず、彼が冒険者になれるように適切な指導を行うようになる――
「……やはり気付いてましたか」
レノが医療室を去るとイーシャンはベッドで横たわっているダガンに声を掛けた。眠っているふりをして自分達の話を盗み聞きしていた彼にイーシャンはため息を吐き出す。
「聞いての通りじゃ、あの子は不正をしてお主を倒したわけではない。納得したか?」
「ええ、よく分かりました。しかしまさか収納魔法を使っていたとは……」
「ふん、あんな小僧に後れを取るとはお主も老いたな」
「言い返す言葉もありません」
イーシャンの言葉にダガンは悔しがる様子もみせず、素直に自分の敗北を認めた。そんな彼にイーシャンは前々から気になっていた事を尋ねる。
「どうしてお主はあの坊主に対してだけ厳しく接する?まさか子供の生徒が気に入らないからいじめているわけではあるまい」
「……先生は去年に入学した生徒がどれほど残っているか知っていますか?去年は40人も加入しましたが、残っている生徒は10人にも満たしていません。しかも子供の生徒はあの子だけです」
「なんと……」
去年に入学した生徒の中で子供の生徒はレノ一人しか残っておらず、彼と同世代の子供は最初の一年目で全員が辞めてしまった。過酷な訓練に耐え切れずに子供達は辞めてしまい、もう残っているのはレノだけだった。
「私としてはそもそも子供を学園に入学させる事自体に反対なのです。まだ身体が成熟しきっていない人間を無理やりに鍛え上げ、しかも命を落とす危険性が高い冒険者の職に就かせるなんて……」
「それでお主はあの子を厳しく指導していたというのか。あの子が自分から学園を去るまで扱くつもりだったのか?」
「その通りです。しかし、まさかあれほどの力を持っていたとは……」
ダガンがレノを徹底的に痛めつけていたのは彼なりにレノの心配をしていたからであり、このまま学園に通い続ければレノの身体が壊れる危険性もあった。万が一にも学園を卒業して冒険者になれたとしても、彼が仕事で命を落とす可能性は高い。
子供の生徒が冒険者になった後に死ぬ確率は非常に高く、かつてダガンが指導した子供達も何十人も死亡した。だからこそダガンはこれ以上に子供の犠牲を防ぐため、学園に入学した子供の生徒には厳しく指導を行ってきた。
「お主の気持ちは分からんでもないが、流石にやり過ぎじゃろう。どうしてあんな痛めつける真似をした?他にもやり方はいくらでもあっただろう」
「痛みを教える事が一番手っ取り早いんですよ。痛みを与えれば大抵の子供は怖気づいてしまいます。しかし、あの子の場合はどうやら逆効果だったようだ……」
「分かっておると思うが、あの子の魔法の秘密は誰にも明かすんじゃないぞ。それをしたらお主は教師失格じゃ」
「分かっています。決して誰にも口外しません……私ではもうあの子を止められませんからね」
レノの強さを思い知ったダガンはこれからは彼が冒険者に成る事を邪魔をするのを止め、教師としてレノの手助けをするつもりだった。レノは普通の子供とは違い、一人前の冒険者になれるだけの器を持っていると彼は信じていた。
「先生もどうかあの子の事を目にかけてください」
「ふん、儂が面倒を見る義理はないわ……どんな怪我をしたとしても儂が必ず治してやる。これでいいか?」
「ありがとうございます」
イーシャンの言葉にダガンは深々と頭を下げ、そんな彼を見てイーシャンは苦笑いを浮かべる。生徒達には誤解されやすいがダガンほど真面目に生徒達の事を大切に想う教師はいない。生徒に嫌われようとダガンは彼等のためならば悪役になる覚悟はあった。
この後にダガンはレノを訓練で集中的に痛めつけるような真似はせず、彼が冒険者になれるように適切な指導を行うようになる――
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