解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き抜きます

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
122 / 367
獣人王国編

第122話 聖水

しおりを挟む
「……という事だ、吸血鬼の件を解決しない限りはこの街から簡単に出られそうにないな」
「リル様に対してそのような無礼な口を……おのれ、許せん!!」
「落ち着いて、リルが正体を晒してないんだから仕方ない」
「ネコミンの言う通りだ。彼等に罪はない、生き残るのに必死なんだ」


街の防衛を行う警備兵のリルに対する態度にチイは激怒するが、彼女は正体を明かしてはおらず、あくまでも一介の冒険者としか名乗っていない。王女であるなどと迂闊に話せば騒ぎになる事は間違いなく、迂闊に正体は軽々しく話せない。

但し、いつまでもこの街に留まるわけにはいかず、アンデッドの一件を何とかしない限りは街の住民も貴重な戦力であるリル達を外に出す様子はない。現にリル達を監視するように兵士が距離を置いて監視を行っており、まるで囚人になったような気分を味わったレイナはため息を吐き出す。

ちなみにレイナが女性のままなのは吸血鬼の「魅了」の件もあり、もしもアンデッドを作り出している吸血鬼が女性だった場合を想定し、もうしばらくはこの姿のままで居る事にした。吸血鬼が男性の可能性があるが、女性の姿の方が色々と都合がいい部分があった。


「ふむ、こうも見られているのは確かに気分が良くないな。レイナ君、また頼んでいいか?」
「またですか……あれ、凄く気持ち悪いんですけど」
「そういわずに頼むよ。後でチイの尻尾を触っていいから」
「仕方ないですね……」
「ちょっと、どうして私の尻尾なんですか!?」


リルの巧妙な話術に諭されて仕方なくレイナは兵士達の元に歩み寄ると、彼らは自分達が見ていた事に気付かれたのか慌てて顔を逸らす。そんな彼等に対してレイナは意識を集中させ、新しく覚えた「魅了」の能力を発動させた。

魅了を発動させた途端、レイナの姿を見た兵士達は突如として恍惚な表情を浮かべ、彼女の姿を見るだけで心臓の鼓動が早まり、何ともいえない感覚へと陥る。そんな彼等に対してレイナは微笑み、頬に手を伸ばすと命令を下す。


「すいません、しばらくの間は離れていてくれませんか?」
「は、はひっ……」
「分かりました……」


兵士達はレイナの言葉に逆らえず、身体をふらつかせながらもその場を離れるのを確認すると、レイナはため息を吐き出してリル達の元へ戻る。吸血鬼を倒したときに覚えた能力なのだが、この能力の効果は「異性」にしか効かず、同性には効果がない。だからこそレイナは男性の兵士が多いこの場所では女性の姿でいる理由の一つでもある。


「ふふふ、流石だな。大分、悪女のふりも様になって来たね」
「妙な色気を感じたぞ……」
「自然な流れで頬を触れたのは流石だと思う」
「やかましいっ……チイと一緒に尻尾をもふるぞ」
「あうっ……そ、そこは駄目」
「こ、こら……少しだけだぞ……あ、やんっ」


約束通りにチイの尻尾を触りながらもレイナは城壁の外の様子を調べ、既に時刻は夕方を迎え、アンデッドが目覚める時刻が訪れようとしていた。アンデッドに対抗するには聖属性の魔力を宿す武器、あるいは聖属性の魔法しか効果がない。なので今回はリル達も準備を整えていた。


「皆、聖水は用意しろ。アンデッドが現れ次第、武器に塗り込むんだ」
「この白く光る水が聖水なんですか?」
「ああ、本来は回復薬の一種だが、回復効果は薄い。但し、聖属性の魔力を宿しているから死霊系の魔物には効果が高い」


街に赴いてリル達は「陽光教会」と呼ばれる場所から聖水と呼ばれる薬を受け取っていた。リル曰く、回復薬のように傷を癒す薬だが、殆どの人間は死霊系の魔物との対戦の時に利用する液体らしい。ちなみに陽光教会とはこの世界で信仰されている「太陽の神」を祀る教会であり、この世界でたった一つしか存在しない宗教団体という。

街に存在する陽光教会は聖水を兵士達に配る事で彼等もアンデッドに対抗する手段を身に着け、どうにか今日までは持ちこたえてきたという。だが、警備兵の数は少なく、戦闘に参加している住民の多くはこれまでに魔物と戦ったこともないため、戦力が高いとは言い切れない。頼りになるのは冒険者だけだが、その冒険者達も連日の襲撃で被害を受けている。


「聖水は武器に振りかければしばらくの間は聖属性の魔力を宿す。だが、聖剣ほど絶大な効果はない。せいぜい、着られた箇所が再生を果たさなくなる程度の効果しか生み出さない事を気を付けろ」
「つまり、完全に倒す事は出来ないんですね?」
「ああ、アンデッドの戦闘で頼りになるのはレイナ君だ。私達では聖剣が扱えない以上、君だけが頼りになる」
「責任重大ですね……」
「そうだ!!レイナ、お前の能力でこの聖水も強化する事は出来ないのか?そうすればもっと役に立つ可能性も……」
「あ、なるほど。それは確かに試す価値があるかも……」
「流石はチイ、機転が回る」


チイの言葉にレイナも賛同し、彼女から聖水を受け取って「解析」を発動させる。そして視界に表示された詳細画面を見て思い悩む。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...