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獣人王国編
第112話 廃村
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――無事に元の姿へと戻り、これからは変装する必要もなくなったレア達は精神的な疲労から解放される。常に正体が気付かれないように振舞うのはきつく、全員の足取りは軽かった。
しかし、牙路を抜け出しても獣人王国の王都までの道のりは遠く、すぐに王都へ辿り着けるわけではない。獣人王国は山が多く、治安に関してはヒトノ帝国よりも良いとは言えず、道中に盗賊や山賊などと遭遇する可能性も高い。
まずはリル達の案内の元で牙路から一番近い村に訪れ、そこで身体をしっかりと休んだ後に旅の準備を整えるつもりだったが、レア達は辿り着いた村の光景を見て唖然とする。
「こ、これは……?」
「……廃村?」
「いや、最近までは人が住んでいる様子がある。だが、この惨状はいったい……」
「酷い……」
辿り着いた村には人の気配なく、建物殆どは半壊、村を取り囲む柵は破壊されていた。様子を観察する限りでは最近までは人間が暮らしていた痕跡は残っており、少なくとも少し前までは人間が存在したのは間違いない。
最初にレナ達が考えたのはこの村は魔物に襲われたのかと考えたが、家畜小屋の中には生き残った鶏、牛、馬も残っており、何日も餌を与えられていないのか衰弱した様子だったが死んではいない。この事から最近まで人が世話をしたのは間違いなく、同時に魔物が襲ってきたとしたら真っ先に狙われるはずの家畜が無事な事が不可解だった。
「家畜は無事か……となると、魔物に襲われたとは考えにくいな」
「では盗賊の仕業でしょうか?人攫いで村人全員を連れ出したとか……」
「それはそれで家畜を放置するのはおかしい。わざわざ人間だけを連れて行く理由がない」
「じゃあ、やっぱり魔物の仕業?」
「いや……村を一通り回ってみたが死体が一つも存在しない。もしも魔物に襲われたとすれば死体がないのはおかしい。当然、盗賊が襲ってきたとしても誰一人殺さずに連れ帰るというのもおかしな話だ」
村の大きさから考えても少なくとも数十人の人間は暮らしていたはずだが、その全員が姿を消した事になる。家畜小屋の鶏や馬は生き残り、半壊した建物の中を探ると貴重品の類も残っていた。
魔物の仕業だとすれば人間の死体が無いのはおかしく、そもそも魔物が人間を攫うという事態は滅多に陥らない。野生の魔物にとって人間はあくまでも「餌」の対象にしか過ぎず、わざわざ数十人の人間を同時に攫うという面倒な真似をする必要性がない。
ならば人攫いが目的の盗賊が訪れたと考えるべきだろうが、それならば食糧として鶏や牛、移動手段として利用できる馬を放置する理由がない。人間だけを連れ去るという行為にレア達は疑問を抱く。
「人間だけが消えた村……何ともおかしな話だ」
「ふむ……恐らく数日前まではこの村に人間がいたのは間違いない。だが、そうなると人間を連れ去ったのが何者なのか気になるな」
「どうしますかリル様?」
「牙路を抜けた事で我々も時間の余裕が出来た。一先ずは今夜はここで一晩明かして様子を見よう」
「分かりました」
リルの提案にレアは頷き、この村の調査も兼ねて一行はここで夜を明かす事を決めた――
――衰弱した家畜たちの世話はチイが行い、その間にリルとネコミンは街の様子を調べ、一方でレアは文字変換の能力を使用してキャンピングカーを作り出す。今日は文字変換を多用したのでもう文字数に余裕は無いが、身体を休ませる必要があるのでキャンピングカーに頼るしかない。
リル達が戻るまでにレアは料理の準備を行い、その間にクロミンはシロとクロとキャンピングカーのすぐ傍で遊ぶ。傍から見ると狼2匹が黒いボールを巡って争っているようにしか見えないが、当人たちは楽し気に遊んでいる。
「ぷるぷるっ!!」
「ウォンッ!!」
「キャンキャンッ!!」
「元気そうだな……そういえばクロミンは何を食べるんだろう?まさか、あの姿の状態で牙竜の死体を食べたりしないだろうな……」
種族が「下位竜種」から「スライム」に変化したクロミンが何を食べるのか気になったレナは、後でリル達にスライムの好物を聞くことにして料理に集中する。ちなみに作る料理は材料の問題で「カレー」しか用意出来ず、皆が戻るまでに人数分の食事を用意しなければならない。
夜が暮れてきたころ、調査を終えたリルとネコミン、そして疲れた表情のチイが戻るとレアはキャンピングカーにて出迎える。
「お帰りなさい、ご飯にする?お風呂にする?」
「ふむ、ならレナ君にしよう」
「リル様!?」
「定番の返し方……ちなみにレナを選んだらどうなる?」
「いや、そういわれても……マッサージするとか?」
「それなら風呂上りにチイにしてやってくれ。随分と疲れているようだからな」
「いや、私は平気です!!それよりも実は気になる物を見つけました」
チイはハンカチを取り出すとレア達に差しだし、ハンカチの中に包んでいた「金色の髪の毛」を見せた。
しかし、牙路を抜け出しても獣人王国の王都までの道のりは遠く、すぐに王都へ辿り着けるわけではない。獣人王国は山が多く、治安に関してはヒトノ帝国よりも良いとは言えず、道中に盗賊や山賊などと遭遇する可能性も高い。
まずはリル達の案内の元で牙路から一番近い村に訪れ、そこで身体をしっかりと休んだ後に旅の準備を整えるつもりだったが、レア達は辿り着いた村の光景を見て唖然とする。
「こ、これは……?」
「……廃村?」
「いや、最近までは人が住んでいる様子がある。だが、この惨状はいったい……」
「酷い……」
辿り着いた村には人の気配なく、建物殆どは半壊、村を取り囲む柵は破壊されていた。様子を観察する限りでは最近までは人間が暮らしていた痕跡は残っており、少なくとも少し前までは人間が存在したのは間違いない。
最初にレナ達が考えたのはこの村は魔物に襲われたのかと考えたが、家畜小屋の中には生き残った鶏、牛、馬も残っており、何日も餌を与えられていないのか衰弱した様子だったが死んではいない。この事から最近まで人が世話をしたのは間違いなく、同時に魔物が襲ってきたとしたら真っ先に狙われるはずの家畜が無事な事が不可解だった。
「家畜は無事か……となると、魔物に襲われたとは考えにくいな」
「では盗賊の仕業でしょうか?人攫いで村人全員を連れ出したとか……」
「それはそれで家畜を放置するのはおかしい。わざわざ人間だけを連れて行く理由がない」
「じゃあ、やっぱり魔物の仕業?」
「いや……村を一通り回ってみたが死体が一つも存在しない。もしも魔物に襲われたとすれば死体がないのはおかしい。当然、盗賊が襲ってきたとしても誰一人殺さずに連れ帰るというのもおかしな話だ」
村の大きさから考えても少なくとも数十人の人間は暮らしていたはずだが、その全員が姿を消した事になる。家畜小屋の鶏や馬は生き残り、半壊した建物の中を探ると貴重品の類も残っていた。
魔物の仕業だとすれば人間の死体が無いのはおかしく、そもそも魔物が人間を攫うという事態は滅多に陥らない。野生の魔物にとって人間はあくまでも「餌」の対象にしか過ぎず、わざわざ数十人の人間を同時に攫うという面倒な真似をする必要性がない。
ならば人攫いが目的の盗賊が訪れたと考えるべきだろうが、それならば食糧として鶏や牛、移動手段として利用できる馬を放置する理由がない。人間だけを連れ去るという行為にレア達は疑問を抱く。
「人間だけが消えた村……何ともおかしな話だ」
「ふむ……恐らく数日前まではこの村に人間がいたのは間違いない。だが、そうなると人間を連れ去ったのが何者なのか気になるな」
「どうしますかリル様?」
「牙路を抜けた事で我々も時間の余裕が出来た。一先ずは今夜はここで一晩明かして様子を見よう」
「分かりました」
リルの提案にレアは頷き、この村の調査も兼ねて一行はここで夜を明かす事を決めた――
――衰弱した家畜たちの世話はチイが行い、その間にリルとネコミンは街の様子を調べ、一方でレアは文字変換の能力を使用してキャンピングカーを作り出す。今日は文字変換を多用したのでもう文字数に余裕は無いが、身体を休ませる必要があるのでキャンピングカーに頼るしかない。
リル達が戻るまでにレアは料理の準備を行い、その間にクロミンはシロとクロとキャンピングカーのすぐ傍で遊ぶ。傍から見ると狼2匹が黒いボールを巡って争っているようにしか見えないが、当人たちは楽し気に遊んでいる。
「ぷるぷるっ!!」
「ウォンッ!!」
「キャンキャンッ!!」
「元気そうだな……そういえばクロミンは何を食べるんだろう?まさか、あの姿の状態で牙竜の死体を食べたりしないだろうな……」
種族が「下位竜種」から「スライム」に変化したクロミンが何を食べるのか気になったレナは、後でリル達にスライムの好物を聞くことにして料理に集中する。ちなみに作る料理は材料の問題で「カレー」しか用意出来ず、皆が戻るまでに人数分の食事を用意しなければならない。
夜が暮れてきたころ、調査を終えたリルとネコミン、そして疲れた表情のチイが戻るとレアはキャンピングカーにて出迎える。
「お帰りなさい、ご飯にする?お風呂にする?」
「ふむ、ならレナ君にしよう」
「リル様!?」
「定番の返し方……ちなみにレナを選んだらどうなる?」
「いや、そういわれても……マッサージするとか?」
「それなら風呂上りにチイにしてやってくれ。随分と疲れているようだからな」
「いや、私は平気です!!それよりも実は気になる物を見つけました」
チイはハンカチを取り出すとレア達に差しだし、ハンカチの中に包んでいた「金色の髪の毛」を見せた。
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