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ヒトノ帝国編
第106話 牙竜の亜種 〈黒竜〉
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最初に異変に気付いたのは人間よりも危険察知能力が長けている魔獣のシロとクロであり、彼等は移動の際中に異様な「殺気」を感じ取って反射的に立ち止まってしまう。唐突に停止した2匹にレイナ達は驚くが、その直後に身体の芯にまで響く強烈な咆哮が草原中に広がった。
爆音の如き声量を誇る牙竜の鳴き声が牙路に響き渡り、その声を耳にしたレイナ達は身体が硬直し、何が起きたのか理解するのに数秒の時間を要した。そしてやっと意識が追い付くと、レイナ達は後方を振り返る。
――ガァアアアアッ……!!
レイナ達の視界に草原を疾走し、こちらへ向けて接近する「黒色」の牙竜の姿が映し出され、そのあまりの圧倒的な迫力に対してレイナ達は身体が恐怖で動く事さえできない。これまでにゴーレムやガーゴイルなどの魔物と遭遇したが、それらとは比較にならない程の威圧感を放つ「黒竜」を前にしてレイナは目を見開く。
(身体が……動かないっ!?)
逃げなければならない事は嫌でも理解しているが、まるで獅子が唐突に現れた兎のように身体が硬直してしまい、行動に移せない。それは他の者も同じらしく、リル達でさえも接近する黒竜に対して呆然と見詰める事しか出来なかった。
(まずい、このままだと殺される……動け、動けっ!!)
走馬灯のようにゆっくりと牙竜の動作が鈍くなるが、肝心の肉体が動かなければ意味はなく、必死にレイナは逃げ出そうとした。だが、黒竜はレイナ達の元まであと十数メートルという距離で立ち止まる。
「ッ……!?」
「……えっ?」
黒竜は何かを嫌がるように距離を離し、警戒するようにレイナ達に視線を向けたまま動かない。その様子を見てレイナ達の身体がやっと動けるようになり、どうして黒竜が急に立ち止まったのかと疑問を抱くと、ここでレイナは自分の手にしている魔除けの石の存在に気付く。
どうやら黒竜は魔除けの石が放つ魔力の波動を嫌がったらしく、だいたい30メートルほどの距離を開くとレイナ達を見つめたまま動かない。その様子を見てリル達は冷や汗を流しながらも安堵の息を吐いた。
「し、死ぬかと思った……」
「た、助かった……のか?」
「レイナの魔除けの石のお陰……?」
「た、多分だけど……」
「グルルルッ……!!」
「ウォンッ!!」
黒竜が退いてくれた事にレイナ達は安堵するが、シロとクロは威嚇するように黒竜に鳴き声を上げる。慌ててリルとチイが刺激しないように2匹を落ち着かせようとするが、どうやらレイナの作り出した「魔除けの石」は竜種にも効果がある事が判明した。
(助かった……本当に死ぬかと思った)
この世界に訪れてから最大の死の恐怖を味わったレイナだが、魔除けの石を見つめて安心する。しかし、そんなレイナ達の態度を見て気に障ったのか、黒竜は咆哮を放つ。
「ガァアアアアッ!!」
「ひいっ!?」
「ぐっ……何て鳴き声を上げるんだ」
「み、耳が痛い……」
「ク、クゥンッ……」
獣人族であるリル達にとっては黒竜の咆哮を耳にするだけでも辛く、シロとクロも嫌がるように身体を伏せる。人間であるレイナでさえも鼓膜が震えるほどの大音量に耐え切れず、このままでは鳴き声だけで聴覚が狂ってしまう。
レイナ達は一刻も早く黒竜から離れるために動こうとするが、黒竜の方は獲物と定めたレイナ達を逃がすつもりはないのか、魔除けの石の範囲外を保ち、レイナ達の後を追う。
「シロ、クロ!!思いっきり走るんだ!!」
「「ウォンッ!!」」
「ガアアアッ……!!」
シロとクロが全力疾走で草原を駆け抜けるが、30メートルほど後方で黒竜も動きだし、距離を保ちながら追跡を行う。引き離そうにも単純な脚力は黒竜が上回るらしく、距離を離すことが出来ない。
魔除けの石がある限りは黒竜が接近することはないが、このまま引き離す事が出来なければ安全を確保したとは言い切れない。黒竜は牙竜の亜種とはいえ、その生態は牙竜と変わらず、餌を求めるためならば縄張りを離れる事に対しても躊躇しない。
このまま追跡を続けられればレイナ達は迂闊に人里にも近づく事も出来ず、どうにか黒竜を引き剥がす必要があった。しかし、追跡を撒こうにも黒竜の方が移動速度が速く、障害物が無いに等しい草原では黒竜を撒く事は出来なかった。
「リル様、どうしますか!?奴はあくまでも私達を追い続けるようです!!」
「……奴が牙竜の亜種である事は間違いない。なら、牙竜の特性を利用するしかない」
「特性?」
「牙竜が獲物を追う際、追跡中であろうと自分の近くに出現した獲物を狙う性質を持っていると聞いた事がある!!つまり、別の獲物が現れれば私達を見逃すかもしれないが……」
「しかし、この地方に生息する生物など牙竜ぐらいしか……」
黒竜の狙いを自分達から他の生物に切り替える事が出来れば逃げ切れる可能性がある事をリルは告げるが、肝心の獲物となりそうな生物はこの地方には存在しない。既にこの地域に縄張りを形成していたと思われる牙竜に関しては黒竜が始末しており、このままではレイナ達は逃げる事が出来ない。
爆音の如き声量を誇る牙竜の鳴き声が牙路に響き渡り、その声を耳にしたレイナ達は身体が硬直し、何が起きたのか理解するのに数秒の時間を要した。そしてやっと意識が追い付くと、レイナ達は後方を振り返る。
――ガァアアアアッ……!!
レイナ達の視界に草原を疾走し、こちらへ向けて接近する「黒色」の牙竜の姿が映し出され、そのあまりの圧倒的な迫力に対してレイナ達は身体が恐怖で動く事さえできない。これまでにゴーレムやガーゴイルなどの魔物と遭遇したが、それらとは比較にならない程の威圧感を放つ「黒竜」を前にしてレイナは目を見開く。
(身体が……動かないっ!?)
逃げなければならない事は嫌でも理解しているが、まるで獅子が唐突に現れた兎のように身体が硬直してしまい、行動に移せない。それは他の者も同じらしく、リル達でさえも接近する黒竜に対して呆然と見詰める事しか出来なかった。
(まずい、このままだと殺される……動け、動けっ!!)
走馬灯のようにゆっくりと牙竜の動作が鈍くなるが、肝心の肉体が動かなければ意味はなく、必死にレイナは逃げ出そうとした。だが、黒竜はレイナ達の元まであと十数メートルという距離で立ち止まる。
「ッ……!?」
「……えっ?」
黒竜は何かを嫌がるように距離を離し、警戒するようにレイナ達に視線を向けたまま動かない。その様子を見てレイナ達の身体がやっと動けるようになり、どうして黒竜が急に立ち止まったのかと疑問を抱くと、ここでレイナは自分の手にしている魔除けの石の存在に気付く。
どうやら黒竜は魔除けの石が放つ魔力の波動を嫌がったらしく、だいたい30メートルほどの距離を開くとレイナ達を見つめたまま動かない。その様子を見てリル達は冷や汗を流しながらも安堵の息を吐いた。
「し、死ぬかと思った……」
「た、助かった……のか?」
「レイナの魔除けの石のお陰……?」
「た、多分だけど……」
「グルルルッ……!!」
「ウォンッ!!」
黒竜が退いてくれた事にレイナ達は安堵するが、シロとクロは威嚇するように黒竜に鳴き声を上げる。慌ててリルとチイが刺激しないように2匹を落ち着かせようとするが、どうやらレイナの作り出した「魔除けの石」は竜種にも効果がある事が判明した。
(助かった……本当に死ぬかと思った)
この世界に訪れてから最大の死の恐怖を味わったレイナだが、魔除けの石を見つめて安心する。しかし、そんなレイナ達の態度を見て気に障ったのか、黒竜は咆哮を放つ。
「ガァアアアアッ!!」
「ひいっ!?」
「ぐっ……何て鳴き声を上げるんだ」
「み、耳が痛い……」
「ク、クゥンッ……」
獣人族であるリル達にとっては黒竜の咆哮を耳にするだけでも辛く、シロとクロも嫌がるように身体を伏せる。人間であるレイナでさえも鼓膜が震えるほどの大音量に耐え切れず、このままでは鳴き声だけで聴覚が狂ってしまう。
レイナ達は一刻も早く黒竜から離れるために動こうとするが、黒竜の方は獲物と定めたレイナ達を逃がすつもりはないのか、魔除けの石の範囲外を保ち、レイナ達の後を追う。
「シロ、クロ!!思いっきり走るんだ!!」
「「ウォンッ!!」」
「ガアアアッ……!!」
シロとクロが全力疾走で草原を駆け抜けるが、30メートルほど後方で黒竜も動きだし、距離を保ちながら追跡を行う。引き離そうにも単純な脚力は黒竜が上回るらしく、距離を離すことが出来ない。
魔除けの石がある限りは黒竜が接近することはないが、このまま引き離す事が出来なければ安全を確保したとは言い切れない。黒竜は牙竜の亜種とはいえ、その生態は牙竜と変わらず、餌を求めるためならば縄張りを離れる事に対しても躊躇しない。
このまま追跡を続けられればレイナ達は迂闊に人里にも近づく事も出来ず、どうにか黒竜を引き剥がす必要があった。しかし、追跡を撒こうにも黒竜の方が移動速度が速く、障害物が無いに等しい草原では黒竜を撒く事は出来なかった。
「リル様、どうしますか!?奴はあくまでも私達を追い続けるようです!!」
「……奴が牙竜の亜種である事は間違いない。なら、牙竜の特性を利用するしかない」
「特性?」
「牙竜が獲物を追う際、追跡中であろうと自分の近くに出現した獲物を狙う性質を持っていると聞いた事がある!!つまり、別の獲物が現れれば私達を見逃すかもしれないが……」
「しかし、この地方に生息する生物など牙竜ぐらいしか……」
黒竜の狙いを自分達から他の生物に切り替える事が出来れば逃げ切れる可能性がある事をリルは告げるが、肝心の獲物となりそうな生物はこの地方には存在しない。既にこの地域に縄張りを形成していたと思われる牙竜に関しては黒竜が始末しており、このままではレイナ達は逃げる事が出来ない。
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