解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き抜きます

カタナヅキ

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城下町編

第52話 古王迷宮 〈第四階層〉

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「……よし、時間だ。私達も行くぞ」
「おう、気を付けて行ってこい」
「お気を付けて……アリシア皇女様の事を頼みます」


きっかり5分後にリルは出発を宣言すると、ダガンとゴイルに見送られて4人は螺旋階段を降りていく。階段を下りる途中、レイナはカバンからフラガラッハを取り出して装備すると、それを見たリルが苦笑いを浮かべる。そんな彼女の反応にレイナは疑問を抱くと、チイが口を開く。


「ふふっ……リル様、聖剣を所有する人間が傍にいるのは心強いですね」
「ああ、レイナ君。君の力には期待しているよ」
「頼りにしてる」
「はあ……でも、正直に言っても聖剣が使えるだけで俺は皆さんと比べたら全然強くないんですけど」


自分が頼りにされているという事実にレイナは戸惑い、本音を言えば聖剣さえなければレイナは他の3人に圧倒的に劣る事は理解していた。廃墟街での戦闘でも結局はレイナは文字変換の能力に頼らなければリル達に敵わず、逃げる事も出来なかっただろう。

しかし、リル達からすれば聖剣を扱えるだけでもレイナは十分に立派な戦力であり、実際にオークやコボルトとの戦闘でもレイナは十分な力を見せつけてくれた。実戦経験が少なくとも技能を利用して格上の相手にも立ち向かうレイナの姿はリル達にとっては十分に頼りになる剣士の姿だった。


(フラガラッハを装備したお陰でアスカロンの攻撃力も上がっているはず……あと少しでレベルも15に上がるし、そうなれば技能の習得制限も解除されて新しい能力を覚えてステータスも強化できるはず、大丈夫だ。一人じゃない、今はリルさんたちもいるんだ)


廃墟街を探索していた時はレイナは常に一人で行動していたが、今回は頼りになる仲間が3人も存在する。しかし、これから向かう場所は今までの階層で出会った魔物よりも凶悪な存在が生息する階層であるため、決して油断はできない。


(階段の終わりが見えてくる……ここが第四階層なのか)


螺旋階段を降り切ると、レイナ達は最初に確認したのは灰色の壁で構成された迷宮だった。これまでの階層の壁は赤茶色の煉瓦だったのに対し、第四階層は天井も壁も灰色に統率されていた。但し、地面に関しては何故か砂地となっており、今までは煉瓦製の通路だったのに対してこの階層の地面は土砂で形成されていた。


「ここが第四階層……今の所は気配は感じませんね」
「すんすん……やっぱり、暴狼団の臭いも微かに残っている。それと、先に降りた緑水の臭いもある」
「よし、ここはネコミンの鼻を頼りにして進もう。まずは他の冒険者集団が選んでいない通路を優先して移動しよう。但し、ここからは地図を頼れない以上は道に迷わないように注意深く進まないといけない」
「地図製作(マッピング)の技能を持つ隊員を連れてくるべきでしたね……」
「地図製作?」


冒険者ギルドでも耳にした単語にレイナは尋ねると、リルによれば技能の一種に「地図製作」と呼ばれる未開の地の調査などでは非常に役立つ技能が存在するという。


「地図製作というのはこのような迷路に迷い込んでも自分が何処を通り、どんな通路を進んでいたのかを記憶する便利な技能だ。使用者の話によると、まるで頭の中で自分が通った道を地図を描くように記憶できるらしい。簡単に言えばいつでも自分の居場所を頭の中にある地図で確認できる能力だね」
「へえ……そんな便利な技能があるんですか。それなら今度覚えようかな」
「待って」


不安を掻き消す様に雑談を行いながらレイナ達は通路を進むと、鼻を鳴らして先へ進んでいたネコミンが立ち止まり、彼女は自分の杖を取り出して前方の左右に分かれている通路へ視線を向ける。遂に魔物が現れたのかとレイナ達は警戒すると、彼女は右側の通路を杖で示す。


「こっちの方角から強い血の臭いを感じる……」
「血の臭い……という事は人間だな」
「え?どうして……」
「この階層を支配しているゴーレムは生物のように血液は流れていない。つまりは、血の臭いが感じるという事はその正体はこの階層に潜り込んだ人間以外に有り得ないという事だ」


チイの言葉にレイナは納得し、同時に冷や汗を流す。血の臭いが感じられるという事は誰かが通路内で負傷しているのか、あるいは死亡しているかであり、全員は慎重に通路の右側へ移動を行う。

壁際まで移動した後、ゆっくりと足音を立てずにレイナ達は通路の様子を確認する。その結果、ネコミンの感じ取った臭いの正体が判明する。レイナ達の視界には壁際に背中を預ける全身が血塗れの男性が存在した。男性はヒトノ帝国の騎士の恰好をしており、すぐにレイナ達はアリシア皇女の護衛のために同行した騎士団の団員だと気づいて急ぐ。


「う、あっ……」
「大丈夫ですか!?」
「チイ、水筒の水を飲ませるんだ!!」
「はい!!」


半死半生の状態で壁に背中を預ける男性に対し、リルは即座にチイに命じて口元に水を流し込む。その結果、男性は激しくせき込みながらも意識を覚醒させ、レイナ達の存在を確認すると両手を振り払って怯えた表情を浮かべる。


「うわぁあああっ!?く、来るなぁっ……!!」
「落ち着け!!私達は冒険者だ、君たちを助けに来たんだ!!」
「助けに来た……きゅ、救助隊か?」


リルの言葉に兵士は動きを止め、レイナ達の姿をまじまじと覗き込んで相手が人間(リル達も人間に変装中のため)だと知って安堵した表情を浮かべる。だが、意識がはっきりした事で状況を把握したのか、彼はリルに縋りつく。


「た、助けてくれ……!!」
「大丈夫だ、出入口はそれほど遠くはない。すぐに階段まで移動させて……」
「駄目だ!!あ、あそこへ近づくな!!」


階段という言葉に兵士は怯えた表情を浮かべてうずくまり、そんな彼の態度にレイナ達は不思議に思うが、男性の話によると階段に近付いた瞬間に怯える。そんな男性の反応にレイナ達は顔を見合わせ、いったい何を恐れているのか分からない。

壁を利用して立ち上がった男性は周囲を見渡し、ここまでの道中で何が起きたのかを語りだす。やはりというべきか男性はアリシア皇女の護衛として同行した騎士の一人らしく、いったい何が起きたのかを全て話す――





――男性の話によると、アリシアは自分の騎士団を率いて難なく第四階層まで辿り着き、通常通りに第四階層に存在する安全地帯へ向かった。この第四階層の安全地帯はこれまでの階層とは異なり、安全地帯が複数の箇所に存在する。アリシアは安全地帯を巡回し、必要な素材を集め終えてから帰還の準備を行う。

大迷宮に入ってから数日が経過し、騎士団が持参した物資も尽きかけた頃、十分な量の素材を集め終えたので彼女は撤退の準備を進める。しかし、安全地帯を離れて第四階層の階段前まで向かおうとした時、彼女と騎士団の前に予想外の強さを誇る「魔物」が出現した。

その魔物は尋常ではない強さを誇り、しかも個体ではなく集団で出現してアリシアと騎士団に襲いかかる。結果としては騎士団は壊滅され、生き残った騎士も散り散りとなり、アリシアも姿を消す。レイナ達と遭遇した男性はどうにか階段の近くまで辿り着く事ができたが、他の生き残りと合流出来ず、戻ることも出来ずに階段近くの通路で怯えて救助を待ち続けていたという。
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