解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き抜きます

カタナヅキ

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城下町編

第51話 抜け駆け

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「暴狼団の奴等は儂等は見かけておらんぞ。てっきり、先に辿り着いておるのかと思ったがな」
「こっちも同じく~」
「お前達と一緒に行動していると思ったが……」


ゴイル達によると彼等も通路で別れた後で暴狼団の姿を見ておらず、レイナ達もここまでの道中で彼等の姿を見ていない。あれほど意気揚々と行動していたのでまさか途中で迷子になったとは思いにくく、考えられるとしたら安全地帯で休憩を挟まずに先に進んだかである。


「まさか、先に向かったんじゃ……」
「それは考えにくいと思うがのう、奴等もそこまで馬鹿とは思えんが……」
「休憩も挟まずに移動するなど愚の骨頂だ」
「でも、有り得るんじゃないの~?」
「……ネコミン、調べてくれ」
「分かった」


他の人間に気付かれないようにネコミンは鼻を鳴らし、安全地帯にて暴狼団の残り香が残っているのかを確認すると、彼女はリルに耳打ちした。


「……臭いは少し残っている、どうやら先に向かったみたい」
「なんて事を……手柄を焦ったか」
「リル様、放っておきましょう。どうせ第四階層へ辿り着いたら我々は別行動です。それほど気にする必要もないのでは?」


ネコミンの鼻によれば既に暴狼団は安全地帯を通過していることが判明し、先に第四階層へ繋がる階段へ向かったと思われた。リルはそれを聞いて頭を悩ませ、チイとネコミンは呆れてしまう。問題なのはこれからの事であり、ダガンは時間を確認して通路の方角へ視線を向ける。


「本来ならばゴオンさんが戻ってくるまでここで待機する予定だが、暴狼団がもしもあと10分でここへ辿り着けなければ第四階層へ先に向かったと判断し、僕達も予定を繰り上げて先へ向かいたいと思う。君たちの意見は?」
「賛成だ、奴等に抜け駆けはさせん」
「え~もっと休みた~い」
「儂等も少しは休憩を取りたいがのう……まあ、仕方あるまい」


暴狼団が勝手な行動を取ならければ全員でゴオンが戻るまで待機を行い、万全の準備を整えて第四階層へ向かう予定だった。しかし、もしも暴狼団が先に向かった場合、彼等を見捨てるわけにはいかず、仕方なくダガンは先へ急ぐことを提案した。

他の冒険者達もダガンの意見には反対せず、マイだけが休憩が短い事に不満そうだが、相方のイヤンの指示に従う。しばらくの休憩を挟んだ後、捜索隊は第四階層へ続く階段が存在する場所まで今度こそ皆で行動する事が決まった――




――それから更に数十分後、大迷宮へ入ってから既に2時間以上が経過しており、度重なる魔物の戦闘で流石に全員の顔に疲労が伺えた。階層を降りる事に魔物との遭遇率が高まり、負傷者も続出し始める。それでも事前に与えられた補給物資や回復薬を使用してどうにか捜索隊は第四階層へ繋がる階段の前へ到着した。


「辿り着いた……地図によればここが第四階層へ繋がる階段だ」
「やっとここまで来たのか……結局、暴狼団の奴等は見つからなかったのう」
「放っておけあんな奴等……大方、先に入ったのだろう」
「抜け駆けずるい~」


階段が存在する広間へ到着すると、早速全員が階段の前に移動して様子を伺う。階段付近は安全地帯なので魔物に襲われる事は無いが、これからさらに危険な魔物が生息する階層へ向かうと考えると全員が冷や汗を流す。

第一階層と第二階層の階段とは異なり、どうやら第三階層から第四階層へ繋がる階段は螺旋階段らしく、覗き込む限りではかなりの段差が存在した。階段を降りるだけでも体力を消耗し、降り切った後は「ゴーレム」と呼ばれる魔物が支配する階層へ足を踏み入れる事になる。


「よし、ではここから先は冒険者の君たちに任せる。どうかアリシア皇女と騎士団の団員を見つけ出し、救い出して欲しい」
「ダガンさんは一緒には行かないんですか?」
「本音を言えば同行したいが、ゴオンさんが戻るまでは僕はここを離れられない。だれかが退路を確保しなければならないからね、もしも全員で行動して負傷でもしたら取り返しのつかない事になる」


ダガンは彼が運んできた物資の荷物と共に階段の前へ待機し、退路の確保と地上から戻って来たゴオンとの合流のために離れられないという。彼の言葉に冒険者達は特に反対もせず、まずは誰が先に入るのかを相談を行う。


「では、最初に入る冒険者集団を決めるぞ。意見のある物は手を上げてくれ」
「儂等は悪いが、一番最後にしてくれんか?ここまで来るのに疲れてしばらくは休ませてほしいのう。なあ、皆?」
「え、ええ……そうですね」
「ゴイル様がそういうのなら……」


ゴイルと彼が率いる女性冒険者達は彼の言葉に頷き、確かに全員の顔色が悪い。ここまでの道中で随分と苦労したらしく、疲労が蓄積されている様子だった。ゴイルの提案を他の冒険者集団は受け入れ、残るは「銀狼隊」とイヤンとマイが率いる「緑水」という名前の冒険者集団が先に入るのかを言い争う。


「我々が先に入る、お前達はここで待っていろ。アリシア皇女も暴狼団も我々が見つけて救い出してやる」
「気概は買うが、君たちも第四階層へ挑むのは初めてだろう?生き残る自信はあるのか?」
「当然だ、お前達の余所者とは違い、我々はこの古王迷宮の事を知りつくしている。第四階層であろうと今の我々ならば問題はない」
「え~?本当に~?」
「マイ、お前はどっちの味方だ!!」


緑水の面子は一切退く気はないらしく、頑なに自分達が先へ入ることを宣言する。銀狼隊も粘ったが、ここで言い争う程に無意味に時間を消費してしまい、仕方なく銀狼隊の方が折れた。


「分かった。そこまでいうのであれば先に君たちが入ればいい。だが、私達も10分後に第四階層へ向かう」
「……いいだろう、但し第四階層で会ったとしてもお前たちを助けるつもりはない」
「それはこちらの台詞だ」


イヤンの言葉にリルも目つきを鋭くさせて睨み返し、その視線に対してイヤンは鼻を鳴らして自分の冒険者集団に声を掛けて階段を降りていく。


「行くぞ!!誰一人遅れるな、我々がアリシア皇女を救い出す!!」
「ついでに第四階層の素材もいっぱい持って帰ろうね~」
『はっ!!』


イヤンとマイを先頭に数名の冒険者達が後に続き、その様子を他の者達は黙って見送る。彼等が階段を降りて姿を消した後、リルは平然と言葉を告げる。


「私達は5分後に出発する。準備を整えてくれ」
「え?けど、さっきは10分だって……」
「5分も10分もそう変わらないさ、さあ準備するんだ」
「あっはっはっ!!銀狼隊のリーダーは肝っ玉が太いのう!!」
「ふうっ……これだから冒険者は」


当たり前の様に約束を破って第四階層へ向かおうとするリルに対してゴイルは盛大に笑い声をあげ、ダガンは疲れた表情で首を振る。どちらもリルの行動を止めるつもりはないらしく、今の内にレイナもカバンの中の荷物の整理を行う。

第四階層へ入れば共に行動するのはリル達だけとなり、他の冒険者や先に迷い込んだアリシア皇女と騎士団と合流するまでは他人の目を気にせずにレイナも「フラガラッハ」の力を借りることができる。大迷宮へ入って幾度か先頭を繰り広げたが、やはりフラガラッハがあるのとないのでは戦闘の負担が大きく異なり、いつでも取り出せる準備だけは行っておく。
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