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城下町編
第49話 古王迷宮 〈第三階層〉
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「何だここ……壁が低い?」
「おい、迂闊に壁際に移動するな!!襲われるぞ!?」
「襲われる?」
「……この階層だけが壁が低いのには理由がある。その理由は……すぐに分かる事になる」
レイナが壁際に近付こうとすると慌ててチイが引き止め、リルは意味深な言葉を告げる。いったいどういう意味なのかとレイナが問い返す前に壁の向こう側から狼のような鳴き声が響き、それを確認した冒険者達は武器を身構えた。
「早速来やがったか!!」
「全員、戦闘準備をしろ!!」
「来るか……コボルトだ!!」
『――ガアアアッ!!』
狼の声が大迷宮内に響き渡り、その直後に壁を乗り越えて次々とレイナ達が存在する通路に全身が黒色の毛皮で覆われた二足歩行の生物が出現する。最初は第二階層のオークのような生き物が現れたのかと思ったレイナだが、今回の相手はオークよりも細身で頭部が狼の形をした生物だった。
狼人間という表現が一番相応しい姿をした生物の正体は「コボルト」と呼ばれる魔物であり、ゴブリンやオークよりも凶暴性が高く、その上に両者よりも優れた鋭利で切れ味が鋭い牙と爪を持つ。しかも単体ではなく、集団で出現したコボルト達は真っ先に冒険者達に襲いかかる。
「ガアアアッ!!」
「来よったぞ!!」
「一つに固まれば狙われるぞ!!全員、第三階層の安全地帯まで走れ!!」
「なっ!?待ってくれ、別れて行動するのは危険すぎる……くっ!?」
「ガアッ!!」
ガロと彼の冒険者集団は通路を駆け抜けて第三階層の安全地帯へと一足先に向かい、その様子をダガンが引き留めようとしたがコボルトに阻まれてしまう。一方で他の冒険者達もガロの言葉を聞いて競争心が芽生えたのか、彼と同じように自分達の冒険者集団を引き連れて通路の移動を開始した。
「ふん、あの馬鹿犬め!!こっちの通路の方が近道だと知らないのか?」
「待ってくれ、離れるのは危険だ!!」
「そうはいうがのう、団体行動で移動する方が危険な時もある。特にこの階層のコボルト共は鼻が利くからのう……儂等も別れさせてもらうぞ!!」
ダガンが立ち去っていく冒険者達を引き留めようとするが、彼等はそれを無視して行動を開始し、三手に分かれて移動してしまう。そうなると残されたのはダガンと銀狼隊の面子だけであり、通路に現れたコボルトの相手は必然的に彼等が行う事になる。
「ガアアッ!!」
「わあっ!?」
「ネコミン、チイ!!レイナ君の援護しろ!!」
「了解!!」
「分かった、任せて」
レイナに襲いかかろうとしたコボルトをネコミンとチイが牽制し、その間にリルは長剣を引き抜くと壁の方向に向けて駆け出し、そのまま跳躍を行うと壁を足場にして更に飛び上がり、コボルトの集団に攻撃を仕掛けた。
「乱牙!!」
「ギャウッ!?」
「ガアアッ!?」
第二階層でガロが使用した戦技はリルも扱えるらしく、身体を回転させながら剣を振り回し、次々とコボルトを切りつける。その様子を見てダガンは戦斧を握り締めると、横薙ぎに振り払ってコボルトの集団を蹴散らす。
「輪斧!!」
『ギャインッ!?』
「すごっ!?」
吹き飛ばすどころか数体のコボルトの胴体を切り裂いたダガンの技にレイナは驚き、ヒトノ帝国の大将軍である彼の力を思い知る。一方でレイナも他の人間に任せてばかりではいられないと判断し、アスカロンを引き抜いてコボルトへ剣を振りぬく。
「はああっ!!」
「ガウッ!!」
「わあっ!?」
「馬鹿、何してる!!」
だが、振り翳した刃を回避されたレイナは勢い余って転んでしまい、その様子を見たチイが注意を行う。ゴブリンやオークと比べてコボルトは非常に素早く、不用意に大振りの攻撃を仕掛けても当たるはずがなかった。レイナはどうにか起き上がるとアスカロンを構えて壁際に移動し、周囲を取り囲むコボルトの様子を伺う。
「グルルルッ……!!」
「くっ……」
コボルト達は無暗に接近する様子は見せず、まるでレイナを観察するように動かない。一方でレイナの方はコボルトに囲まれながらどうするべきか考え、攻撃さえ当たりさえすればアスカロンの切断力ならば相手を倒す自信はあった。しかし、攻撃を躱されればどれほど凄まじい切れ味を誇る剣だろうと意味はない。
(どうすればいい……?)
今までの敵はレイナの攻撃を避けられるほど素早い相手ではなかったのでどうにか対応できたが、いくら技能を覚えて身体能力を強化したといってもレイナのレベルは11である。本来、この大迷宮へ挑む冒険者の多くはレベルが30台を迎えており、聖剣を所持していなければレイナではそもそも太刀打ちできない領域に入っていた。
攻撃さえ当たりさえすれば倒せる事は分かっているのにコボルトの素早さでは避けられてしまう可能性が高く、どうにか彼等の注意を別方向に引いた瞬間に倒す方法を考える。色々と考えた結果、レイナは自分が覚えている技能を利用してコボルトの隙を突けないのかを試す。
(一か八か……!!)
自分を取り囲むコボルトに対してレイナは剣を下ろし、自然体の状態へ陥る。その様子を見てコボルト達は一瞬だけ戸惑うが、その隙を逃さずにレイナは「気配遮断」と「隠密」の技能を発動させた。
「ふうっ……」
『ガアッ!?』
気配遮断と隠密の技能を同時に発動した結果、コボルト達はレイナの姿が透明人間のように消えたかのように感じられ、驚愕の表情を浮かべる。その隙を逃さずにレイナは踏み込むと、横薙ぎに剣を振り払い、コボルト達の身体を切り裂く。
「だああっ!!」
『ギャアアアッ!?』
「ほうっ……中々やるじゃないか!!」
レイナのフェイントによって攻撃を受けたコボルト達は血飛沫を舞い上げて倒れ込み、彼女を援護しようとして近付いていたチイが素直に感心した様に声を上げる。だが、攻撃を仕掛けた方のレイナも汗を流し、自分の攻撃が上手く成功した事に驚く。
(思っていたよりも上手く行った……この方法、使えるかもしれない)
目の前の相手が唐突に「気配」と「存在感」が消えてなくなれば大抵の生物は混乱し、隙を生じる。その隙を逃さずにアスカロンで攻撃を仕掛ければレベルが低く、魔物との戦闘経験が少ないレイナでも強敵に対抗できた。だが、この方法はそう何度も同じ相手には使えず、初見で仕留めきれなければ逆に自分が追い込まれる事もレイナは理解した。
(今回は上手く行ったけど、もしも失敗して敵がこの方法を見抜いたら恰好の的になるな……技能を発動させるときはどうしても意識を集中させないといけないし、そう何度も使えないな)
技能を発動させる際、レイナの方も相手の前で意識を集中しなければならず、もしも発動する途中で攻撃を仕掛けられたらレイナでは対応できない。正に諸刃の剣という言葉相応しい戦法であり、危険は大きいが見返りも大きい戦法である。
それでもこの状況を切り抜けるにはレイナにはこの戦法しか存在せず、向かい来るコボルト達を次々と切り裂く。リル達の方もレイナに負けずにコボルトの集団の相手を行い、やがて戦闘を開始してから数分が経過する頃には通路には十数体のコボルトの死体が倒れていた。
「ふうっ……どうやら、何とか切り抜けたようだね。皆さん、怪我はありませんか?」
「あ、はい……ダガンさんも大丈夫ですか?」
「ああ、僕も怪我は……ん?ちょっと待ってくれ、君は何処かで僕と会った事はないか?」
「えっ!?」
訓練を受けていた時の調子でレイナはダガンに話しかけてしまい、声を掛けられたダガンはレイナの顔を見ると、何処かで見覚えがあるような気がして尋ねる。しかし、そんな彼に対してリルが立ちふさがる。
「おい、迂闊に壁際に移動するな!!襲われるぞ!?」
「襲われる?」
「……この階層だけが壁が低いのには理由がある。その理由は……すぐに分かる事になる」
レイナが壁際に近付こうとすると慌ててチイが引き止め、リルは意味深な言葉を告げる。いったいどういう意味なのかとレイナが問い返す前に壁の向こう側から狼のような鳴き声が響き、それを確認した冒険者達は武器を身構えた。
「早速来やがったか!!」
「全員、戦闘準備をしろ!!」
「来るか……コボルトだ!!」
『――ガアアアッ!!』
狼の声が大迷宮内に響き渡り、その直後に壁を乗り越えて次々とレイナ達が存在する通路に全身が黒色の毛皮で覆われた二足歩行の生物が出現する。最初は第二階層のオークのような生き物が現れたのかと思ったレイナだが、今回の相手はオークよりも細身で頭部が狼の形をした生物だった。
狼人間という表現が一番相応しい姿をした生物の正体は「コボルト」と呼ばれる魔物であり、ゴブリンやオークよりも凶暴性が高く、その上に両者よりも優れた鋭利で切れ味が鋭い牙と爪を持つ。しかも単体ではなく、集団で出現したコボルト達は真っ先に冒険者達に襲いかかる。
「ガアアアッ!!」
「来よったぞ!!」
「一つに固まれば狙われるぞ!!全員、第三階層の安全地帯まで走れ!!」
「なっ!?待ってくれ、別れて行動するのは危険すぎる……くっ!?」
「ガアッ!!」
ガロと彼の冒険者集団は通路を駆け抜けて第三階層の安全地帯へと一足先に向かい、その様子をダガンが引き留めようとしたがコボルトに阻まれてしまう。一方で他の冒険者達もガロの言葉を聞いて競争心が芽生えたのか、彼と同じように自分達の冒険者集団を引き連れて通路の移動を開始した。
「ふん、あの馬鹿犬め!!こっちの通路の方が近道だと知らないのか?」
「待ってくれ、離れるのは危険だ!!」
「そうはいうがのう、団体行動で移動する方が危険な時もある。特にこの階層のコボルト共は鼻が利くからのう……儂等も別れさせてもらうぞ!!」
ダガンが立ち去っていく冒険者達を引き留めようとするが、彼等はそれを無視して行動を開始し、三手に分かれて移動してしまう。そうなると残されたのはダガンと銀狼隊の面子だけであり、通路に現れたコボルトの相手は必然的に彼等が行う事になる。
「ガアアッ!!」
「わあっ!?」
「ネコミン、チイ!!レイナ君の援護しろ!!」
「了解!!」
「分かった、任せて」
レイナに襲いかかろうとしたコボルトをネコミンとチイが牽制し、その間にリルは長剣を引き抜くと壁の方向に向けて駆け出し、そのまま跳躍を行うと壁を足場にして更に飛び上がり、コボルトの集団に攻撃を仕掛けた。
「乱牙!!」
「ギャウッ!?」
「ガアアッ!?」
第二階層でガロが使用した戦技はリルも扱えるらしく、身体を回転させながら剣を振り回し、次々とコボルトを切りつける。その様子を見てダガンは戦斧を握り締めると、横薙ぎに振り払ってコボルトの集団を蹴散らす。
「輪斧!!」
『ギャインッ!?』
「すごっ!?」
吹き飛ばすどころか数体のコボルトの胴体を切り裂いたダガンの技にレイナは驚き、ヒトノ帝国の大将軍である彼の力を思い知る。一方でレイナも他の人間に任せてばかりではいられないと判断し、アスカロンを引き抜いてコボルトへ剣を振りぬく。
「はああっ!!」
「ガウッ!!」
「わあっ!?」
「馬鹿、何してる!!」
だが、振り翳した刃を回避されたレイナは勢い余って転んでしまい、その様子を見たチイが注意を行う。ゴブリンやオークと比べてコボルトは非常に素早く、不用意に大振りの攻撃を仕掛けても当たるはずがなかった。レイナはどうにか起き上がるとアスカロンを構えて壁際に移動し、周囲を取り囲むコボルトの様子を伺う。
「グルルルッ……!!」
「くっ……」
コボルト達は無暗に接近する様子は見せず、まるでレイナを観察するように動かない。一方でレイナの方はコボルトに囲まれながらどうするべきか考え、攻撃さえ当たりさえすればアスカロンの切断力ならば相手を倒す自信はあった。しかし、攻撃を躱されればどれほど凄まじい切れ味を誇る剣だろうと意味はない。
(どうすればいい……?)
今までの敵はレイナの攻撃を避けられるほど素早い相手ではなかったのでどうにか対応できたが、いくら技能を覚えて身体能力を強化したといってもレイナのレベルは11である。本来、この大迷宮へ挑む冒険者の多くはレベルが30台を迎えており、聖剣を所持していなければレイナではそもそも太刀打ちできない領域に入っていた。
攻撃さえ当たりさえすれば倒せる事は分かっているのにコボルトの素早さでは避けられてしまう可能性が高く、どうにか彼等の注意を別方向に引いた瞬間に倒す方法を考える。色々と考えた結果、レイナは自分が覚えている技能を利用してコボルトの隙を突けないのかを試す。
(一か八か……!!)
自分を取り囲むコボルトに対してレイナは剣を下ろし、自然体の状態へ陥る。その様子を見てコボルト達は一瞬だけ戸惑うが、その隙を逃さずにレイナは「気配遮断」と「隠密」の技能を発動させた。
「ふうっ……」
『ガアッ!?』
気配遮断と隠密の技能を同時に発動した結果、コボルト達はレイナの姿が透明人間のように消えたかのように感じられ、驚愕の表情を浮かべる。その隙を逃さずにレイナは踏み込むと、横薙ぎに剣を振り払い、コボルト達の身体を切り裂く。
「だああっ!!」
『ギャアアアッ!?』
「ほうっ……中々やるじゃないか!!」
レイナのフェイントによって攻撃を受けたコボルト達は血飛沫を舞い上げて倒れ込み、彼女を援護しようとして近付いていたチイが素直に感心した様に声を上げる。だが、攻撃を仕掛けた方のレイナも汗を流し、自分の攻撃が上手く成功した事に驚く。
(思っていたよりも上手く行った……この方法、使えるかもしれない)
目の前の相手が唐突に「気配」と「存在感」が消えてなくなれば大抵の生物は混乱し、隙を生じる。その隙を逃さずにアスカロンで攻撃を仕掛ければレベルが低く、魔物との戦闘経験が少ないレイナでも強敵に対抗できた。だが、この方法はそう何度も同じ相手には使えず、初見で仕留めきれなければ逆に自分が追い込まれる事もレイナは理解した。
(今回は上手く行ったけど、もしも失敗して敵がこの方法を見抜いたら恰好の的になるな……技能を発動させるときはどうしても意識を集中させないといけないし、そう何度も使えないな)
技能を発動させる際、レイナの方も相手の前で意識を集中しなければならず、もしも発動する途中で攻撃を仕掛けられたらレイナでは対応できない。正に諸刃の剣という言葉相応しい戦法であり、危険は大きいが見返りも大きい戦法である。
それでもこの状況を切り抜けるにはレイナにはこの戦法しか存在せず、向かい来るコボルト達を次々と切り裂く。リル達の方もレイナに負けずにコボルトの集団の相手を行い、やがて戦闘を開始してから数分が経過する頃には通路には十数体のコボルトの死体が倒れていた。
「ふうっ……どうやら、何とか切り抜けたようだね。皆さん、怪我はありませんか?」
「あ、はい……ダガンさんも大丈夫ですか?」
「ああ、僕も怪我は……ん?ちょっと待ってくれ、君は何処かで僕と会った事はないか?」
「えっ!?」
訓練を受けていた時の調子でレイナはダガンに話しかけてしまい、声を掛けられたダガンはレイナの顔を見ると、何処かで見覚えがあるような気がして尋ねる。しかし、そんな彼に対してリルが立ちふさがる。
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