解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き抜きます

カタナヅキ

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城下町編

第30話 逃走

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レイナは両手に抜いたフラガラッハとアスカロンに視線を向け、背後に存在する壁へ向けて振り翳す。その行為に3人は驚いた表情を浮かべるが、聖剣の刃は煉瓦製の壁など容易く切り裂き、更に横向きにレイナは剣で壁を切り裂くと、丁度「四角形」の形をした傷跡が壁に刻まれ、全力で蹴りつける。


「どらぁっ!!」
「なっ!?」
「馬鹿なっ!?」
「……わおっ」


壁を蹴りつけた瞬間、隣の部屋に四角形の形をした壁の瓦礫が倒れ込み、壁に出来た穴にレイナは身を乗り出して急いで窓から外へ抜け出す。慌てて3人組も追いかけようとしてくるが、建物の外へ抜け出したレイナは「瞬動術」を発動させ、勢い良く上空へ跳躍を行う。

別の建物の屋根の上に着地したレイナは、瞬動術を繰り返し発動して次々と建物の屋根へ飛び移り、一気に距離を開く。ある程度まで離れた場所で立ちどまると、レイナは後方を振り返って様子を伺う。


「ここまで逃げれば……嘘っ!?」
「逃さんっ!!」


建物の屋根へ避難すれば簡単には追いつけないと思っていたレイナだったが、3人組はレイナの後に続き、同じように屋根の上を軽快に飛び移って距離を縮めていた。それを確認したレイナは慌てて逃走を再開して距離を開こうとするが、身体能力はあちらの方が高いのか徐々に追い詰められていく。


(不味い、このままだとこっちの体力が限界にくる……!!何か手を考えないと……そうだ!!)


レイナは街道に視線を向け、一か八かの賭けになるが飛び降りる。走りにくい屋根の上から逃げるよりも地上を走った方が逃げやすいとレイナが考えたと思ったのか、リーダー格と思われる銀髪の女性が他の二人に指示を与える。


「君たちは左右に回り込め!!私が後を追う!!」
「了解!!」
「分かった」


青髪の少女はすぐに建物を飛び移ってレイナの右側へ移動を行い、眠たげな眼の少女は左側へと回る。そして銀髪の女性は地上へ降りてレイナとの距離を縮めていく。その様子を確認したレイナは逃走の際中に視界に入った丁度いい大きさの小石を拾い上げると足を止め、銀髪の女性と向き合う。


「喰らえっ!!」
「むっ!?」


レイナが大声を上げて小石を振り翳すと、女性は立ち止まって剣を構えた。だが、小石を投擲する寸前に解析の能力で詳細画面を開いたレイナは小石の名前を別の文字へ変換させた。


『煙幕』
「これでどうだ!!」
「何っ!?」


空中で投げつけられた小石が光り輝いた瞬間、白色の煙と化して周囲一帯を覆いこみ、それを目撃した銀髪の女性は目を見開く。レイナの左右から迫ろうとしていた2人組も立ち止まり、何が起きたのか混乱を起こす。


「これは……煙幕!?一体どうやって……」
「……何も見えない」


煙幕は二人が存在する建物まで届き、完全に視界を封じられてしまう。3人は周囲を警戒して動くことは出来ず、その間にレイナは近くの建物の中に身を隠し、様子を伺う。


(このまま逃げたと勘違いして何処かへ消えてくれるといいけど……)


気付かれないようにレイナは「気配遮断」「隠密」の技能を発動させた状態で物音を立てないように注意していると、やがて煙幕が晴れて女性の姿が露わになる。彼女は街道に立ち尽くし、周囲の様子を伺う。しばらくすると別れていた2人組も集まり、小声で会話を行う。

レイナは一刻も早く彼女達が立ち去る事を願うが、ここである事に気付く。それは先ほど建物の中でどうして自分の存在が気付かれたのかとレイナは考え、あの時の事を冷静に思い返すと違和感を抱く。


(建物にあの3人組が入った時、どうして俺の存在が気付かれたんだ?気配遮断と無音歩行を発動させていたから気配も感じるはずがないし足音も聞こえなかったはずなのに……待てよ、あの頭に生えている耳はどう見ても人間じゃないよな?)


3人の頭に生えている「獣耳」に気付いたレイナは彼女達が普通の人間ではない事に気付き、恐らく3人は異世界物のゲームや小説では定番の存在である「獣人」と呼ばれるような存在ではないかと考察する。実際、街中に彼女達と同様に獣耳を生やしていた人間を何人か見たことがあると思い出したレイナは彼女達が普通の人間には備わっていない能力があり、それで自分の存在を気付いたのではないかと考えた。


(獣耳が生えているという事は、人間だけじゃなくて動物の特徴も併せ持っているとか?あの耳の形から察するに犬や猫の耳のように見えるけど……まさか、臭いか!?)


このレイナの予想は的中しており、実はこちらの世界には「獣人」と呼ばれる種族が存在する。彼等は人間と動物の特徴を併せ持ち、例えば犬型の獣人ならば普通の人間よりも嗅覚や聴覚が優れ、熊やゴリラなどの大型動物の獣人ならば力強く、馬や豹などの獣人は足が速い。

この3人はそれぞれが「狼」「犬」「猫」の獣人なので人間よりも嗅覚と聴覚が優れ、仮に能力を利用して姿を隠していようと臭いや物音を感じ取って位置を探る事は容易い。実際に3人組はレイナの臭いを辿って彼女が隠れている建物へ向かう。


(不味い、こっちに近付いてきてる……!!)


気配感知の技能でで3人近寄ってくる事を察したレイナはどうするべきか思い悩み、どうすれば逃げ切れるのかを考える。考える時間はあまりないが、まだレイナには「3文字」だけだが文字変換の能力を発動できた。


(どうする?どうすればいい?考えろ……あっ、そうだ!!)


足音が間近に迫ってきた瞬間、レイナは銀髪の女性に襲われた雛を救い出した時の出来事をを思い出す。この方法ならば確実に3人のうちの1人は戦闘不能に追い込める。決心したレイナは3人組が建物に入り込む前に自ら出てきた。


「待て、止まれ、ストップ!!」
「ほう、自ら出てきたか……」
「隠れても無駄だと気づいたのか?」
「すとっぷ?」


レイナが現れると3人組も立ち止まり、紫髪の少女だけはレイナの言葉を聞いて首を傾げる。だが、他の二人はレイナが現れると剣を構え、臨戦態勢に入った。しかし、そんな彼女達の反応を見てレイナは警告を行う。


「これ以上近づくないで!!もしも一歩でも踏み込んだら……そこの貴女を動けないようにします」
「……私を?面白い事を言うな」
「リル様、こいつの言葉はただのはったりです!!そんな事が本当にできるのならばこんな場所まで逃げるはずがありません!!」
「うん、私もそう思う」
「う、嘘じゃないもん!!本当だもん!!」
「いや、その言葉で急に嘘臭くなったが……」


3人組はレイナの言葉を聞いても虚言だと判断し、退く様子は見えない。だが、そんな彼女達に対してレイナは覚悟を決め、まずは青髪の少女から「リル」と呼ばれた女性にレイナは指先を構える。その行動の意味に3人は訝しげな表情を浮かべたが、レイナは真剣な表情で最後の警告を行う。


「この指先を動かすだけで貴女は動けなくなる。けど、ここで見逃しくれるのなら何もしない」
「……悪いが、こちらにも事情があってね。私達の存在を知られるわけにはいかないんだ」
「そう……残念だ」


リルの返答を聞いてレイナは指先を振り払う。その行為を見届けたリル以外の二人はやはり何も起きない事にレイナの言葉が嘘だったと判断しかけた時、リルの身体が傾く。


「っ……!?」
「リル様!?」
「リル?」


唐突にリルが地面に倒れ込み、そのまま身体が痙攣を引き起こし、彼女は何が起きたのか分からないとばかりに目を見開いた状態で動けなくなった。慌てて二人が彼女を抱き起すが、リルは身体を震わせるだけで動けず、言葉を発する事も出来なかった。
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