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プロローグ

第5話 歓迎の宴、ウサンとの確執

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――皇帝から一通りの説明を受けた後、すぐに召喚された4人の勇者の歓迎の宴が始まり、レア達は恐らくは彼等が地球で普通に生きていれば一生味わえないと思われる豪華な食事を堪能する。その後にこの国の将軍や大臣と邂逅する。

だが、他の勇者達が国の重要人物と親交を深める間、解析の勇者という謎の職業のレアの元には最初の内だけ何人かが話しかけてきた程度だった。文字を変換するだけの能力しか持たない彼に興味を持つ人間は少なく、すぐに他の勇者の元へ向かってしまう。

最もレア本人は大勢の人に群がれるよりは一人で考え事をしたかったので特に気にした風もなく、視界にステータス画面を開いて何度も能力の確認を行う。


(駄目だな、何度見ても他に隠された役立ちそうな能力はとかはないか)


自分のステータス画面を開きながらレアは思い悩み、RPGゲームのように自分の現時点の正確な能力を確かめられない事に溜息を吐く。



―――ステータス―――

称号:解析の勇者

性別:男性

年齢:15才

状態:健康

レベル:1

SP:1

―――――――――――

技能

・翻訳
(あらゆる文字・言語を翻訳できる)


―――――――――――

固有能力

・解析――あらゆる物体の詳細を画面として表示する。生物の場合はステータスとして表示される


―――――――――――

文字の加護

・文字変換――あらゆる文字を変換できる。1日に変換可能な文字数は10文字のみ、条件は以下の通り

1.文章として成立しない場合は文字の変換は不可能
2.文字の追加や削除は不可能
3.アラビア数字を他の文字や漢数字に変換する事も不可能
4.ステータスの改竄は出来ない


―――――――――――



これが現時点で表示されているレアのステータス画面であり、主に「称号(職業)」「技能」「固有能力」「加護」の4つに分かれていた。まず最初の「称号」に関しては自分が最も相応しい職業が表示される。この称号は生まれた時点で存在し、その人間に最もて適した職業が割り当てられる。


例えば戦闘に向いている人間は「剣士」や「格闘家」の称号を持っている事が多く、魔法関連の能力が高い人間は「魔術師」の称号が表示される。この称号はレベルの上昇の際の能力の成長率に大きくかかわっており、戦闘職の人間ならば身体能力方面、逆に魔法職の人間ならば魔法関連の能力を重点的に成長を遂げる。但し、あくまでも自分に向いている職業を表示されるだけであり、別に称号以外の職業に就けないというわけではない。


次の「技能」の項目に関しては文字通りに人間が身に着けられる技術を差し、様々な種類が存在する。例えば剣士の称号を持つ人間の場合だと「剣術(剣の速度を速める)」や「腕力強化(腕力を強化)」のような技能を生まれた時から身に付けている。他にも「料理人」ならば「調理(調理関連の技術を身に着ける)」格闘家ならば「頑丈(肉体の耐久力が上昇)」狩人の職業ならば「命中(標的が動かない限り、確実に命中させる)」を身に着けられる。但し、こちらのスキルはあくまでも「才能」のような能力であり、スキルを覚えても鍛え上げなければ高い効果は生み出せない。

最後の「加護」に関してはこちらの世界に召喚された勇者、つまりは地球人にしか備わらない特別な能力であり、技能や固有能力を超えた凄まじい力を身に着けられるという。だが、レアの場合は「文字変換」といういまいち何の役に立つのか分からない能力もあり、個人によって性質が大きく異なると考えられた。



現在のレア達は技能の項目の「翻訳」のお陰でこの世界の言葉や文字を完全に理解し、扱っている。また、技能に関しては訓練を積み重ねる事で覚える事もあるが、固有能力に関しては特殊な条件が存在し、自力で覚える事は難しいという。しかし、そんな技能も固有能力も簡単で手っ取り早く覚える方法が一つだけ存在する。



(この世界の人の話しだと、SPを使用すれば新しい技能や能力を覚えられるんだよな……だけど、SPはレベルを上げないと入手できない、か)


ステータス画面に表示されているSPを消費すれば新しい能力を身に着けたり、あるいは既存の能力を強化する事は出来るとレアはこの国の兵士から話を聞いていた。だが、どのような能力であろうとSPを使用しての習得の場合、必要な数値は「10」現状ではレアは新しい能力を覚える事も出来ない。

だが、SPは足りずとも覚えられる能力に関しては確認する事が出来ると聞いたレアはステータス画面の「SP」の項目に触れる。するとステータス画面が切り替わり、現時点で覚えられる能力の一覧が表示された。


(うわ、こんなにあるのか……これは全部確認するのも大変そうだな)


習得可能なスキルの数は無数に存在し、しかも説明文も全部読み取るとなると時間が掛かりそうなため、仕方なくレアは画面を切り替えて今後の事を考える。


(明日から本格的に訓練も始まるらしいし、どうにかしないとな……)


ステータス画面に視線を向け、自分の加護の項目に表示されている条件を確認すると、レアはある事に気付く。それは条件の中で一つだけ気になる文章が存在した。


「あれ、もしかしてこの条件って……?」


文字変換の条件の項目を再確認下レアはある考えが閃き、自分の考えが本当に可能なのかと疑問を抱いながらも自分のステータス画面に意識を集中させた時、不意に彼の目の前に人影が現れる。


「おっと、失礼!!」
「うわっ!?」


頭から冷たい液体を浴びせられ、レアは驚いて視線を向けると目の前には醜悪の笑顔を浮かべたウサンが存在し、彼の手元には空になったワインのグラスが存在した。すぐにレアはウサンが自分に対してわざとグラスの中身を零した事に気付き、彼を睨みつける。


「これは申し訳ない……私とした事が手を滑ったようだ」
「手が滑ったって……いきなり何するんですか!!」
「ふんっ……勇者と言っても役に立たない人間は必要はないと思いませんかね?」


彼の行動と発言に周囲の人間が息を飲み、騒ぎを聞きつけた兵士が駆け寄ってくるが、相手が大臣と知って立ち止まる。だが、レアは冷静に彼の言葉に皮肉を返す。


「そうですね、不要な物は必要はない……それならウサン殿のその頭に乗っている物は貴方にとってはとても必要な物なんですか?」
「なっ……き、貴様ぁっ!!」
「ぶふっ!!」



――最初に出会ったときから違和感は抱いていたが、レアはウサンの髪の毛が「カツラ」ではないかと指摘する。すると図星を突かれたのかウサンは頬を紅潮させ、周囲に存在した人々も笑い声を堪える。見事な返しをしたレアに対してウサンは右手に持っていたグラスを彼に向けて叩きつけようとしたが、それを寸前で別の人物が止める。



「この小僧っ……!!」
「止めなさい」
「うおっ!?」


レアの顔面にグラスが叩きつけられる前に一人の女性が彼の腕を握りしめ、腕を捻ってグラスを取り上げる。レアを救ったのは金髪の女性であり、年齢はレアよりも1、2才程年上だと考えられ、非常に美しい少女が立っていた。


「は、離せっ!?貴様、私を誰だと……皇女様?」
「貴方の行動は目に余ります……立ち去りなさいっ!!」
「うわぁっ!?」


ウサンは自分の腕を捻り上げた彼女に怒鳴りつけようとしたが、顔を見た瞬間にウサンの顔色は真っ青に染まり、少女が腕を解放すると慌てて距離を取る。そんな彼の行動に王女と呼ばれた女性は溜息を吐きながらもレアにハンカチを差し出す。


「我が家臣が失礼をしました……どうかこれで身体をお拭きください」
「あ、どうも……」
「アリシア様、あちらで皇帝がお呼びです。参りましょうか」
「分かりました。では、失礼します……勇者様」


少女の傍に赤色の髪の毛の美青年が現れ、執事のような恰好をしている事からレアは彼女の従者だと判断したが、二人はレアに一礼を行うとその場を立ち去る。ウサンから自分を助けてハンカチを渡してくれた少女にレアは戸惑いながらも見送る。

アリシアと呼ばれた少女は美青年の言葉から察するにこの国の皇女らしく、バルトロス皇帝の娘だろう。だが、高齢の皇帝に対して娘の方はどう見てもレアとそれほど年齢に大差は感じられず、二人とも随分と年齢を離れている。もしかしたら養子の可能性もあるが、彼女の姿を見てレアが気になったのは宴の席にも関わらず、アリシアの腰には剣が装着されていた。


(あの人、どうしてこんな場所で剣なんか持ってるだろう?それにあの剣……妙に豪勢だな)


立ち去っていくアリシアの腰に装着された長剣を見たレアは妙に気にかかり、この城の兵士が装備している剣とは異なり、まるで宝剣のようにダイヤモンドを想像させる装飾が柄の部分に施されていた。その剣をレアはじっと見つめていると、視界にステータス画面とは異なる新たな画面が表示される。


――フラガラッハ――

能力

・攻撃力3倍増
・経験値増量
・魔法耐性強化
・自動修復機能

詳細:300年ほど前に初代勇者によって製作され、大迷宮に封印されていたが、100年ほど前に帝国の3代目皇帝によって発見され、現在は国宝として王族のみが管理する事を許されている。現在の所有者は「アリシア・ヒトノ」


――――――――――


「えっ……なんだこれ?」


視界に表示された謎の画面にレアは驚くが、そんな彼を他の人間は怪訝な表情を浮かべて見つめる。どうやらレアの視界だけに画面が表示されているらしく、立ち去っていくアリシアの後姿と視界に表示された謎の画面にレアは混乱する。
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