解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き抜きます

カタナヅキ

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第2話 勇者

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「こ、ここは……何処なんだ?」
「あれ!?私達、さっきまで教室に居たよね!?」
「何なんだ一体!?」


レアは意識を取り戻して自分の周囲を伺うと、魔法陣の上に立っていた「大木田 茂」「佐藤 瞬」「卯月 雛」が存在する事に気付く。全員がレアと同様に周囲の様子の変化に戸惑っており、混乱していた。現在の彼等が存在する広間の壁はコンクリート製ではなく、煉瓦のような素材で建造されており、床にはレア達の教室に出現した「魔法陣」と同じ紋様が刻まれていた。とりあえずは全員が立ち上がると、室内に奇妙な音が響き渡る。


「な、なんだ!?」
「落ち着くんだ!!」


また騒ぎ出そうとした茂を瞬が落ち着かせ、位置的にレア達の正面に存在する漆黒の巨大な扉が押し開かれ、中世時代の兵士を想像させる鎧や兜を纏った人間達が現れる。彼等は即座にレア達を取り囲むように移動すると、不良の茂が武装した人間達の行動に咄嗟に拳を身構えた。


「何だてめえら!?」
「止めろ茂!!相手を興奮させるな……!!」
「駄目だって!!」


茂が部屋の中に侵入してきた人間達に殴り込もうとするが、それを瞬とレアが後方から彼を引き留める。周囲を取り囲んだ人間達は茂の態度に動じる様子を見せず、武器を地面に置くと彼等の前で跪く。



『お待ちしておりました!!勇者様!!』



――事前に練習でもしていたかのようにレア達を取り囲んだ男達が歓迎の言葉を告げ、その場で跪く。予想外の兵士達に行動にレア達は驚愕するも、この状況で何が起きているのか理解している人間は一人も存在せず、意を決したレアが彼等に話しかけようとした時、室内に老人の声が響き渡った。



「おおっ……お待ちしておりましたぞ!!勇者様!!」



扉の方から声を掛けられて全員が振り返ると、中世の王族を想像させる豪華な服装を纏った老人が現れた。彼は腰元にまで髭を伸ばしており、優し気な笑みを浮かべながらレア達の元に歩み寄る。


「……誰ですか?」
「控えよ!!いくら勇者と言えど、国王陛下に敬語を使わぬとは何事か!!」


レアが他の人間の代表として唐突に部屋の中に現れた老人に質問を行うと、老人の後方から偉そうな態度の中年男性が出現し、先端部に水晶玉のような宝石を取り付けた杖を握りしめながらレアを睨みつけた。その男性の頭を見てレアはある違和感を抱く。


(あれ、もしかしてこの人って……)


男性に感じた違和感をレアが指摘する前に最初に歩み寄ろうとした老人が引き留め、男性の高慢な態度を注意する。


「よい、ウサン大臣よ。むしろこの世界を救うためにやってきた勇者殿に失礼であろう」
「はっ……しかし」
「余は構わんと言っておるのだが?」
「……申し訳ありません」


ウサンと呼ばれた男性は老人の言葉に渋々と従うが、それでも不満を隠し切れないようにレアを睨みつける。そんな彼の態度に不快感を覚えながらもレア達は黙り込み、相手側の反応を窺う。


「勇者殿よ、急にこのような場所に送り込まれて混乱しているだろうが、どうか余の話を聞いてくれ」
「な、何ですか貴方達は!?僕達はさっきまで教室にいたはずなのに……」
「ふむ……どうやら勇者殿は混乱しているようですな。国王陛下、ここは儂が説明しましょう」
「うむ、任せる。但し、失礼のないようにな」


ウサンと呼ばれた男性が前に出るとレア達は後退り、彼はそんな彼らの反応に笑みを浮かべ、偉そうに胸を踏ん反り返りながら説明を行う。


「既にこの状況を理解している者もいるかも知れんが、ここは「ホウマ」と呼ばれる勇者殿が住んでいる世界とは別の世界だ。我々は勇者殿が住んでいる世界を「ガカク」と呼び、我々はある方法でガカクの世界から其方達を召喚させてもらった」
「ホウマに……ガカク?」
「異世界って……嘘だろう?」
「混乱するのも分かるが、事実だ。そしてどうして我等が勇者殿を呼び出したのかと言うと……」
「待てやこらぁっ!!」


黙って聞いていた茂がウサンの態度に我慢できなくなったのか彼の服に掴みかかり、力ずくで持ち上げるとウサンは苦し気な表情を浮かべ、周囲の兵士が動き出そうとしたが国王が制止する。


「訳の分からねえ事を言いやがって……俺たちを元の世界に帰しやがれ!!」
「そ、それはできん!!まだ、話の途中だ!!」
「うおっ!?」


唐突にウサンは自分が握りしめていた杖から衝撃波を放ち、茂の身体が吹き飛ばされる。地面に叩きつけられた彼は苦痛の表情を浮かべながら自分の身に何が起きたのか理解できない表情を浮かべ、そんな彼にウサンは不機嫌そうに見下ろす。


「……どうやらこちらの勇者様は常識がなっていないようですな。話の途中で掴みかかるとは……」
「もうよいではないかウサンよ。すまなかったな、勇者殿」
「な、なんだ今のは……?」
「魔法、と言えばお分かりかな?」
「魔法……ほ、本当に!?」
「そんな馬鹿な……手品じゃないのか?」
「でも、あれってどう見ても……」


魔法という単語が出た事にレア達は動揺し、先ほどの茂を吹き飛ばされた光景を見ていた時点で彼等はウサンの言葉が嫌でも真実だと思い知らされる。普通ならば信じられる話ではないが、実際に目の前で彼等が知っている常識では有り得ない現象を引き起こされては信じるしかない。

レア達はここが本当に異世界であり、自分達が魔法が存在する世界に呼び出された事を知る。何よりも彼等が立っている地面の魔法陣には見覚えがあり、元の世界の教室で彼等の足元に出現した魔法陣と同じ紋様なのは間違いなかった。そしてレア達が自分達の状況を理解したと知ったウサンは茂の介入で中断していた話に戻る。


「我々の国には異界に存在する勇者を召喚する術が描かれた魔法書が存在しましてな。この書物に従い、我々の世界を救ってくれる人間を召喚したというわけですな」
「それが……俺達だと?」
「そういう事ですな……最も、中には育ちの悪い御方もいたようですが」
「大臣!!」


ウサンの言葉に国王が叱咤するが、話も聞かずに掴みかかってきた茂の態度も目に余る物があり、他の人間も敢えて口を挟まない。その一方で自分だけが吹き飛ばされた茂は気に入らない表情でウサンを睨み付けるが、彼も同様に茂に対して見下した表情を浮かべる。


「どうして我々が勇者殿を召喚したのかと言うと、それはこの世界が危機に瀕しており、異界に存在する勇者殿の御力を借りたかったからですな。このバルトロス帝国に伝わる古文書通りに儀式を行い、そしてこの世界を救い出してくれる勇者殿を呼び出した、という訳です」
「そんな……俺達には関係ない事じゃないですか!!」
「そうだよ!!早く元の世界に帰して~!!」


あまりにも理不尽な説明にレア達は憤るが、ウサンが地面に杖を軽く叩き付ける動作を行うと、全員が茂が吹き飛ばされた光景を思い出して黙り込む。


「……勇者殿を召喚するため、実は我々は非常に希少な鉱石を使用しましてな。元の世界に送り返すには「転移結晶」と呼ばれる非常に貴重な魔石を使用しなければならないのですが、生憎と勇者殿を召喚するだけで我が帝国が管理している聖光石は消失してしまいまして……」
「そんな!!」
「ですがご安心ください。この世界を危機に陥れようとしている存在、世界を滅ぼす者と呼ばれる「魔王軍」がこの転移結晶を独占しております!!我等と力を合わせ、魔王軍を打ち倒した時、勇者殿は元の世界に帰れる術を手に入れるのです!!」
「そんな無茶苦茶な……」


ウサンの話によるとレア達が元の世界に帰還するには彼等の国と協力を行い、帝国と敵対関係にある「魔王軍」という組織を打ち倒さなければならないという。実際にウサンの話が真実なのかは確かめる方法は存在しないが、現在のレア達に拒否権はなかった。


「それでは勇者様、一先ずはこの場所から移動しましょうか。このような場所で全ての説明を行うのも無粋でしょう」


名前の通りに散臭い笑みを浮かべながらウサンはレア達を「召喚の間」と呼ばれる広間から移動させる。
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