解析の勇者、文字変換の能力でステータスを改竄して生き抜きます

プロローグ

第１話 異世界召喚

この物語の主人公である「霧崎レア」が自分の名前に疑問を抱き始めたのは、彼が小学校に入学した時だった。最初の頃は特に自分自身の名前に関しては彼は気にしていなかったが、年を重ねて成長する度に違和感を抱く様になる。しかも漢字ではなくカタカナなのでより目立つ。

レアが自分の名前を呼ばれる度に友人からは「お前のどこ等辺がレアなんだよ？顔とか？」とよくからかわれ、実際にレア自身は自分の事を平凡な人間だと思い込んでいる。最も人並み以上に頭は良く、運動神経も悪くはないが、特に他の人間よりも大きく優れている特技は持っていない。強いて言うとすればモデルである母親似で顔立ちは整っている程度である。

小学校の頃から初めて会った人間に名前をからかわれる事は多かったが、それでも最初の内だけであり、時間が経過すれば他の人間も彼の名前に慣れてからかう真似はしなくなる。だからといってレアという名前が珍しい事には代わりはないが。


そんなレアが高校に入学してから数か月が経過し、夏休みを明日に控えた終業式の放課後、レアの担任は式を終えたにも関わらずに教室の生徒を家に帰さずに怒鳴り散らす。




「……早く帰りたいな」




小声で呟きながらレアは教卓に立っている４０代後半の少し剥げている教師に視線を向け、彼のクラスの担任は苛立ちを抱いた表情で執拗に話を続ける。担当の教師は体育の教師ではないにも関わらずにジャージに着替えており、激怒の表情を浮かべながら生徒達に怒鳴り散らす。


「いいか……お前等がやった事は分かっている。正直に答えろ！！この教室から私に向けてバケツの水を落としたのは誰だ！！」
「先生～どうして俺達が犯人だって決めつけるんですか？」
「そうそう、俺達がやったって証拠があるんですか？」
「ふざけるな！！この教室からバケツが落ちてきたのを確かに俺は見たんだ！！素直に白状しなければ家に帰さんぞっ！！」


レアの担任がジャージに着替えている理由は彼が終業式を終えた後、校庭で式をさぼっていた生徒の注意を行っていた時、突如として頭上から大量の水が落ちてきて買ったばかりのスーツが台無しにされてしまう。そして担任は犯人が自分が請け負っている生徒だと確信しており、彼等を教室から出さずに犯人が素直に名乗りを上げるまで解放しないつもりだった。


「さあ！！犯人がいるのなら名乗り出ろ！！そうすれば今なら反省文だけ許してやるっ！！」
「ちっ……うるせえな」


だが、担任の怒鳴り声に反応するようにレアの前の席に座る金髪の男子生徒が彼を睨み付けた瞬間、先ほどまで高圧的な態度を取っていた担任の教師が蛇に睨まれた蛙のように大人しくなる。


「お、大木田……」
「おい、あんた教師だろ？教師が生徒の言葉を信用できないのかよ？ああっ？」
「な、何だその態度は！！まさかお前が……ひぃっ！？」


教師が男子生徒に怒鳴りつけようとしたが、先に大木田と呼ばれた生徒の方が机から立ち上がり、教師の下に向かおうとした。しかし、その彼の肩を隣に座っていた生徒が引き止める。


「おい、大木田……先生相手にそんな言葉使いはないだろう？」
「ちっ！！」


学校の中でも不良として通っている「大木田　茂」の言葉に教師は情けなく縮こまり、それを見兼ねた茂の席の隣に座る「佐藤　瞬」という名前の男性生徒が止める。彼は茂とは幼馴染の関係であり、更に２人の後ろからこの学園でも５本指に入ると言われる美少女が話しかけてきた。


「２人供、喧嘩は駄目だよ～」
「う、卯月さん……」
「べ、別に喧嘩なんてしてねえよ」


独特な口調で話しかける少女の名前は「卯月　雛」であり、彼女は学年内ではトップクラスの巨乳を誇る事で有名な美少女である。実際に入学当初から彼女のファンクラブが結成されるほどであり、栗色の髪の毛に１５才の年齢でありながらＥカップは超える胸元が目立ち、そんな彼女に注意された茂と瞬はお互いにばつが悪そうに顔を反らす。


「も、もう帰っていい……だが、今回の事は忘れないからな！！」


逃げ台詞を吐きながら担任の教師がやっと立ち去り、生徒達は内心では大木田の行動に内心で感謝する。これで全員がやっと家に帰る事が出来る。だが、当の茂は気に入らなそうな表情を浮かべて机に座り込み、立ち去った担当の教師の悪態を吐く。


「ちっ……相変わらず、情けねえ野郎だ。あれでも教師かよ」
「おい、茂……先生に対して失礼だろう」
「どうでもいいだろあんな奴……ん？卯月、お前何を持ってるんだ？」
「あ、これ？」


レアは他の生徒と共に帰宅しようとした時、前の席に座る茂達の会話が聞こえ、少し気になって顔を向けるとそこには雛が黒色の背表紙の本を持っている事に気付く。随分と大きくて年季を感じさせる本であり、彼女はどうにか両手で抱えながら茂の机の上に置く。


「私、図書委員だから図書室で掃除していた時に偶然見つけたんだ。本棚の隅の方にあったから、気になって持ってきたんだ」
「へえ……卯月さんが本が好きなのかい？」
「ううん、そういう訳じゃないんだけど……ただ、何となく気になっちゃって」
「本ね……どんな内容なんだ？」
「実はまだ中身は見てないんだ。だから、今から確かめようと思って……わあっ！？」


卯月が自分が持ってきた本を開こうとした瞬間、唐突に表紙に魔法陣のような紋様が浮き上がり、本が光り輝く。３人の会話を聞いて顔を向けていたレアも何事かと立ち上がろうとした時、足元に異変が起きる。


「うわあっ！？」
「な、何これ～！？」
「これはっ……！！」


机から立ち上がろうとしたレアは自分の足に違和感を抱いて視線を向けると、何時の間にか前の席に存在する茂、瞬、雛の３人組の足元の床に「魔法陣」が誕生していた。どうやら魔法陣の上に立つ３人と、片足が魔法陣の範囲内に存在したレアの足元だけが接着剤で固定されたかのように動けない事が判明した。徐々に魔法陣の発光が強まり、レア達以外の生徒達も強烈な光を浴びて悲鳴を上げる。

教室が混乱の渦と化し、どうにかレアは魔法陣から抜け出そうとするがびくともせず、他の３人も必死に動こうとするが魔法陣から逃れられず、やがて４人の身体が光り輝き始めた。レアは咄嗟に机に立てかけてあるカバンに手を伸ばす。



「ざけんなっ！！くそ、なんで足が動かねえ！？」
「何が起きてるんだ……！？」
「わわわわっ！？」
「くっ……！！」


遂には魔法陣の輝きが増して教室内が先行に包まれ、レアの視界が真っ白な空間に染まる。数秒後、視界を封じられた状態のレアの耳元に年若い女性の声が囁かれた。


『面白い名前ですね。それなら能力もレアな奴を渡してあげますよ』
「えっ――！？」



――教室内の人間の叫び声が響き渡り、レアの視界が真っ白な空間に染まる。数秒ほど時間が経過した後、徐々に彼の視界が回復すると、レアの目の前には見た事もない景色が広がる。彼が存在するのは円形状の床が広がった広間であり、周囲にはいくつもの柱が埋め込まれており、柱の天頂には見た事もない色合いの宝石が設置されていた。