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戦姫編

大臣の死

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帝都に到着したレナ達は防壁を潜り抜け、治療院に向けて移動を行う。レナとリノンも夜通し動き続けていた事で体力を消耗しているが、一刻も早く戻らなければジャンヌの身が危なく、3人は急いで移動を行う。


「早く、この牙を教会に届けなければ……!!」
「……レナ、私に乗ればもっと早い」
「まあ、そうだけどさ……流石にここで変身するわけにはいかないし」


コトミンが馬や魔獣に変身すれば移動速度も上昇するが、リノンが傍に居る限りは彼女も変身できない。レナは浮揚魔術を利用して空を飛ぶことを考えたが、流石にバジリスクとの戦闘で魔力も消耗しており、これ以上の無理はできない。回復薬の類で体力や魔力を回復させる事も出来るが、今は回復する時間も惜しいと考えているリノンの後に続く。


「……可笑しいな、まだ夜明け前なのに人が多くないか?」
「確かに……皆、寝間着のまま外に出ている」
「そんな事はどうでもいいだろう!!喋っているなら置いていくぞ!!」
「じゃあ、お先にどうぞ?」
「……別に置いて行ってもいい」


先頭を走っているのはレナとコトミンであり、リノンの方は既に体力の限界を迎えているが気力だけで駆け抜けており、2人よりも明らかに疲弊していた。それでも彼女は決してバジリスクの牙を手放さず、自分の手で渡さない限りは不安なのか2人に牙を渡そうとしない。


「くっ……ま、まだ治療院は見えないのか?」
「まだ距離はありますね……代わりに届けましょうか?」
「い、いや……問題ない!!急ごう!!」
「……それならもっと早く走って」
「す、すまない……」


リノンの発言にコトミンが呆れたように彼女の移動速度が遅い事を指摘すると、リノンは申し訳なさそうに走る速度を上げようとする。仕方なく、レナは彼女に聖属性の付与魔法を施そうとした時、街中の住民の声が彼の耳に届いた。


「お、おい!!聞いたかよ……あの防衛大臣が!!」
「知ってるよ……信じられねえ、一体誰がやったんだ?」
「まさか国王様が……」
「お、おい!!下手なことを言うなよ!?兵士が聞いていたらどうするんだよ!!」


一般人の騒ぎ声にレナは疑問を抱き、話の内容から察するに「防衛大臣デキン」が関係しており、詳しく彼等から話を聞こうとした時にレナ達の正面から近づいてくる人影が存在した。


「あ、戻ってきたんですね!!大変ですよレナさん!!」
「アイリィ?」


前方の街道から現れたのはアイリィであり、慌てた様子で3人の元に駆けつけてくる。彼女の登場に全員は驚くが、彼女はレナ達の前に辿り着くとバジリスクの牙を背負ったリノンに気づく。


「あ、それはもしかして……」
「バジリスクの牙だ!!まだ毒液は残っている!!すぐにこれで解毒薬を……」
「あ~……いや、すいません。その事なんですけどね……実は王女様はもう……」
「そ、そんな……間に合わなかったのか!?」


アイリィの言葉にリノンは息を飲み、解毒薬を作り出す前にジャンヌが死亡したのかとレナとコトミンもアイリィに視線を向けると、彼女は真顔で首を振る。


「いや、違いますよ。もう治療は終わっちゃいました」
『は?』
「あははははっ……いや、まさか聖水の原液と蘇生薬を組み合わせた治療を行ったら面白いように回復しましてね……今はゆっくり休んでいますよ」
『はああっ!?』
「……ぐっじょぶ」


レナとリノンの驚愕の声が響き渡り、コトミンだけはアイリィの手柄に親指を上げ、彼女は照れ臭そうに頭を掻きながら空になった薬瓶を取り出す。


「いやあっ……まさか私も上手くいくとは思いませんでしたよ。ジャンヌさんに聖水を飲み込ませて強制的に体力を回復させた後に蘇生薬を飲み込ませたんです。最初はもがき苦しんでましたけど、私の蘇生薬の再生力がどうやらバジリスクの毒を打ち消したようでレナさんたちが出て行った1時間後に治療が終わりましたね。いやはや、教会の皆さんからめちゃくちゃ褒めらましたよ」
「マジかっ……」
「わ、私達の苦労は……」
「どんまいっ」


悪びれもなく治療を終えたことを語るアイリィにレナとリノンはその場で膝を崩すが、ジャンヌの解毒に成功したことは喜ばしく、一応はレナ達の目的は果たされた。だが、アイリィが陽光教会から離れた理由が気に掛ったレナは彼女に何処に向かっていたのかを問い質す。


「アイリィは何処に行こうとしてたの?」
「レナさんを迎えに行くつもりで転移結晶が存在する帝都の中央の広場に向かっていたんですけど……そういえばどうしてこんな場所にいるんですか?他の方たちは?」
「転移石は全部バルに渡した。青竜騎士団の救助に必要だと思ったから……」


出発前に用意しておいたレナ達の転移石はバルに全て引き渡し、彼女は森の中に存在する青竜騎士団の救援活動のために利用する予定だった。流石に50人以上の人間を危険な森の中から救い出すには転移石の力が必要不可欠であり、戦闘で負傷した人間も多いので緊急脱出用にワルキューレ騎士団の団員も転移石を使用する機会が訪れるかもしれず、結局レナ達はバイコーンに送り返してもらう形になった。

レナはアイリィに簡単にこれまでの経緯を説明すると、彼女はバイコーンが人間に協力してくれたという話に驚くが、その一方で彼女の方からも重大な情報が明かされる。


「帝都の方でも色々と大変な事が起きてますよ。私もさっきミキさんに伝えられたんですけど……王城で途轍もない事が起きてます」
「途轍もない事……まさか、王女様が誘拐されたとか騒いだ奴がいるの?」
「えっ!?」


アイリィの発言にレナが彼女の伝えたいことを予測すると、リノンが激しく動揺する。いくら謎の人物に洗脳されていたからと言っても彼女が王城からジャンヌを連れ出したのは間違いなく、ここで問題が起きたのかとレナは予想すると、アイリィは首を振る。


「いえ、違います。まあ、確かに王女様が消えたことで陽光教会に兵士の方が尋ねに来ましたけど、ミキさんが上手く誤魔化しました。ですけど、別の問題が王城で起きたんですよ。もう私だけじゃなく、この街の住民全員が知っていますよ」
「別の問題?」
「勿体ぶらずに教えて」
「聞いて驚かないでくださいね……防衛大臣のデキンが――」



彼女の次の言葉にレナ達は街中にも関わらずに大声を上げてしまう程に驚愕する。それほどまでにアイリィの告げた言葉は衝撃的な内容であり、この国を揺るがす程の大事件が帝都に起きてしまう。



「――死亡したんです。王城の門の前で磔にされて殺されたんですよ。しかも、その傍には魔人族の女性の死体も横たわっていたそうです」



※申し訳ありませんがこの作品はここでで終わります。
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