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戦姫編

神殿の死闘

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「大丈夫ですかレナさん?」
「ううっ……気持ち悪い、コトミン膝枕して」
「……かもんっ」
「いや、この状況で休もうとしないで下さい。どうするんですかこれ?」


コトミンがその場に座り込み、レナは彼女の膝枕を味わいながら身体を横たわらせるが、アイリィは先ほど討伐を果たした猩々の死体を指差す。父親の個体はレナの魔弓術の攻撃で原型を留めていない程に黒焦げと化しており、子供の方は頭部を射抜かれたので比較的に綺麗な状態で倒れているが、アイリィは倒れている猩々の死体に鑑定のスキルを発動して首を振る。


「駄目ですね……猩々はこちらの地方では珍しいですけど、特に素材に価値はありません。食用でもないですし……」
「じゃあ、焼き払う?」
「そうですね……あれ、ちょっと待ってください。この猩々はどちらも雄ですよね……じゃあ、もしかして母親は?」
『あっ』


アイリィの言葉に全員が声を上げ、当たり前だが父親だけで子供が生まれるはずがなく、この2体の他に母親である雌の猩々が生き残っている可能性もある。レナは身体を起き上げ、周囲の状況を確認しようとした時、自分達が入り込んだ出入口の方向から大きな物音が響く。

全員が恐る恐る振り返ると、神殿の出入口には新たな猩々の個体が立っており、こちらの方は全身の赤色の体毛が若干濃く、乳房の方も腫れているので雌の個体であるのは間違いなく、雌の猩々は両手に握りしめていた大量のファングの死骸を地面に落とし、目の前の光景に目を見開く。


「コ、コレハァッ……オマエタチィッ!!」
「ひぃっ!?」
「やばいっ!!」


自分の夫と子供の死骸を目撃した瞬間、猩々は怒りの表情を浮かべて咆哮を上げ、真っ先にゴンゾウに向けて前脚を突き出す。


「シネェッ!!」
「ぐおっ!?」
「ゴンちゃん!!」


ゴンゾウは咄嗟に両腕を交差して猩々の攻撃を受け止めるが、体長が3倍近くの差がある相手の攻撃であり、後方に吹き飛ばされる。その光景を目撃したレナは魔弓術を発動しようとしたが、矢筒を確認すると既に矢は使い切っており、予備は収納石に回収しているので異空間から取り出さなければならない。だが、猩々はレナが収納石のブレスレットを発動する前に今度は彼に視線を向け、右拳を放つ。


「ウオオッ!!」
「くっ……!?」
「ぎゃああっ!?死にたくないけど死にますぅっ!!」


レナは回避のスキルを発動させれば猩々の攻撃は避けられるが、彼の傍にはアイリィとコトミンの姿があり、仕方なく懐から吸魔石を取り出し、迫りくる拳に向けて構える。


風属性エンチャット!!」
「ヌアッ……!?」
「おおっ」


吸魔石から風属性の魔力を解き放ち、竜巻を生じさせて拳の迫る方向を変化させ、猩々は前のめりに倒れそうになるが寸前で持ち応える。その隙にレナは吸魔石を地面に放り投げ、魔装術を発動して相手の右膝に向けて攻撃を仕掛ける。


「痺れろっ!!」
「グアアッ!?」
「……水刃」


拳に雷属性の魔力を纏った状態で攻撃を加えた瞬間、猩々は苦痛の表情を浮かべ、更にコトミンが右腕から水の刃を放出して左足に放つ。完全な切断には至らなかったが、左足に血飛沫が舞い上がり、相手の猩々はその場に倒れこむ。


「ウググッ……!?」
「い、今です!!早く逃げましょう!!」
「……すまん」


レナ達が猩々に攻撃を加えている間、アイリィがゴンゾウに回復魔法を施して治療を行い、彼の身体を起き上がらせる。ゴンゾウは身体が回復しても両腕の痺れが残っており、背中に背負った棍棒で攻撃できる余裕はなく、レナ達は猩々が起き上がる前に退散を試みる。


「ニガスカァッ!!」
「うわっ!?」
「レナ……!?」


しかし、位置的に一番近くに存在したレナは猩々の巨大な右手に身体を掴まれ、恐ろしい握力で肉体を握りしめられる。彼は苦痛の表情を浮かべ、全身に激痛が走り、意識が乱されて付与魔法の発動も出来ず、コトミンが救い出そうと近づくが猩々は反対の腕で彼女を振り払う。


「フンッ!!」
「うあっ……!?」
「レナさん!?コトミンさんまでっ!?」
「くっ……俺の仲間に手を出すなっ!!」


ゴンゾウが完全に身体が回復していないにも関わらずに猩々に向けて走り出し、相手はコトミンを振り払った腕を戻して彼を止めようとした瞬間、派手な血飛沫が神殿の床に舞い上がる。



「――アガァッ……!?」
「えっ……」



レナの目の前で猩々の頭部に巨大な「鉄槌」が衝突し、頭が砕け散って派手に血飛沫が舞い上がる。その光景に誰もが驚愕し、すぐにゴンゾウだけが白銀の輝きを放つ鉄槌の正体に気付き、彼の背筋が凍り付く。


「この……鉄槌は……まさかっ!?」


ゴンゾウは背後を振り返り、即座に表情を歪ませる。彼の予想通り、神殿の奥からこちらに近づいてくる人影にゴンゾウは痺れる腕を無理やり動かして棍棒を握りしめた。
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