上 下
174 / 207
戦姫編

猩々 〈上級危険種〉

しおりを挟む
最初にレナが巨人を見て抱いた感想は「ゴリラ」であり、猿型の魔物である事は間違いないが全身の毛皮が赤色であり、先ほど彼が遭遇したトロールの倍近くの巨体を誇り、その足元には2メートル程度の体格の同種の魔物が存在した。巨大な類人猿は神殿の天井が低いので体勢を低めながらレナ達に接近し、子供と思われる個体が肩の上に移動する。


『ナンダァッ……オマエラァッ……?』
『トウチャッ!!トウチャッ!!コイツラ、クッテイイ?』
「……喋った?」
「ゴブリンキングみたい……」
「これは……かなり不味いですよ」
「大きいな……」


巨大な猿型の魔物の登場にレナ達は動揺を隠せず、まずは相手の情報を見極めるためにレナは「鑑定」のスキルを発動させると「猩々」と呼ばれる魔物だと気づき、本来は帝国には生息せず、西の地方の魔物だと知るが、2体はレナ達に視線を向けて舌なめずりを行う。


『ヒサシブリノニンゲンカァッ……オイシソウダ』
『トウチャッ!!オレ、ニンゲンノメスガホシイ』
「うわ、最悪な展開ですね!!」
「むうっ……あの目、気持ち悪い」


明らかに敵意を感じさせる発言を行い、親子と思われる猩々がレナ達に向けて近づこうとするが、先にレナは魔弓を構えると今までに試した事が無い土属性の矢を番える。


土属性エンチャット
『アンッ?』


土属性の魔石の鏃に付与魔法を発動させ、相手との距離を計算してレナは「狙撃」のスキルを発動し、不快な発言を行った子供の猩々に標準を合わせて射抜く。土属性の魔法は「重力」を操作する魔法であり、この魔法だけは魔弓術の中でも一番の飛距離を生み出し、重力によって加速した魔石の鏃が猩々の頭部を一瞬で貫通した。



『――アガァッ!?』
『アッ?』



自分の肩の上で奇声を上げた子供に大型の猩々は首を向けると、眉間に矢が突き刺さったまま目を見開いた状態で地面に落下する光景が映し出され、父親の猩々は何が起きたのか理解するのに時間が掛かったが、すぐに息子が死亡した事に気付いた。


『ナッ……オイ、ナニガ……!?』
「ふうっ……」


猩々は混乱したように子供を両手で掴み上げて抱き上げるが、頭部を貫かれた時点で即死であり、身体を痙攣させるだけで意識を取り戻す様子はない。その光景にレナ以外の誰もが唖然とするが、即座に猩々は怒りの表情を抱き、レナ達に視線を向ける。


『オ、オ、オマエェエエッ……!!』
「うわ、やばいですよ!?」
「逃げるぞっ!?」
「平気だって」


激怒の表情を浮かべて近付こうとする猩々にアイリィ達は慌てふためくが、レナは即座に矢筒から次々と矢を取り出し、容赦なく付与魔法を発動して次々と撃ちこむ。


「火属性、水属性、雷属性」
『ウワッ!?ギャアッ!?アガァッ!?』


流れる動作で次々と付与魔法を発動して矢を撃ち込み、火炎、電撃、冷気を纏った矢が放たれ、猩々の肉体に衝突する。建物の天井が低かったことで体勢を屈めていた猩々は動作が鈍く、彼の攻撃を避けきれずに次々と攻撃を受け、レナは最後に魔法腕輪を使用して魔力を強化させ、猩々の頭部に向けて風属性の付与魔法を発動させて撃ち抜く。


風属性エンチャット!!」
『ウガァアアアアアアアッ!?』


竜巻のように風の魔力を纏った矢が放たれ、猩々の片目に衝突し、内側から衝撃を放ちながら頭部に侵入する。やがて全身から血を流しがら猩々が倒れ込み、巨体が倒れた事で神殿に振動が走り、レナは一息を吐く。


「ふうっ……助かった」
「いや、容赦ないですね!!え、何が起きたんですか今の!?」
「凄い……でも、ちょっと怖かった」
「ああ……レナも怒ると怖いんだな……」
「いや……」


レナの行動に他の三人は冷や汗を流すが、その一方でレナは自分の掌を確認し、嫌な脂汗が滲み出ていた。彼が猩々を相手に先に攻撃を仕掛けたのには理由があり、これ以上に彼等の「声」を聞きたくなかったのだ。


「……頭が痛い」
「え?どうしたんですか急に?」
「あいつらの声を聞いていると、頭がおかしくなりそうだった……」


猩々達の会話を聞いていたレナは彼等から「殺意」の感情を感じ取り、しかも彼等は快楽のために自分達を殺そうと考えている事を知った彼は非常に不快な気分に陥り、気付いたら無意識に攻撃を行っていた。今までにも何度か自分を殺そうとする相手と相対したが、快楽目的で人殺しを行おうとする相手は存在せず、今回の猩々は非常にレナとは相性が最悪の相手だった。

幼少の頃に事故に遭い、他人の声を聞く事で相手の意識を読み取る能力を得て以来、レナは何度か今回のように相手の悪感情を感じ取る事で気分を害した事があり、今回の相手は正に彼にとっては最悪の相性の相手であり、快楽目的で殺戮を行う生物の意識を読み取る行為はレナの精神に大きな負担を与える。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

花婿が差し替えられました

凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。 元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。 その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。 ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。 ※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。 ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。 こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。 出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです! ※すみません、100000字くらいになりそうです…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...