上 下
146 / 207
ゴブリンキング編

ゴブリンキングの暴走

しおりを挟む
『チカヅクナァッ!!』
「無駄ぁっ!!」


ゴブリンキングが右腕を振り払い、カトレアを弾き飛ばそうとするが彼女は「回避」のスキルを使用したレナのように体勢を屈めて腕を避け、魅了の能力によって意識が半ば失われたミラに向けて命令を降す。


「頭を刺して死んじゃえっ!!」
「っ……!!」
『オカアサッ……!?』


カトレアの魅了の虜になったミラは彼女の言葉に従おうと自分の握りしめている戦斧の絵を握りしめ、頭上に抱えた状態から両手を手放し、重力によって戦斧の刃がミラの頭にめり込もうとした瞬間、ゴブリンキングが咄嗟に戦斧の絵を左腕で掴む。


『ヤメロォッ!!』
「あうっ!?」


彼は自分の「母親」を守る為に今度こそカトレアに右足を突き出し、彼女を蹴り飛ばす。ゴブリンキングの怪力によってカトレアの肉体は吹き飛び、その隙にゴブリンキングはミラの意識を呼び覚まそうと話しかける。


『オカアサンッ!!モウダイジョ……』
「あぁああああああっ!?」
『グアッ!?』
「えっ!?」


カトレアから離れた事で魅了が解けると思い込んでいたゴブリンキングの頬にミラの拳が的中し、彼女は気が狂ったように戦斧をゴブリンキングから取り替えそうと手を伸ばし、半狂乱になりながらも肩から降りて戦斧の柄を掴み、無理やりに引き剥がそうとする。その光景にレナは驚愕するが、すぐに隣のアイリィが叫ぶ。


「……魅了された人間は一度命令されると、魅了を仕掛けた人物が離れても能力は解除されません。つまりあの人は自分の頭を刺さない限り、正気に戻る事は……」
「そんな……止められないの?」
「魅了を施した人物が能力を解除すればあるいは……ですけど、もう手遅れのようですね」
『ヤメロッ……ヤメテクレオカアサンッ!!』
「邪魔をするなぁああああっ!!」


必死に戦斧の刃の部分を両手で握りしめるゴブリンキングに対し、ドワーフ族のミラは自殺するために柄の部分を握りしめ、巨人族にも負けない膂力で引き抜こうとする。ゴブリンキングの指に刃が食い込み、血が滴り落ちるが彼は決して離そうとしない。


『ヤメテクレェッ……オマエタチィッ!!』
「ギィイイッ……!?」


ゴブリンキングは他のゴブリンナイトに命令を下してミラを停めようとするが、彼等は何が起きているのか理解出来ず、ミラは戦斧を手放してゴブリンナイトが所有していた帝国軍の槍に視線を向け、彼女は傍に居たゴブリンナイトに飛びかかり、槍を奪い取る。



『ヤメロォオオオオオオオオオッ!!』
「が、ふぅっ!?」
「あっ!?」



槍を頭部に突き出そうとしたミラにゴブリンキングは両手を伸ばし、彼女を止めようとしたが彼は自分の腕力が人間の比ではない怪力である事を忘れており、伸ばした腕がミラの頭部に叩きつけられ、彼女は首を異様な方向に曲げて地面に倒れこむ。その光景に全員が息を飲み、ゴブリンキングは自分のした行動に目を見開き、動かなくなった「母親」に手を伸ばす。


『オ、オガアサッ……!?』


人間のように動揺した表情を浮かべながらゴブリンキングはミラの身体を起き上げようとするが、触れて確かめる必要もなく、彼女は苦悶の表情を浮かべて絶命していた。あまりにも呆気ない彼女の最後に誰もが言葉を失い、一瞬の油断が彼女を死へと招いたとしか表現できない。


『ウ、ウゥウウウッ……!!』
「ギィイッ……?」


ゴブリンキングがその場で跪き、母親ミラの遺体に涙を流し、大粒の涙を流しながら呻き声を上げる。その光景にゴブリンナイトが戸惑いの表情を浮かべながら近づき、一方でレナ達も目の前の光景に戦意が失われる。


「……可哀想」
「そう、だな……」
「ですけど……これで終わったんですかね?」
「分からん……だが、もうあいつは……」


母親を失った事でゴブリンキングは完全に戦意を失い、そんな彼の元にゴブリンナイトが心配そうに近づいてくるが、周囲から大量の足音が響き渡る。



「――見つけたぞ!!奴だ!!」



北門の破壊された防壁の上から男の声が響き渡り、全員が視線を向けると他の門の警備を行っていた兵士達が遂に駆け付けたらしく、防壁の上から弓矢を構える。更に街道からも大量の兵士が駆けつけ、北門に存在するゴブリンナイトとゴブリンキングに槍を構える。唐突に現れた兵士達にレナ達は驚くが、どうやら街中に出現したレッドゴブリンの討伐のために出向いていた兵士も戻り、ゴブリンキング達に武器を構える。


「君たちは……冒険者か?ここは我々に任せろ!!」
「おい、誰か避難させろ!!」
「あっ、いや……」


レナ達の元に兵士が駆けつけ、ゴブリンキングから守る為に彼等を安全な場所に避難させようとするが、一方で大量の兵士に囲まれたゴブリンキング達は周囲に視線を向け、武器を身構える。母親の遺体を左腕で抱き上げ、ゴブリンキングは兵士達に涙を流しながら視線を向け、悲しみの咆哮を放つ。



『……ウァアアアアアアアアッ!!』
「う、撃てぇっ!!」
「待って――!?」



ゴブリンキングの咆哮を威嚇行動と捉えた兵士が合図を行い、弓矢を構えた兵士達が次々と矢を射抜き、矢の雨を降り注がせる。
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...