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ゴブリンキング編

結界石のお守り

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――無事にゴンゾウを救出し、帝都に帰還したレナ達は黒猫亭に移動する事にする。本当ならば陽光教会の建物に訪れて教会の人間に彼の救出と無事に戻ってきた事を報告しなければならないが、ゴンゾウの身体を休ませることを優先して教会よりも近い黒猫亭に戻る。既に時刻は夕方を迎えており、何日も監禁されていた事で全身が汚れていたゴンゾウを宿屋に連れて戻って来た時は黒猫亭の主人のバルも驚いたが、すぐに彼の為に宿屋の浴槽に案内する。


『飯と着替えはどうにかしてやるから、あんたはそいつの身体を洗いな!!寝る前に必ず食堂に来るんだよ!!』


レナはゴンゾウと供に宿屋の風呂に放り込まれ、疲労で上手く動けない彼の身体を代わりに洗う。久しぶりに風呂に入れたことでゴンゾウの気分も安らぎ、風呂を上がると宿屋の店員のエリナが巨人族用の衣服を用意しており、着替えを済ませると食堂まで2人を案内する。

既にゴンゾウの為にレナ達が案内された机の上には大量の料理が並べられており、一応は炭鉱に居た時もレナ達が用意した食料は食しているが、彼は喜んで机に並べられた料理を全て味わう。レナ達の為に用意された料理さえも食べてしまい、完全に食事を終えた頃にはゴンゾウの肌色も元に戻っていた。


「ふうっ……生き返った」
「それは良かったですね。でも、勢いをつけ過ぎてお皿まで齧るのは辞めてくださいよ。後で怒られるのは私達なんですから……」
「まあ、それは別にいいけど……話を戻していい?その結界石……いや、ゴンゾウ君のお守りの事なんだけど……」
「ゴンゾウでいい。レノは俺よりも年上だろう?」
「そ、そう?」
「外見的にはゴンゾウさんの方が上にしか見えませんけどね」
「……確かに」


ゴンゾウの言葉にレナは戸惑いながらも承諾し、2人とも同じ年齢ではあるがレナの方が誕生日が早く、この世界の年月は元の世界と同じであり、違いがあるとすればこちらには閏年が存在しない。ゴンゾウの言葉に甘えてこれからは彼の事を呼び捨てする事に決め、レナは今度こそ話を戻す。


「じゃあ、ゴンゾウはそのお守りのお蔭で命は助かったの?」
「ああ……奴等は何度も奪おうとしたが、俺は決して渡さなかった。そもそも奴等が触れようとした瞬間に弾かれたんだが……」
「結界石が操れるのは人種だけですからね。原理は不明ですが、魔物が結界石に触れる事は出来ません」
「そうなの?」
「一説によれば結界石は魔物を拒む性質を持っているとか……だから魔人族にも扱えません」
「……このお守りのお蔭で奴等は俺に不用意に近づこうとしなかった。だが、ゴブリンキングだけは違った。奴は毎日のように俺を痛めつけ、このお守りを何処で手に入れたのか聞き出そうとしてきた。それと……奴の後ろには人間が居た気がする」
「人間?捕まった人?」
「いや、正直俺も意識が薄れていたからはっきりとは覚えていなかったが……いつも尋問の時にはゴブリンキング以外に人間が居た。しかも奴に命令していたような気がする」
「……どういう事ですか?」


ゴンゾウの話によると彼は尋問を受ける際にゴブリンキング以外に確かに人影を見たと告げるが、炭鉱内の人間は生きている者は全員が食堂に拘束されているはずであり、レナ達が全員救い出した。だが、彼の話によるとゴブリンキングの群れが炭鉱を離れるまで毎日彼はゴブリンキングから拷問を受けており、姿はしっかりと見た訳ではないが人間らしき人影は目撃したという。

ゴブリンキングの群れが炭鉱に移動したのはレナ達が炭鉱内の人質を救出した後の事であり、ゴンゾウの尋問に立ち会っていた人間は人質が救出される日まで存在した事になる。


「……まさか、魔物使いですか?」
「それって確か魔物を操れる職業の事?」
「操るというよりは従えるという表現が正しいですね……そう言えばどうして魔物が冒険者の装備品を大事そうに預けていたのか気になっていましたけど……もしかしたらゴンゾウさんを尋問した人間が回収するためじゃ……!?」
「まさか……だとしたら助けた人たちの中に魔物使いの人間がっ!?」
「あくまでも推測です。ですけど……もしも本当なら不味いですよ」


アイリィの推測に全員が息を飲み、もしも彼女の考えが正しければレナ達はゴブリンキングを従えた犯罪者を帝都に招きこんだ可能性がある。すぐにこの件を陽光教会に伝える必要があり、レナ達は立ち上がろうとした時、食堂に慌てた様子のエリナが入り込んで来た。


「た、大変っす!!」
「エリナ……さん?」


黒猫亭の従業員であるエリナが慌てふためいた様子で入り込み、彼女は全身から汗を流しながら窓の外を指差し、食堂内の人間全員に聞こえる声量で叫び声を上げる。


「ご、ゴブリンが……街の中に入り込んで来たっす!!」
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