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ゴブリンキング編
受身
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――時刻が夕方を迎え、レナは自分の個室に引き籠り、吸魔石に魔力を注ぎ込みながら自分の戦闘法を見直す。白銀拳に雷属性の付与魔法を施し、戦技の「弾撃」を組み合わせた一撃は強力ではあるが、この攻撃法は白銀拳が存在する状態だからこそ利用できる。もしも装備を奪われた場合、この攻撃法は扱えない。
「……雷属性と風属性」
レナは両手に握りしめた吸魔石に別々の付与魔法を発動させ、魔力を注ぎ込む。最近では熟練度が高まった事で両手で別々の属性の付与魔法を施す事が出来る事が判明し、この方法で一気に2つの属性の魔法と耐性の熟練度を上昇させる事が出来る。魔力の消耗量が激しすぎるので普通の魔術師は真似は出来ないが、全ての属性の中で魔力容量が最も高い付与魔術師の職業の彼だからこそ出来る芸当である。
「う~んっ……地味だなぁっ」
効率性を考えればこの訓練方法ならば吸魔石に魔力を送り込み、更に熟練度も上昇できる。漫画やゲームのように派手な訓練法で一気に成長する事は出来ないため、レナは地道に魔力を送り続けているとノックも無しに部屋の扉が開かれる。
「ああ、ここに居たんだね」
「テンさん?」
「テンでいいよ。その呼び方はどうも嫌でね……敬語もしなくていい」
「はあ……?」
レナとしては自分の2倍近くの人生を生きている女性に呼び捨てで敬語を扱うなと言われて戸惑うが、テンは机の上に置いてある硝子箱に収められた吸魔石を確認し、首を傾げる。
「こいつは魔石かい?いや、この輝きは吸魔石か……変な物を持ち歩いているね」
「魔法の訓練も兼ねて持ち歩いていますから……」
「だから敬語は止めろって……へえ、こいつを使って聖水を生み出していたのか」
聖属性の吸魔石をテンは持ち上げ、不思議そうに覗き込む。この吸魔石を真水に数日間程浸けていれば聖水が誕生するが、実際にはヨウカが聖光石を利用して生み出す聖水の方が効果が高い。それでも教会は彼女の負担を軽減させるため、現在はレナの教えた製造法で聖水の生産を試みている。
「そういえば嬢ちゃん達は何処に行った?ここにいると聞いていたけど……」
「アイリィとコトミンは市場で回復薬を販売していますよ。今回の事で俺達も結構金を使ったので……」
「そうかい。それであんたはここで大人しく留守番かい?」
「そうなりますね……まあ、2人の護衛としてポチ子とアメリアさんも一緒ですけど」
「勝手にうちの騎士団の人間を使わないで欲しいんだけどね……まあ、どうせ巫女姫様に頼んだんだろう?」
テンの予想通り、アイリィがヨウカに頼んで護衛役としてポチ子とアメリアを指定し、更に巫女姫も外に出向きたいという事で5人で行動している。1人取り残されたレナは自室で吸魔石に魔力を送り込んでい時にテンが顔を出した事になる。
「そう言えばあんたは魔術師なんだろう?それに回復魔法も扱えるなら患者の治療でもしたらどうだい?」
「それだと教会の人の仕事を奪っちゃうんじゃ……」
「ああ、言われてみればあんたは部外者だったね……勝手に治療したらミキ団長が怒るか」
「あの……ミキさんは?」
「今は執務室で仕事中だよ。あたしも訓練場に戻らないとね……そうそう、うちの連中があんたに直接謝りたいから後で顔を出してくれないかい?」
「分かりました」
用件を伝えるとテンは部屋から立ち去ろうとしたが、途中で自分がまだ硝子箱に収められた吸魔石を握りしめている事に気付き、レナに放り投げる。
「おっと、これは帰すよ」
「わわっ……」
慌ててレナは硝子箱を受け止めようとするが、両手が塞がれているので受け止めきれず、腕に当たってしまう。テンとしては軽く投げたつもりだろうが、流石にワルキューレ騎士団の副団長を務める彼女のステータスは非常に肉体方面に傾いており、右腕に衝突した時に痛みが走る。
「あいたっ!?」
「ああ、悪い悪い。力加減を誤ったね」
テンはレナの様子を見て笑い声を上げながら部屋を退出し、レナは吸魔石を置いて腕を抑えるが、彼の視界に画面が表示される。どうやら今ので新しいスキルを身に着けたらしく、格闘家専用の「受身」というスキルを覚えたらしい。
『受身――外部の衝撃を和らげる』
偶然とはいえ、格闘家の職業を覚えて初めて肉体に強い衝撃を受けた事で芽生えたスキルらしく、こちらにも熟練度は存在するが職業の項目に格闘家を選択して以内と効果を発揮しない格闘家専用スキルだった。レナは右腕に聖属性の付与魔法を施そうとした時、ある事に気付く。
「水属性で冷やせないかな……?」
赤く腫れている右腕にレナは右手に水属性の付与魔法を発動させ、掌に青色の光と冷気が迸る。間違っても腕に付与魔法を施さないように気を付けながら近づけると、掌から放たれる冷気が右腕に届き、心地良い。しばらくは腕を冷やしていると、レナはある方法を考え付いた。
「あれ……もしかしてこの状態なら……」
新しい攻撃手段を思いつき、レナは吸魔石に魔力を送り込むのを止めて外に移動す事にした。
「……雷属性と風属性」
レナは両手に握りしめた吸魔石に別々の付与魔法を発動させ、魔力を注ぎ込む。最近では熟練度が高まった事で両手で別々の属性の付与魔法を施す事が出来る事が判明し、この方法で一気に2つの属性の魔法と耐性の熟練度を上昇させる事が出来る。魔力の消耗量が激しすぎるので普通の魔術師は真似は出来ないが、全ての属性の中で魔力容量が最も高い付与魔術師の職業の彼だからこそ出来る芸当である。
「う~んっ……地味だなぁっ」
効率性を考えればこの訓練方法ならば吸魔石に魔力を送り込み、更に熟練度も上昇できる。漫画やゲームのように派手な訓練法で一気に成長する事は出来ないため、レナは地道に魔力を送り続けているとノックも無しに部屋の扉が開かれる。
「ああ、ここに居たんだね」
「テンさん?」
「テンでいいよ。その呼び方はどうも嫌でね……敬語もしなくていい」
「はあ……?」
レナとしては自分の2倍近くの人生を生きている女性に呼び捨てで敬語を扱うなと言われて戸惑うが、テンは机の上に置いてある硝子箱に収められた吸魔石を確認し、首を傾げる。
「こいつは魔石かい?いや、この輝きは吸魔石か……変な物を持ち歩いているね」
「魔法の訓練も兼ねて持ち歩いていますから……」
「だから敬語は止めろって……へえ、こいつを使って聖水を生み出していたのか」
聖属性の吸魔石をテンは持ち上げ、不思議そうに覗き込む。この吸魔石を真水に数日間程浸けていれば聖水が誕生するが、実際にはヨウカが聖光石を利用して生み出す聖水の方が効果が高い。それでも教会は彼女の負担を軽減させるため、現在はレナの教えた製造法で聖水の生産を試みている。
「そういえば嬢ちゃん達は何処に行った?ここにいると聞いていたけど……」
「アイリィとコトミンは市場で回復薬を販売していますよ。今回の事で俺達も結構金を使ったので……」
「そうかい。それであんたはここで大人しく留守番かい?」
「そうなりますね……まあ、2人の護衛としてポチ子とアメリアさんも一緒ですけど」
「勝手にうちの騎士団の人間を使わないで欲しいんだけどね……まあ、どうせ巫女姫様に頼んだんだろう?」
テンの予想通り、アイリィがヨウカに頼んで護衛役としてポチ子とアメリアを指定し、更に巫女姫も外に出向きたいという事で5人で行動している。1人取り残されたレナは自室で吸魔石に魔力を送り込んでい時にテンが顔を出した事になる。
「そう言えばあんたは魔術師なんだろう?それに回復魔法も扱えるなら患者の治療でもしたらどうだい?」
「それだと教会の人の仕事を奪っちゃうんじゃ……」
「ああ、言われてみればあんたは部外者だったね……勝手に治療したらミキ団長が怒るか」
「あの……ミキさんは?」
「今は執務室で仕事中だよ。あたしも訓練場に戻らないとね……そうそう、うちの連中があんたに直接謝りたいから後で顔を出してくれないかい?」
「分かりました」
用件を伝えるとテンは部屋から立ち去ろうとしたが、途中で自分がまだ硝子箱に収められた吸魔石を握りしめている事に気付き、レナに放り投げる。
「おっと、これは帰すよ」
「わわっ……」
慌ててレナは硝子箱を受け止めようとするが、両手が塞がれているので受け止めきれず、腕に当たってしまう。テンとしては軽く投げたつもりだろうが、流石にワルキューレ騎士団の副団長を務める彼女のステータスは非常に肉体方面に傾いており、右腕に衝突した時に痛みが走る。
「あいたっ!?」
「ああ、悪い悪い。力加減を誤ったね」
テンはレナの様子を見て笑い声を上げながら部屋を退出し、レナは吸魔石を置いて腕を抑えるが、彼の視界に画面が表示される。どうやら今ので新しいスキルを身に着けたらしく、格闘家専用の「受身」というスキルを覚えたらしい。
『受身――外部の衝撃を和らげる』
偶然とはいえ、格闘家の職業を覚えて初めて肉体に強い衝撃を受けた事で芽生えたスキルらしく、こちらにも熟練度は存在するが職業の項目に格闘家を選択して以内と効果を発揮しない格闘家専用スキルだった。レナは右腕に聖属性の付与魔法を施そうとした時、ある事に気付く。
「水属性で冷やせないかな……?」
赤く腫れている右腕にレナは右手に水属性の付与魔法を発動させ、掌に青色の光と冷気が迸る。間違っても腕に付与魔法を施さないように気を付けながら近づけると、掌から放たれる冷気が右腕に届き、心地良い。しばらくは腕を冷やしていると、レナはある方法を考え付いた。
「あれ……もしかしてこの状態なら……」
新しい攻撃手段を思いつき、レナは吸魔石に魔力を送り込むのを止めて外に移動す事にした。
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