上 下
115 / 207
ゴブリンキング編

受身

しおりを挟む
――時刻が夕方を迎え、レナは自分の個室に引き籠り、吸魔石に魔力を注ぎ込みながら自分の戦闘法を見直す。白銀拳に雷属性の付与魔法を施し、戦技の「弾撃」を組み合わせた一撃は強力ではあるが、この攻撃法は白銀拳が存在する状態だからこそ利用できる。もしも装備を奪われた場合、この攻撃法は扱えない。


「……雷属性エンチャット風属性エンチャット


レナは両手に握りしめた吸魔石に別々の付与魔法を発動させ、魔力を注ぎ込む。最近では熟練度が高まった事で両手で別々の属性の付与魔法を施す事が出来る事が判明し、この方法で一気に2つの属性の魔法と耐性の熟練度を上昇させる事が出来る。魔力の消耗量が激しすぎるので普通の魔術師は真似は出来ないが、全ての属性の中で魔力容量が最も高い付与魔術師の職業の彼だからこそ出来る芸当である。


「う~んっ……地味だなぁっ」


効率性を考えればこの訓練方法ならば吸魔石に魔力を送り込み、更に熟練度も上昇できる。漫画やゲームのように派手な訓練法で一気に成長する事は出来ないため、レナは地道に魔力を送り続けているとノックも無しに部屋の扉が開かれる。


「ああ、ここに居たんだね」
「テンさん?」
「テンでいいよ。その呼び方はどうも嫌でね……敬語もしなくていい」
「はあ……?」


レナとしては自分の2倍近くの人生を生きている女性に呼び捨てで敬語を扱うなと言われて戸惑うが、テンは机の上に置いてある硝子箱に収められた吸魔石を確認し、首を傾げる。


「こいつは魔石かい?いや、この輝きは吸魔石か……変な物を持ち歩いているね」
「魔法の訓練も兼ねて持ち歩いていますから……」
「だから敬語は止めろって……へえ、こいつを使って聖水を生み出していたのか」


聖属性の吸魔石をテンは持ち上げ、不思議そうに覗き込む。この吸魔石を真水に数日間程浸けていれば聖水が誕生するが、実際にはヨウカが聖光石を利用して生み出す聖水の方が効果が高い。それでも教会は彼女の負担を軽減させるため、現在はレナの教えた製造法で聖水の生産を試みている。


「そういえば嬢ちゃん達は何処に行った?ここにいると聞いていたけど……」
「アイリィとコトミンは市場で回復薬を販売していますよ。今回の事で俺達も結構金を使ったので……」
「そうかい。それであんたはここで大人しく留守番かい?」
「そうなりますね……まあ、2人の護衛としてポチ子とアメリアさんも一緒ですけど」
「勝手にうちの騎士団の人間を使わないで欲しいんだけどね……まあ、どうせ巫女姫様に頼んだんだろう?」


テンの予想通り、アイリィがヨウカに頼んで護衛役としてポチ子とアメリアを指定し、更に巫女姫も外に出向きたいという事で5人で行動している。1人取り残されたレナは自室で吸魔石に魔力を送り込んでい時にテンが顔を出した事になる。


「そう言えばあんたは魔術師なんだろう?それに回復魔法も扱えるなら患者の治療でもしたらどうだい?」
「それだと教会の人の仕事を奪っちゃうんじゃ……」
「ああ、言われてみればあんたは部外者だったね……勝手に治療したらミキ団長が怒るか」
「あの……ミキさんは?」
「今は執務室で仕事中だよ。あたしも訓練場に戻らないとね……そうそう、うちの連中があんたに直接謝りたいから後で顔を出してくれないかい?」
「分かりました」


用件を伝えるとテンは部屋から立ち去ろうとしたが、途中で自分がまだ硝子箱に収められた吸魔石を握りしめている事に気付き、レナに放り投げる。


「おっと、これは帰すよ」
「わわっ……」


慌ててレナは硝子箱を受け止めようとするが、両手が塞がれているので受け止めきれず、腕に当たってしまう。テンとしては軽く投げたつもりだろうが、流石にワルキューレ騎士団の副団長を務める彼女のステータスは非常に肉体方面に傾いており、右腕に衝突した時に痛みが走る。


「あいたっ!?」
「ああ、悪い悪い。力加減を誤ったね」


テンはレナの様子を見て笑い声を上げながら部屋を退出し、レナは吸魔石を置いて腕を抑えるが、彼の視界に画面が表示される。どうやら今ので新しいスキルを身に着けたらしく、格闘家専用の「受身」というスキルを覚えたらしい。


『受身――外部の衝撃を和らげる』


偶然とはいえ、格闘家の職業を覚えて初めて肉体に強い衝撃を受けた事で芽生えたスキルらしく、こちらにも熟練度は存在するが職業の項目に格闘家を選択して以内と効果を発揮しない格闘家専用スキルだった。レナは右腕に聖属性の付与魔法を施そうとした時、ある事に気付く。


「水属性で冷やせないかな……?」


赤く腫れている右腕にレナは右手に水属性の付与魔法を発動させ、掌に青色の光と冷気が迸る。間違っても腕に付与魔法を施さないように気を付けながら近づけると、掌から放たれる冷気が右腕に届き、心地良い。しばらくは腕を冷やしていると、レナはある方法を考え付いた。


「あれ……もしかしてこの状態なら……」


新しい攻撃手段を思いつき、レナは吸魔石に魔力を送り込むのを止めて外に移動す事にした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...