上 下
112 / 207
ゴブリンキング編

お見舞い

しおりを挟む
レナが意識を取り戻したのはアラン炭鉱から脱出した二日後の昼であり、彼の予想以上に今までの疲労が身体に蓄積されていたらしく、目覚めて早々に身体の節々に痛みが襲う。レナはすぐに聖属性の付与魔法を施して筋肉痛を治療し、身体を起き上げて周囲の様子を伺うと、彼が居たのは陽光教会の建物の南側に存在する患者のための個室であり、ベッドから身を乗り出すと扉が開かれて2人の人物が入ってきた。


「あっ!!やっと起きたんだね!!」
「レノさん!!おそようございます!!」
「おは……いや、おそよう?」」


入ってきたのは陽光教会巫女姫のヨウカとワルキューレ騎士団の見習いのポチ子であり、2人の手元には大量の果物が入った籠と水が入った壺を用意していた。2人は机の上に籠と壺を置き、椅子を用意してレナのベッドの前に移動する。


「レノ君……いや、レノたんと呼んでいい?」
「え、何でっ!?」
「ご、ごめんね?私、実は男の子の友達は初めてだからどんな風に接すればいいのか分からなくて……」
「それで何でレノたん……ああ、渾名みたいな感じ?」
「ちなみに私は巫女姫様からポチちゃんと呼ばれています!!」
「ポチちゃん……」


ポチ子の立場を考えれば陽光教会の頂点トップである巫女姫のヨウカには敬語を使わなければならないはずだが、2人の間柄は友達のような関係らしく、立場を超えた友情をレナは感じた。ヨウカは果物をレナとポチ子に手渡し、自分も食しながら話を行う。


「レノたんが寝ている間に色々と起きたんだよ。ミキが凄く怒っていたけど、テンがそれを抑えたり、それに他の騎士団の人もレノたんに謝りたいって……」
「謝りたい?」
「失礼な態度を取ってごめんなさいだって……何かあったの?」


レナはワルキューレ騎士団の女騎士達の事を思い出し、彼女達はレナの考えた作戦に否定的であり、実際に厳しい態度を取っていた。それでも彼が3人だけで危険を犯して潜入し、100人以上の人質を帝都に避難させた報告を受けると、彼女達はレナ達が無茶な行動を犯したのは自分たちが辛辣な態度を取った事により、彼等が騎士団を信用できずに自分たちの力だけで問題を解決しようと動いたと思い込む。

実際にレナがワルキューレ騎士団の力を借りなかった理由は彼女達に連絡を行う時間が無かっただけであり、本当はアイリィとコトミンに連絡に向わせようとしたのが、様々な事情で結局は自分達と人質の人間と協力して共に炭鉱から脱出しただけである。それでもワルキューレ騎士団は自分達が彼等に信用されていないと判断し、今回のレナ達の無謀な行動は自分達にも責任があると考えていた。


「ミキも最初は怒っていたけど、今は他の人と同じようにレノたんに謝りたいって言ってるよ」
「そんな……別に謝る事なんてないのに」
「あ、それとさっきレノさんにお礼を言いたい人がいっぱい来ました!!命を救ってくれたお礼をしたいと言ってましたけど……」


ポチ子の話によると炭鉱から生き残り、帝国軍の事情聴取を終えた人間は陽光教会に何度も尋ねており、レナに礼を告げたいと申し出たが彼は意識を失っており、教会側が代わりに伝える事を承諾する。中には見舞いの品を持ってきた人間も多く、アイリィがレナの代わりに預かっていた。


「皆凄くレノたんに感謝してたよ。命を助けてくれてありがとうって……」
「そうなのか……」


ヨウカの言葉にレナは照れ臭く感じ、これほど大勢の人間に感謝された事など初めてであり、素直に彼等の気持ちは嬉しい。だが、まだ肝心の友人をゴブリンキングから救い出していない事を思い出し、一気に落胆してしまう。


「はあっ……ゴンゾウ君はどうなったんだろう」
「ゴンゾウ君……確か巨人族のお友達の?」
「そう。まだあいつらに捕まっているはずなのに……見つけられなかった」
「そっか……でも大丈夫だよ!!明日には帝国軍の討伐隊が出発するから、きっと兵士の人が助けてくれるよ!!」
「討伐隊?ちょっと待って……俺が寝てからどれくらい時間が経っているの?」
「えっと……二日ぐらいかな?」
「二日!?そんなに寝てたのか……」


今まで魔法の使用によって意識を失う事はあったが、今回の場合は予想以上に眠っていた時間が長い事にレナは戸惑う。



――彼が二日間も眠り続けていた理由は職業スキルに関係しており、レナは知らないが彼が炭鉱で習得した「格闘家」という職業は魔術師とは非常に相性が悪い職業であり、普通の人間ならばこの二つの職業を一緒に覚える事は出来ない。それでも彼が二つの職業を身に着けたのは異世界人であり、SPを使用して覚えた事が関係する。



彼は後で知ったが一般的にこの世界の人間はステータスと「主職」と「副職」の選択を行う際、同質の職業を選ぶことが多い。例えば陽光教会の治癒魔導士は主職に「治癒魔導士」副職に「魔術師」の職業を選択しており、同じ系統の職業を選ぶことで覚えられる能力を魔法方面に発展している。逆にゴンゾウのような巨人族は主に「格闘家」や「剣士」のような職業を選択し、魔法ではなく戦闘方面の能力を伸ばそうとする。

だが、レナの場合は魔術師と格闘家の職業を選び、魔法と戦闘の二つの方面の能力を覚えようとしている。暗殺者の職業の場合は戦闘方面ではなく、隠密能力に特化した職業のため問題はなかったが、今回はレナが無理に二つの相反する職業を身につけようとした事で身体に大きな負担が掛かった。
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう
ファンタジー
大陸最大の王国である『ファーレン王国』 そこに住む少年ライトは、幼馴染のリリカとセエレと共に、元騎士であるライトの父に剣の稽古を付けてもらっていた。 ライトとリリカはお互いを意識し婚約の約束をする。セエレはライトの愛妾になると宣言。 愛妾を持つには騎士にならなくてはいけないため、ライトは死に物狂いで騎士に生るべく奮闘する。 そして16歳になり、誰もが持つ《ギフト》と呼ばれる特殊能力を授かるため、3人は王国の大聖堂へ向かい、リリカは《鬼太刀》、セエレは《雷切》という『五大祝福剣』の1つを授かる。 一方、ライトが授かったのは『???』という意味不明な力。 首を捻るライトをよそに、1人の男と2人の少女が現れる。 「君たちが、オレの運命の女の子たちか」 現れたのは異世界より来た『勇者レイジ』と『勇者リン』 彼らは魔王を倒すために『五大祝福剣』のギフトを持つ少女たちを集めていた。    全てはこの世界に復活した『魔刃王』を倒すため。 5つの刃と勇者の力で『魔刃王』を倒すために、リリカたちは勇者と共に旅のに出る。 それから1年後。リリカたちは帰って来た、勇者レイジの妻として。 2人のために騎士になったライトはあっさり捨てられる。 それどころか、勇者レイジの力と権力によって身も心もボロボロにされて追放される。 ライトはあてもなく彷徨い、涙を流し、決意する。 悲しみを越えた先にあったモノは、怒りだった。 「あいつら全員……ぶっ潰す!!」

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

処理中です...