上 下
95 / 207
ゴブリンキング編

盗賊捕獲

しおりを挟む
「団長!!盗人を捕まえてきたよ!!」
「は、離せ!!この筋肉女!?」
「わうっ!!大人しくしてください!!」
「早かったですね……」


緊急医療室に少女を抱え状態のたテンが現れ、彼女の傍には白銀の鍵を握りしめたポチ子も存在し、ミキの元に駆け付けて彼女に渡し、鍵を本物だと確かめるためにミキはヨウカに手渡す。


「ヨウカ様」
「う、うん……間違いない、この鍵だよ!!」
「良かった……それでは話を聞きましょうか」
「ひぃっ!?」


普段から鍵を取り扱っているのは彼女だけであり、ヨウカは取り返した鍵が本物だと見抜くと、全員が彼女の言葉に安堵の息を吐く。そして盗賊の少女にミキが鋭い視線を向け、先ほどまで暴れていた少女は彼女に瞳を向けられただけで硬直し、テンは彼女を手放して無理やりにその場に正座させる。


「さて……どうしてこの鍵を盗んだのか教えてもらいましょうか?返答によってはこの場で貴女に罰を与えます」
「ふ、ふんだっ!!あんた達は人殺しはご法度なんだろ!?そんな脅しなんて……」
「確かに我等は無益な殺生は好みません。ですが、罪人に罰を与える方法は幾らでも存在します。どれ程の拷問を受けようと回復魔法を施せばどんな怪我だろうと治してみせましょう」
「ちょ、ちょっと待ってよ……冗談だよな?」
「テン」
「あいよ」


後方から少女の肩を掴んでいるテンが右腕を掴み取り、何事もなく雑巾搾りのように握りしめる。彼女は悲鳴を上げ、唐突なテンの行動にレナ達は動揺するが、ミキは無表情で少女に視線を向けた。


「どうですか?彼女は教会の中でも二番目を誇る怪力です。正直に答えなければ反対の腕も同じ結果になりますよ。それとも骨が歪な状態での回復魔法を施した時の激痛を味わいますか?」
「や、止めてぇっ!?いやぁっ……は、話します!!話しますからぁっ……!!」
「ちっ、しょうがないね……ほらよっ!!」


テンは慣れた手つきで捻り込まれた右腕を今度は引き延ばすように動かし、ミキが杖を構えて「治癒ヒーリング」の魔法で治療を行う。瞬く間に少女の右腕は元に戻り、彼女は涙を流しながら自分の右腕を抱きしめる。予想外のミキとテンの予想外の行動にレナ達は若干身体を引くが、彼女の尋問は終わらない。


「質問に答えなさい。どうして貴女はこの鍵を盗んだのですか?」
「め、命令されたんだよ……ゴブリンキングに」
「はあ?何を寝ぼけた事を言ってんだい?魔人族も出ない魔物が人語を話したとでもいう気かい?」
「ほ、本当だよ!!あいつは私の仲間を人質にしてあんた達の教会に存在する鍵を盗み出せと言ってたんだよ!!だから私はこいつらの仲間の1人に化けてあんた達の教会に忍び込んだんだ!!」
「……俄かには信じられませんが」
「でもミキ、この人は嘘を言ってないよ?」
「俺もそう思う」


少女の発言にヨウカが口を挟み、彼女は「真偽眼」の持ち主なのでどんな人物であろうと「嘘」を吐いた場合は見抜く事が出来る。レナも彼女の言葉には「悪意」は感じられず、嘘を言っていない事を確信する。2人の言葉にミキは動揺し、彼女の言葉が真実ならば「ゴブリンキング」が人語を話し、更に陽光教会に忍び込んで鍵を盗むように指示を与えた事になる。


「魔物が人語を理解するどころか教会の重要物の存在を知っていたんですか?しかも冒険者を利用して教会に忍び込む方法まで考えたなんて……」
「ゴブリンキングの知能は人間にも勝るとは聞いたことがありますが、まさか人語まで話せるとは……興味深いですね」
「な、なあっ……頼める立場じゃないのは分かってるけどさっ!!私の仲間を助けてくれよ!!その鍵さえ持っていけばあいつらは……」
「お断りします。この鍵を失えばこちらも大きな損失が生まれます。それに聖水を生みだせなくなれば今後訪れる怪我人の治療も出来なくなります……残念ですが貴女には渡せません」
「そんなっ……それがないと私の仲間も、いや、炭鉱で捕まった奴等も全員殺されちまうんだぞ?」
「捕まった?どういう事だい?まさか、もう他の奴等は全員が捕まったのかい?」
「……わ、分からない。だけどゴブリンの大群が急に現れて護衛の冒険者も兵士もあっと言う間にやられたんだ……あいつら、毒矢なんて使いやがって……」
「だけど中には巨人族も居たんだろう?あいつらは毒の耐性を持っているから、クド草だろうと簡単には倒れないだろ?」
「確かに1人だけ元気な巨人族がいたさ……そいつだけは矢を何本を受けてもゴブリン共を薙ぎ倒していたよ。だが……トロールやオーガ級の体格のゴブリンが現れてそいつも袋叩きにされたよ」


彼女の話によると既に大半の人間がゴブリンの奇襲によって緊急医療室に倒れている冒険者のように毒に身体を侵されたらしく、全員がまともに動けない状態に追い込まれたという。その中で1人だけ居た「巨人族」がゴブリンに善戦していたが、通常のゴブリンよりも大柄な体格の「ゴブリンナイト」の登場により、その巨人族も倒されてしまったという。レナの脳裏にゴンゾウが思い浮かび、彼がゴブリンに倒されたという話に目を見開く。
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...