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ゴブリンキング編

草原の異変

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「たくっ……ゴブリンの癖に手こずらせやがって」
「完全に死んでいますね……それにしてもどうして馬車の中に待ち伏せを……」
「不用意に近づいてきた敵を仕留める為にじゃないですか?だけどファングを飼い慣らすなんて並のゴブリンには真似は出来ませんよ」
「それにこのファングが商団を襲ったとは考えにくいね。牙の規模が違いすぎる」


倒したゴブリンとファングの死体を調べ上げ、どうして馬車の中にこの2体が隠れていたのかは不明だが、先ほどのオークのように普通の個体よりも知能が高く、レナはゴブリンが落とした短剣を拾い上げると刃が濡れている事に気付き、鑑定のスキルを発動させて刃を確かめると視界に画面が表示され、その内容に目を見開く。


「これは……」
「どうしました?」
「……毒が塗られている。これで斬り付かれていたら不味かった」
「えっ!?」
「本当かいそれは!?」
「くんくん……わぅうっ!?す、凄く危険な香りです!!」


レナの鑑定によると刃には猛毒が塗り付けられており、先の戦闘中に誰かが素肌に斬り付かれていたら解毒の薬や魔法を用意しておかなければ助かる手段はなかった。全員がゴブリンに視線を向け、小柄で力が弱い存在とはいえ、ファングを従えたり、武器や防具を身に着けるだけではなく、毒物も事前に刃に塗り込ませるなど明らかに普通ではない。相手がゴブリンだと油断していたテンは冷や汗を流し、掠り傷を1つでも受けていたら彼女でも死亡していた可能性があった。


「ミキ団長……こいつは普通じゃないよ。ゴブリンにしろ、オークにしろ……ここは早めに切り上げて草原を調査した方がいいんじゃないのかい?」
「そうですね……申し訳ありませんがレノ様、今日の所は引き返しましょう」
「分かりました。2人もいいよね?」
「別にいいですよ。だけど、このゴブリンの毒を少し調べてもいいですかね?」
「構いませんが……何をする気ですか?」
「毒の成分を調べます。まあ、私の鑑定のスキルなら一目見ただけで原材料まで見抜くことが出来ますから……」


アイリィは刃に視線を向け、レノよりも熟練度の高い鑑定のスキルを発動する。そして彼女は視界に映し出された画面に視線を向け、全員が彼女の反応を見守ると、アイリィは険しい表情を浮かべる。


「……どうやらこのゴブリンが使っていた毒は植物から抽出したようですね。名前はクド草……それも山岳地帯にしか生えない毒草です」
「クド草……!?」
「そんなに危険な物なの?」
「危険ですよ。大型の魔物だろうとクド草を食べた瞬間にお陀仏です。でもクド草の毒を利用するゴブリンが居るなんて聞いたことがありませんね……この近くにクド草が存在する山岳は存在しますか?」
「山岳……一つだけ心当たりがあります。この帝都には近くに1つだけ鉱山が存在するのです。そこには魔石の原石が発掘できる「アラン炭鉱」と呼ばれる炭鉱があるのですが、多数のゴブリンも生息しており、クド草も存在したはずです」
「ちょっと待ってくれよ。アラン炭鉱からこの草原まで馬で移動しても3時間は掛かるんだぜ?そんな遠くからこのゴブリンは訪れたと言うのかい!?」
「このファングに乗ればもっと早く移動できるんじゃないですか?」


横たわっているファングにアイリィは視線を向け、確かに先ほどの戦闘の際に発揮した速度ならば馬よりも遥かに早く移動する事が可能であり、レナ達が倒したゴブリンがアラン炭鉱と呼ばれている鉱山から訪れた可能性が高い。草原にはゴブリンが住み着く事はないのでそれ以外の可能性はむしろ考えられず、わざわざファングを従えてゴブリンがこの草原に訪れたと判断すべきだろう。


「アラン炭鉱……そういえば噂では冒険者の護衛を増員させたと聞いています。炭坑内の魔物の被害が大きくなり、冒険者ギルドが急遽増員させたと……」
「おいおい……もしかしてこいつは」
「アラン炭鉱を調べて見ましょう。すぐに帝都に引き返しますよ!!」


ミキの言葉に全員が従い、アイリィ達は馬車に乗り込む。だが、レナは先ほどのミキの言葉を聞いた瞬間、帝都を出発する前の会話を思い出した。



『それでは参りましょうか。人数はこれだけですか?』
『ゴンちゃんも誘いたかったけど、今日は依頼で近くで炭鉱の方に向かうらしいから誘えませんでした』
『炭鉱?なるほど……護衛任務ですね』



――先ほどの会話から帝都に一番近い鉱山の炭鉱は「アラン炭鉱」であり、ゴンゾウが依頼として護衛に赴いた先はアラン炭鉱である事に気付く。
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