上 下
58 / 207
ゴブリンキング編

初外出

しおりを挟む
「その自由フリーの冒険者にはどうやってなれるの?」
「特に資格は必要ありませんけど、流石に仕事を行う以上は専用の建物を用意しないといけませんよ。言ってみれば自分達だけの冒険者ギルドを作り出す必要がありますから。それに商会スポンサーも必要になりますね。後は冒険者活動以外の副業も行ったり、他の冒険者ギルドに刺激を与えないように気を配ったり、色々と面倒ですよ」
「詳しいなアイリィ……さてはお前も冒険者に憧れていたんだな」
「そ、そんな事ないじゃないですか?少し気になる職業だったので調べただけですよ」


レナの言葉にアイリィは珍しく動揺した風に視線を逸らし、彼女も意外な事に冒険者という職業には興味を抱いていたようであり、2人に内緒で独自に調べていた事が発覚する。最もアイリィの話によれば自由冒険者を行うのも非常に困難な条件が複数存在し、ゴンゾウ1人だけではどうしようもない。それでも彼は冒険者の夢を諦めるつもりはなく、レナ達に深く頭を下げる。


「俺の為に色々と教えてくれてありがとう。ここまで人間に優しくされたのは初めてだ」
「……人間かどうか怪しいのがここに2匹いるけど」
「誰の事ですか」
「……むぅ、失礼なっ」
「いや、貴方は人間じゃないでしょう?」
「そうだった……」
「面白いな、お前達は……」


ゴンゾウがレナ達のやり取りに笑みを浮かべ、強面ではあるが笑顔に関しては年齢相応な無邪気さを見せ、彼は自分の小袋から代金を取り出そうとした時、隣の机で食事を行っていた獣人族の女性が立ち上がり、彼の握りしめている財布用の小袋を奪い取る。


「ぬおっ!?」
「貰っていくわ!!」
「あ、ちょとあんたっ!?食事代……」


獣人族(猫型)の女性はゴンゾウから小袋を奪い取り、そのまま店の中を駆け抜ける。彼女の行動に慌ててゴンゾウと店員が追いかけようとするが、女性は本物の猫科の動物のような身軽な動作で跳躍を行い、食事中の人間達を飛び越えて開け放たれた窓の外から抜け出す。


「ちょっ、泥棒ですよ!?」
「くっ……!!」
「うわっ!?何だ一体!?」
「おい、危ねえだろ!!」


ゴンゾウが慌てて追いかけようとするが、彼の巨体が災いして他の食事中の客に身体が当たってしまう。巨人族は力は強いが足の速度は遅く、一方で獣人族は動物の種族によるが基本的に他の種族よりも足が速い者が多い。レナはゴンゾウの代わりに別の窓に移動し、外の光景を覗き込むと一通りを駆け抜ける先ほどの獣人族を発見する。


「アイリィ!!お代は頼む!!」
「え、わあっ!?」
「レノ?」
「行ってきます!!」


レナは肉体に聖属性の付与魔法を無詠唱で発動させ、身体能力を強化させて勢いよく飛び出す。先ほどの獣人族のように客を飛び越えて窓の外から抜け出し、外に出ると「索敵」のスキルを発動して獣人族の後を追う。人通りが多いのでどちらも通行人を避けて通らなければならず、獣人族の方も速度は落していた。


「待て!!」
「ちっ!!しつこいわね!!」
「うわっ!?」
「おい、危ねえだろっ!!」


通行人が多いので他の人間に衝突しないように両者は移動しなければならず、2人とも必然的に移動速度が鈍くなる。それでもレナは懐から元の世界の硬貨を取り出し、水属性の付与魔法を発動して投擲を行う。


水属性エンチャット……このっ!!」
「あうっ!?」


硬貨を氷結化させて「狙撃」のスキルも発動して投擲を行い、見事に獣人族の女性の頭部に的中させる。相手は前方に転倒したのを確認したレナは彼女に近付き、完全に気絶したよのか女性が動く様子はなく、今のうちに彼女が所持しているゴンゾウの小袋を取り返すためにレナは手を伸ばす。


「捕まえ……」
「おい、何をしている!!」
「そこを動くな!!」


だが、倒れた女性に近づこうとした途端に巡回を行っていたのか警備兵と思われる兵士が現れ、レナと地面に横たわる獣人族の女性の元に接近する。状況的に非常にレナが分が悪く、傍から見れば彼が女性を襲って金銭を奪い取ろうとしているように見られても可笑しくはないため、慌ててレナは女性から離れて弁解を行おうとする。


「いや、あの……」
「動くなと言っているだろう!!」
「大丈夫ですかっ!?」
「くっ……」


警備兵の1人がレナに槍を構え、もう1人が獣人族の女性を抱き上げて意識を取り戻させる。彼女は最初は何が起きたのか理解できない様子だが、すぐに現在の状況を察したのか一瞬だけ笑みを浮かべてレナを指差す。


「こ、こいつがいきなり襲ってきたのっ!!私のお金を奪おうとして……」
「何だと!!」
「貴様……盗人だな!!」
「ちがっ……」
「言い訳をするな!!こちらに来い!!」


女性の言葉に警備兵はレナを泥棒だと信じてしまい、彼の腕を引き寄せようと警備兵が手を伸ばした時、通行人を掻き分けてこちらに近づいてくる人間がいた。


「あ、ちょっと待って!!その人は嘘を言ってないよ~」
「えっ?」


声のした方向に視線を向けると、そこには修道女のような青色のローブを纏った少女が立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

花婿が差し替えられました

凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。 元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。 その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。 ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。 ※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。 ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。 こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。 出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです! ※すみません、100000字くらいになりそうです…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...