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スラム編

カトレア捕縛

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「コトミン……いや、コトミンさん。そんなに強かったんですね」
「これからはコトミン様と呼んだ方が良いですかね?」
「……違う。この子、元から弱っていた」


コトミンの一撃で倒されたカトレアは目覚める様子がなく、アイリィが念のために様子を伺う。その間にレナはコトミンの右腕の異変に気付き、彼女が「白銀拳」に変化させた腕が大きく凹んでいる事に気付く。


「それは……?」
「これは腕を変形させただけ……これぐらいなら元に戻せる」
「本当の金属に変化した訳じゃないんですね」


彼女の話によるとコトミンは自分の腕は外見だけはレナの白銀拳に変化させたが、外見を真似ただけで実際に本物の並の硬度が存在する訳ではなく、すぐに彼女は自分の右腕を元の状態に戻す。それでもカトレアを吹き飛ばした時の威力は凄まじく、意外にもコトミンの腕力は強いのかも知れない。


「そう言えばコトミンさんはスライムでしたよね。どんな形にも変形できるという事は全身を筋肉に変化させて相手に殴りつける事も出来る……そう考えるとコトミンさんはスライムの中でも高性能ハイスペックなスライムなんですね」
「……照れる」
「全身を筋肉に変化……凄そうだな」


最後のコトミンの一撃はアイリィの説明によると自分の肉体を全て筋肉のように変化させる事で驚異的な運動能力を生み出し、カトレアに強烈無比な攻撃を加えたらしい。スライムならではの攻撃方法であり、常人では決して真似する事は出来ない。


「どうやら本当に気絶しているみたいですね。だけどすぐに意識を取り戻しますよ。サキュバスは回復力も半端ないですから」
「どうすればいいかな……」
「普通に警備兵に突き出しましょう。これだけ弱っていれば鎖か何かで拘束して置けば何も出来ませんよ」
「大丈夫かな……」



――アイリィの言葉通りにレナはカトレアの拘束に取り掛かる。鎖は所持していなかったので彼の鞄の中に入れていた予備の衣服を利用し、まずは服を引き千切り、両手と両足を千切った布で拘束する。その状態からレナは水属性の付与魔法を発動させ、拘束した個所の布を凍結させる。これならば簡単に抜け出す事は出来ず、後はカトレアを警備兵に突き出す必要がある。

帝国から厄介者扱いされているレナが警備兵にサキュバスを引き渡すのは面倒な事体に発展する可能性が高く、念のために引き渡す際はコトミンの擬態能力を利用して屈強な男性冒険者に変装を行い、この状態でレナは帝都の兵士の駐屯所に赴き、スラム街に現れたサキュバスを帝国軍に引き渡す。


『な、なんだお前は!?』
『その女は一体……』
『……こいつはサキュバスだ。後は任せたぞ(裏声)』
『あ、おい!?』


当然だがスラム街を騒がせていたサキュバスを捕獲した男性冒険者レナの対応に兵士は動揺するが、カトレアの引き渡しを終えた直後にレナは逃げ出し、聖属性の付与魔法を利用して建物の屋根の上を跳躍して兵士達から逃走する。



何故かサキュバスを引き渡して逃げ去った男性冒険者の行動に兵士は呆然と見送る事しか出来ず、即座に王城に連絡を送る。兵士の報告に防衛大臣のデキンは先日のヴァンパイアを打ち倒したという冒険者の事を思い出し、すぐに今回のサキュバスを捕獲した男性冒険者こそが同一人物であると推測を行い、兵士から男性冒険者の特徴を聞き出し、絵師を呼んで似顔絵を行わせて捜索を開始する。

しかし、兵士達が遭遇したのはあくまでもコトミンの能力で姿形を変化させたレナであり、デキンはまさか自分が追放した人間がヴァンパイアとサキュバスを打ち倒した人間だと気付かず、存在しない人間の捜索を行う。



一方で帝国に捕獲されたサキュバスは王城の地下牢に隔離され、下手に他の囚人の牢屋に送り込むと魅了の力で囚人達や見張りの兵士を従える可能性があり、最低限の食事だけを与えてしばらくの間は様子を伺う事が決定した。彼女が魔王軍と関わりがある可能性は高いが、この帝国では法律によって死刑は存在せず、拷問を行おうにもサキュバスの魅了の能力によって長時間同じ空間に存在するだけで兵士や拷問官が魅了される可能性があり、結局は地下牢に拘束する事しか出来なかった。

帝国がカトレアの扱いに難儀している所、レナ達は独自に上質の回復薬を生成し、市場の露天商に取引を行いながら地道に金銭を稼ぎ続ける。結果的には帝国の危機を二度も救った形になるのだが、当のレナ本人は城に戻るつもりはなく、のんびりとアイリィとコトミンと一緒に過ごす。



――そしてサキュバスの騒動から数日後、予定よりも早く魔道具店にホノカが帰還した。
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