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スラム編

反撃

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「ふうっ……いや、まだだ!!」
「グガァアアアッ……!!」


危うく一息を吐きそうになったが、まだレナの前には死喰人が残っており、先ほどの攻撃では相手を吹き飛ばしただけで聖属性の付与魔法で倒したわけではなく、死喰人は傷を負いながらも屋根の上に移動してレナに視線を向ける。その瞳は未だに戦意は衰えておらず、あくまでも彼の事を餌とだけ認識していた。


「ウガァアアアッ……!!」
「くそっ……水属性エンチャット!!」
「ガアッ!?」


近付いてきた死喰人の足元を水属性の付与魔法を発動させ、屋根を凍り付かせて相手を滑らせる。その隙を逃さずにレナは跳躍を行い、白銀拳に聖属性の付与魔法を発動し、拳を叩きつけようとした瞬間、死喰人は爪を氷結化した屋根に突き刺し、逆立ちの要領でレナに蹴り出す。


「グギィッ!!」
「うわっ!?」


空中では避ける事が出来ず、咄嗟にレナは両腕を交差して受け止めようとすると、彼の意思に反して身体が勝手に動いて右方向に「回避」する。何が起きたのか理解するのに時間が掛かったが、先ほどレナが習得した「回避」の戦技が自動的に発動したらしく、空中にも関わらずに相手の攻撃を躱す。


「うわわっ……!?」
「アガァッ……グアアッ!!」


凍り付いた地面に死喰人は靴を脱ぎ棄てると、足の方の爪も鋭利に研ぎ澄まされており、爪先立ちの要領で凍り付いた屋根に足の爪を突き刺し、レナに接近して両腕を振るう。理性が無いにも関わらずに冷静に凍り付いた足元の対処を行う死喰人にレナは身を躱す。


「くっ……このっ!!」
「ウガァッ……!?」


相手の攻撃に対してレナは回避を繰り返し、先ほど覚えたばかりの戦技を上手く発動して攻撃を全て躱す。実は彼が覚えた戦技の「回避」は熟練度の高さによって発動の確率が変動するスキルではあるが、レナは「幸運」のスキルを所持しており、回避の成功率が初期の時点から非常に高くなっている。それでも完全な発動は不可能であり、隙を突かれて押し飛ばされてしまう。


「ガアアッ!!」
「うわっ!?」


白銀拳で攻撃を防いだが勢いを殺し切れずに体勢を崩してしまい、レナは膝を崩してしまう。その隙を逃さずに死喰人は右腕を突き刺そうとするが、その瞬間にレナの視界に異変が生じる。



『――来たっ!!』



確実に頭部に近づいてくる死喰人の右腕が遅行化スローモーションのように遅くなり、ヴァンパイア戦でも芽生えた感覚であり、レナは近付いてくる右腕を正確に見極めて最小限の動作で回避を行ない、拳を突き出して胸元に左腕を叩き込む。


『戦技「反撃」を習得しました』


視界に画面が表示され、どうやら新しいスキルを覚えたようだが、レナは相手に悲鳴を与える暇もなく聖属性の付与魔法を発動させて最後の一体を倒す。


「あがぁっ……!?」
「ふうっ……」


死喰人が倒れると肉体から赤色の煙が噴き上がり、身体に生まれた黒色の染みが消え去る。但し、他の人間と違って死亡した様子であり、彼は苦悶の表情を浮かべながら地面に横たわっていた。その光景にレナは口元を抑えるが、まだ油断はできない。


「くぅっ……流石に疲れた」


何度も魔法を使用した事で彼の体力も魔力も消耗しており、その場に座り込む。ステータス画面を確認して先ほど覚えた「反撃」のスキルの確認を行う。


『反撃――相手の攻撃を利用し、逆に攻撃を仕掛ける』


こちらは戦技ではあるが回避と同様に発動の条件が存在するらしく、どちらも相手側から攻撃を仕掛けないと発動しないらしい。レナは確認を終えると立ち上がり、周囲の様子を伺う。少なくとも他の場所で騒ぎが起きている様子はない。


「全員倒したのかな……」


屋根の上から周囲の光景を見渡すが、スラム街は暗黒に支配されており、月で照らされてはいるが視界は良好とは言えない。この状況下で役立つスキルはないのかとスキル画面を開き、未修得スキル一覧から「暗視」と呼ばれるスキルを発見する。


『暗視――暗闇の中でも周囲の光景を視認できる』


すぐにレナは惜しみなくSPを使用して修得し、生き残るためならばSPを節約しない彼の判断は間違って派はいない。スキルの効果で暗闇の中でも昼間のように周囲の光景の確認を行えるようになり、レナは聖属性の付与魔法を発動して自分の肉体の身体能力を強化させようと掌を身体に構えようとした時、自分がいつも掌を通して魔法を発動している事に気付く。


「……もしかして」


先ほどは付与魔法を発動する時は無詠唱でも成功した事を思い出し、今度は掌を介さずに自分の肉体に聖属性を付与させる事が出来ないのか試す。意識を集中させ、レナは肉体に付与魔法を施す際の感覚を引き起こした瞬間、身体に聖属性の光が一瞬だけ灯る。


「やった!!成功した……!?」


掌を身体に押し当てずとも聖属性の効果を発揮できたことに喜ぶが、すぐに彼は自分の背後に違和感を感じ取って振り返る。暗殺者の「気配感知」のスキルが発動した訳ではないのだが、後方に異様な脅威を感じて振り返ると、レナの視界に空中を浮揚する金髪の少女が浮揚していた。


「あれれっ……気づかれちゃったぁっ」
「なっ……!?」


その少女の瞳を見た瞬間、レナの身体が硬直し、何度も経験がある「魅了」のスキルを受けた時の感覚が蘇り、膝を崩してしまう。
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