上 下
16 / 207
バルトロス帝国編

弓矢の練習

しおりを挟む
「魔物は何処に生息してるんですか?」
「おいおい……まさか君一人で魔物と戦うつもりかい?さっきの話は聞いていただろう。正直に言って君のステータスは子供並なんだよ」
「でも、一応は魔法を使えますし……」
「駄目だ。付与魔法はあくまでも武器に魔法の力を付与させる魔法だろう?君は武器や格闘の心得があるのかい?」
「うっ……」


ホノカの言う通り、確かにレナは元の世界でも武道の類を学んではいない。それどころか他人と喧嘩した事もなく、格闘経験など一度もない。それ以前いこの世界の魔物というのがどんな存在なのかも完全には理解しておらず、レナ自身ももしも敵にコトミンのような人間のような外見の魔物が現れた場合、本当に相手と戦えるのかは分からなかった。


「やれやれ……しょうがない、お姉さんが少し協力してあげよう」
「協力?」
「処分するつもりだった付与魔術師向けの道具を渡してあげるよ。扱い方も教えてあげるよ」
「あ、ありがとうございます!!」
「但し、生活に余裕が出来たら僕の店を贔屓してくれよ?」


彼女は店の奥に移動し、数分後に弓矢と矢筒を抱えて戻ってきた。机の上に弓矢を置くと10本程の矢を横一列に並べ、レナに1本差し出してくる。彼は不思議そうに受け取ると、ホノカは弓の弦を引き搾り、具合を確かめる。


「付与魔術師が扱えるのは付与魔法だけ……普通の魔術師のように砲撃魔法は扱えなかったね」
「砲撃魔法?」
「名前の取りに魔力を砲撃するように解き放つ魔法さ」


要は魔力を光線のように撃ち出す魔法らしく、漫画やゲームでは定番と言える魔法と言える。但し、付与魔術師のレナでは扱えない魔法であり、彼の場合は物体に魔法の力を付与させる事しか出来ない。


「君の付与魔法の中で一番得意な属性はなんだい?」
「得意……火属性です」
「火属性の付与魔法か……どの程度扱えるんだい?いや、実際に試した方がいいかな。その弓矢の鏃の部分に付与してくれないか?」
「あ、はい……火属性エンチャット


レナは言葉通りに受け取った矢に付与魔法を施し、鏃に火が灯る。熟練度が4に上がっているため、火力の方も強まっており、火矢と化した矢をホノカに見せると彼女は感心した風に頷く。


「へえ……一瞬で付与魔法を施せるのか。それにこの火力……もしかしたら弓矢の技術を身に付ければ冒険者になれるかもしれないな」
「え?」
「まあ、まずは弓矢を扱えるようにならないとね。裏の方に行こうか」


ホノカに促され、レナは店に誰もいなくなるのは良いのかと疑問を抱くが、ホノカの好意を無下には出来ない。それに今後の事を考えれば戦闘の技術は身に付けて置きたいため、彼女に甘えさせてもらう事にする。




――その後、店の裏でレナは弓矢の基本的な扱い方を教えてもらい、まずは矢を的に当てる事から練習を行う。付与魔法を鏃に施す前に相手に矢を当てられる技術を身に付けなければ何も始まらず、ホノカはしばらくしたら店の方に戻ったが、レナは夕方を迎えるまで練習を繰り返し、何度も取り扱い慣れない弓矢の弦を引いたために指先の皮膚が剥がれてしまうが、定期的に聖属性の付与魔法を施して治療を行う。どうやら回復魔法は自分にも利用できる事がこの時に判明した。




流石に夜を迎えるとレナも宿屋の方に帰宅し、ずっと宿屋に閉じ籠っていたコトミンと合流する。彼女は身体を動かさないように今まで眠っていたらしく、身体を維持するために今日もレナが「聖属性」の付与魔法を施す。


「どう?気持ちいい?」
「んっ……レノの温かい力が身体に染みわたる」
「それは良かった」


彼女の掌を握りしめながらレナは「聖属性エンチャット」を施し、コトミンの肉体に聖属性の魔力を送り込む。彼女は心地いいのか猫の様に目を細め、レナの身体に擦り寄る。出会ってまだ二日程だが随分と懐かれあ様であり、彼女の頭を撫でながらレナは自分のステータ画面を確認すると熟練度が向上している事に気付く。

色々と試した結果、付与魔法の熟練度が上昇しやすいのは付与を施す対象の物体の大きさが関係しており、火属性の熟練度を4まで上昇させるときはレナは元の世界の硬貨に数十回も付与魔法を施したが、聖属性の場合は弓矢の練習で負った怪我の治療の時に数回、そしてコトミンの肉体維持のために魔力を送り込む行為の2回目だけで熟練度が3にまで上昇していた。この事から付与させる物体によって熟練度の上昇値も変化するのは間違いない。


「……レノ、昨日よりも魔力の容量が増加してる?」
「えっ……そうかな」
「間違いない。だって昨日よりも送り込まれる魔力が多いから」


コトミンの言葉にレナは自分の掌を見つめ、昨夜は何十回も魔法を使用した後にコトミンに魔法を施した事で気絶してしまったが、今回は彼女に魔法を施しても十分に魔力の方にも余裕があった。何時の間にかステータスのレベルも3に上昇しており、レベルが低い状態だと熟練度の上昇だけで得られる経験値だけでレベルが上がるらしい。

最初の頃と比べるとレナの付与魔法を施す時の身体の負担も大きく軽減されており、この調子ならば他の魔法の熟練度の上昇させる事も出来るだろう。だが、その前に例の「回復屋」の仕事を行うため、レナは聖属性の熟練度を優先的に上げる事を決める。


「コトミン、もう少しだけ続けても大丈夫?」
「……どんと来い」
「何処で覚えたそんな言葉……なら続けるよ」
「あっ……んぅっ……ふぅうっ」


一気に熟練度を上昇させるために彼女の身体に送り込む魔力を増幅させ、レナは身体の限界まで聖属性の付与魔法を施す。魔力が切れても一度眠れば完全に回復する事は実証済みであり、部屋の中にいる間はコトミンの肉体磁も兼ねて彼女に魔力を与え続ける。何としてもあと2日の間に生活費を稼ぐ方法を確保しなければならず、レナは自分の取り柄である付与魔法の練習を行う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...