最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
13 / 207
バルトロス帝国編

黒猫亭

しおりを挟む
「そろそろ宿を探さないと……えっと、何処に行けばいいんだっけ……」
「ん?君達はまだ宿を決めていないのかい?」
「え、あっ……はい」


レナは串焼き屋の店主からお勧めの宿屋を聞いていたが、ここまでの道中で色々とあり過ぎて忘れてしまう。今から屋台に戻って尋ね直すという方法もあるが、彼の呟いた言葉を聞いた魔道具展の店主が口を挟む。彼女の質問にレナは正直に答えると魔道具店の店長は丁度いいとばかりに店の向い側の建物を指差す。


「それならこの正面に存在する宿屋がお勧めするね。ちょっと店主の営業態度に問題があるけど、値段も安いし料理も美味しい宿屋だよ」
「本当ですか?」


店主の言葉にレナは硝子のような水晶で構成されている壁の向こう側に視線を向け、少し古びた木造製の建物を発見し、看板には「黒猫亭」と言う名前が刻まれていた。レナは店主に感謝の言葉を告げて店の外に移動し、コトミンを引き連れて宿屋の方に向かう異にする。


「あっ……そういえばコトミンはどうする?自分で元の場所に帰れるなら……」
「今の状態じゃ無理……帰る前にお腹が空いて倒れると思う」


普通に行動を共にしていたがコトミンはスライム(自称)であり、自力で元の住処に戻れるのならばレナと行動を共にする必要もないが、彼女は彼の服の裾を掴んで首を振る。現在の状態では肉体を保つだけで限界らしく、先ほどの回復薬だけでは完全に回復したわけでないという。


「この宿屋か……思っていたよりもかなり年季がある建物みたいだな」
「ちょっと傾いている……」


2人の言葉通り、黒猫亭という看板を掲げた宿屋は周辺の建物の中でも廃れており、扉を開くだけ軋む音が鳴り響く。中に入り込むと受付には黒髪の獣人族の女性が椅子に座っており、業務中と思われるが空になった酒瓶が机の上に存在した。


「あん?なんだいあんたら……客かい?」
「えっと……向い側の店にお勧めの宿屋だと聞いたんですけど」
「ちっ!!ホノカの奴……また余計な気遣いを」


宿屋の主人と思われる女性は面倒気に羊皮紙を差し出し、どうやら羊皮紙に名前を書けと催促しており、レナ達はまだ宿泊料の値段も聞いていないのだが彼女は奥の方に移動する。


「エリナ!!新しい客だよ!!相手をしてやりな!!」
「うぃっす!!」


女性が去り際に二階に続く階段に声を掛けると、上の方から金髪の少女が降りてくる。年齢的にはレナ達と大差はないと思われるが、彼女の両耳は人間よりも細長く尖っており、恐らくは「エルフ」と呼ばれる種族だと思われた。元の世界では神話等にしか出てこない存在だが、こちらの世界では実在する。


「お客さんの部屋を案内しますよ。ちなみに宿泊料金は初めてのお客さんなら食事つきでも銅貨5枚っすよ」
「随分と安いですね」
「その分に二日目以降は一人当たり銅貨7枚ですけどね」


日本円に換算すると初日だけは「5000円」で宿泊する事が可能らしく、レナは自分の小袋から銀貨を取り出して彼女に差し出す。後は先ほど手渡された羊皮紙には自分の名前とコトミンの名前を書き込み、エリナに手渡すと彼女は何故か頭を掻きながら不安そうに文字を読み取る。


「えっと……コトミ……さんにレノ……さんですか?」
「……違う。私はコトミン」
「あ、コトミンさんですか。いや、すいませんね……あたし、実は最近になって人間の人が扱う文字を覚えたばかりなんで……」
「あの、俺の名前は……」
「それじゃ、部屋まで案内するっす」


エリナはレナの話を聞き終える前に二階の階段を上り、レナは先ほどのコトミンのように間違えて名前を覚えられてしまうが、訂正する暇もなく彼女は案内を行う。仕方なく後で名前の訂正は後で行う事に決め、2人は1つの部屋に案内される。


「申し訳ありませんけど今開いているのはこの二人部屋だけっす。今日は珍しくお客さんがいっぱいでこの部屋しか空いてないんですけど……問題ないですかね?」
「いや、それは……」
「大丈夫……問題ない」


流石に今日出会ったばかりの女の子(魔物だが)と一緒の部屋を過ごす事にレナは動揺するが、先にコトミンが答えてしまう。驚いた表情を彼女に向けるが特にコトミンは同じ部屋に宿泊する事に抵抗感はないらしく、エリナが安心したように安堵の息を吐く。


「それなら良かったっす!!じゃあ、夜はあんまり騒ぎ過ぎないようにして下さいね。用がある時は必ずノックをするので今晩はごゆっくり……」
「え?どういう意味……」
「それじゃあ、あたしは屋根裏の掃除があるので失礼します!!食事がしたい時は食堂に降りて来てくださいね!!」


意味深な言葉を言い残したままエリナは足早に立ち去り、彼女の言葉にレナ達は顔を見合わせるが、どうやら恋人同士だと勘違いされたようだ。レナはエリナを追いかけて否定するのも面倒になり、今日は色々の事があり過ぎて一刻も早く身体を休ませたかった。


「二段ベッドか……下と上、どっちがいい?」
「ベッド?」
「あれ、知らないの?」
「……こういう物で眠った事が無い」


コトミンは不思議そうに二段ベッドを覗き込み、ベッドで眠った事は無いのか彼女は珍し気に入り込む。その際に彼女の安産型なお尻が突き出される形となり、レナは慌てて視線を逸らす。


「はあっ……」


近くに置いてある椅子にレナは座り込み、机の上に小袋の中身を確認して溜息を吐きだす。既に残りの銀貨は5枚程であり、銅貨も残りは8枚程しか残っていない。この調子ではあと何日宿屋に宿泊できるのか分からず、何としても仕事を見つけ出して稼ぐ手段を確保しなければならない。明日は早朝から仕事を探す必要があり、もう一度宿屋の向い側の魔道具店に訪れ、あの優しそうな店主に相談するべきか考える。迷惑は掛けたくはないが、頼れそうな人間の心当たりが彼女一人だけであり、レナは今日の所は身体を早く休ませる事にした。
しおりを挟む
感想 263

あなたにおすすめの小説

えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜

楠ノ木雫
ファンタジー
 まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。  目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。  そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!  追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

処理中です...