最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

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バルトロス帝国編

ステータスの儀式

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「ステータスとかスキルとか……何だか一気にゲームみたいな話になってきたな」
「そのゲームというのは何かは分かりませんが、今の勇者様は何の力も持っていません。伝承によれば儀式を受ける事で隠された能力が目覚めるはずです」
「じゃ、じゃあ私達も本当に魔法が使えるんですか?」
「それはさっき言ったはずですが?」


魔法が実際に扱えるという言葉が未だに信じきれていない鈴木がデキンに問い返すが、彼は呆れたようにわざとらしく溜息を吐き出し、レナは段々とデキンの本性が露わになっているのを感じ取る。レナ達は彼に嫌悪感を抱く一方、それでも現状では彼等に逆らう事は出来ず、まずは儀式を受けなければならない。デキンの言葉が事実ならば儀式を受ければ自分達も魔法を扱えるという話に対し、意を決して最初にレナが名乗りを上げた。


「……ここに掌を翳せばいいんですよね?」
「その通りです。さあ、何も恐れる必要はありません」
「お、おい!!本当にやる気かよ?」
「危ないんじゃ……」


レナが空中に浮揚している水晶玉に近付くと、他のクラスメイトが心配そうに彼に声を掛けるが、デキンの反応から考えても儀式を受けなければ外に出す事を許さず、レナは覚悟を決めて掌を水晶玉に翳す。その瞬間、周囲の柱の頂点に存在する七色の水晶玉が光り輝き、彼の身体が光に覆われた。


「こ、これは……!?」
「全ての水晶石が反応している!?」
「まさか……全属性を扱えるというのか!?」


周囲の人間が騒ぎ出すが、レナ本人はどうして他の人間達が驚いているのかが理解できず、それよりも自分の肉体の異変に戸惑う。身体中に熱い液体が注ぎ込まれていくような感覚が全身を襲い、同時に左手の甲に奇妙な紋様が浮かび上がる。それは周囲のローブを纏った男達が所持している「杖」を想像させる形状の紋様であり、やがてレナの視界にパソコンのウィンドウのような半透明な画面が出現した。


「うわっ!?」
「ど、どうした!?」
「大丈夫なの?」
「いや……これ、見えないの?」
「え?な、何を言ってんだ?」


視界に現れた画面は他の人間には見えないらしく、レナは画面に表示されている内容を確認する。ゲーム等ではよく見かける物であり、文頭に「ステータス」と表示された画面には以下の通りに描かれていた。



――ステータス――

レベル:1

職業:付与魔術師(固定)

副職:無し

SP:1

能力:思考加速

技能スキル:無し

固有スキル:無し

魔法:付与魔法エンチャット「風属性」「火属性」「水属性」「雷属性」「土属性」「聖属性」「闇属性」

加護:精霊の加護


予想に反して表示された画面の中にはゲームのような「HP」や「MP」のような類の項目は存在せず、現時点のレベルや能力だけが表示されていた。だが、気になるのは「付与魔術師」という職業であり、デキンの話では自分に向いた職業が表示されると伺っていたが、ゲームではあまり聞き慣れない職業である。


「あの……視界に画面が表示されたんですけど」
「それは成功という事ですな。ちなみにどのような文章が描かれているか教えてくれますか?我々には他人のステータス画面を確認する事は出来ないので……どうか詳細に教えてください」
「私が筆記します」


何時の間にかレナの傍には羊皮紙を手にした男が存在し、彼の口から告げられたステータスを書き記すつもりのようだが、デキンの言葉にレナは違和感を覚えた。何処となく彼の声から「悪意」が感じられ、普通に考えたらレナの目の前に表示されたステータス画面とは所謂「個人情報」であり、本来ならば無闇に他の人間に教えるような物ではないのではないかと彼は考えた。

だが、現時点でデキン達の言葉に反抗するのと彼等に悪印象を抱かれる恐れがあり、レナは仕方なく自分のステータスの内容を事細かに報告する。その間に他のクラスメイト達も彼と同様に儀式を行い、自分達の視界に現れたステータス画面に驚愕した。


「おおっ!?す、すげぇっ……」
「信じられない……」
「まさか本当に……」
「えっと……大魔導士?」
「他の皆様も画面に表示された内容をお教えください。修得した職業によっては訓練の内容も変化するので……」
「訓練?」


デキンが当たり前の様に呟いた言葉にレナは反応するが、その前に彼からステータス画面の内容を聞き出していた男性が自分が書き記した羊皮紙に眉を顰め、デキンに慌てて報告する。


「で、デキン様!!この者のステータスが……」
「どうした急に……こ、これはっ!?」
「え?」


手渡された羊皮紙を確認したデキンが目を見開き、困惑した表情で何度も羊皮紙とレナの顔を交互に見比べ、彼の元に近づいてくる。


「キリサキ殿!!これが貴方の表示された画面の内容で間違いがないと!?」
「は、はい……?」
「そんな馬鹿な……どうして女神の加護ではないのだ。伝承では確かに勇者は……」
「デキン様!!他の方は確かに女神の加護を受けています!!」
「え?何の話だよ……」
「どういう事ですか?」


唐突に騒ぎ出したデキンに他の4人も疑問を抱くが、彼は聞こえていないのかぶつぶつと何事か呟きながら羊皮紙を握りしめ、すぐに何かを思い至ったようにレナに振り返る。


「キリサキ殿……貴方が召喚された時の状況を教えてくれませんか?」
「え?」
「もしかしたらキリサキ殿は……他の方に巻き込まれて召喚された可能性があります」
「はあっ!?」
「ど、どういう事ですか?霧崎君が巻き込まれたって……」


デキンの言葉に他のクラスメイトも驚いた表情を浮かべるが、レナ本人は最初にこの世界に召喚される前の状況を思い返し、すぐに気付く。他の4人の足元に魔法陣が出現した時、レナは偶然にも彼等の近くに存在した。そして魔法陣の発光に巻き込まれ、気付いた時には彼等と共にこちらの世界に移動していたのだ。


「まさか……」
「どうやら心当たりがあるようですな……ふんっ!!ならば話は別だ。まさか勇者を召喚したはずが只の一般人を呼び寄せてしまうとはな!!」
「な、何だよ急に……」
「一体何がどうしたんですかっ!?」


レナの表情から全てを察したようにデキンは唐突に口調を変化させ、彼に対して見下した態度を取る。これがこの男の本性であり、それでも彼は他の「勇者」の視線を浴びている事に気付き、慌てて態度を改める。


「おっと……これは失礼。私とした事が冷静さを失っていたようでしたな。ですが、どうやらキリサキ殿は我々が呼び出した勇者ではないようですな」
『えっ!?』
「他の皆さんも心当たりがあるのでは?召喚される時、皆さんの足元に魔法陣が浮かび上がったはずですが、キリサキ殿には心当たりがないようですな」


デキンの言葉に他の4人はレナに視線を向け、彼が頷くと驚いた表情を浮かべる。そんな彼等にデキンは諭すように伝える。


「勇者ではないと分かった以上、キリサキ……殿の能力は期待できませんな」
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