最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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3巻

3-1

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 1



 森人エルフ族のわがまま王子デブリをエルフ王国に引き渡すため、ルノ達移送部隊は、交渉場所である「白原はくげん」を目指していた。
 途中、オークロードという強敵に遭遇したものの、ルノの機転によって打ち倒すことに成功する。被害は馬車一台だけに留めることができたのだった。


 その後森を抜け、再び草原に出たルノ達一行。
 ルノが連れてきた黒狼種こくろうしゅのルウやサイクロプスのロプスのおかげで、道中は安全に進むことができた。
 順調ではあったが――次の街までは半日もかかってしまうという。また、それまでずっと馬車が一台少ないというのはいろいろ不便である。
 というわけで、ルノが先に街に赴き、馬車を手配してくることになった。なお、バルトロス帝国の先帝バルトスと、なぜか五人いる帝国四天王の一人であるリーリスが同行する。


 × × ×


「じゃあ、これに乗ってください」

 ルノが「氷塊ひょうかい」の魔法でさっと氷車ひょうしゃを作り上げてそう言うと、バルトスとリーリスが表情をくもらせる。

「本当にルノ殿の魔法は何でもありじゃのう……これでは馬車の必要性を疑うわ」
「今回は普通自動車の氷像ですか……免許は持ってますよね?」

 リーリスの質問にルノは冗談交じりに答える。

「この間、ゴブリンをき逃げして免停めんていくらっちゃって……」

 バルトスとリーリスが乗り、最後にルノが乗ると氷車が浮上する。その光景を見た兵士達は驚き、呆然ぼうぜんとしていた。

「じゃあ、すぐに戻ってきますので……出発!!」

 ルノはそう言うと、氷車を一気に加速させた。

「ぬおおっ!?」
「ちょ、法定速度は守ってくださいよ!?」

 驚くバルトスとリーリスをよそに、氷車は動きだして間もなく、時速二百キロを超える速度に達するのだった。


 約一時間後、ルノ達は街の近くに立つとりでに到着した。ルノは帝国兵に事情を伝え、新しい馬車の手配を頼む。
 そこへ街の兵士がやって来て、予想外の情報をもたらした。
 驚いたバルトスが声を上げる。

「何っ!? 火竜かりゅうが現れたじゃと!?」
「は、はい……最初は我々も信じられませんでしたが、火竜の目撃情報が次々と届けられています」

 兵士は顔を真っ青にして続ける。

「最近、近くの火山が噴火したのですが、それで火山を棲家すみかとしていた火竜が暴れだしたのです。我々も対処に困ってまして……」
「むうっ、困ったのう。しかしいったいどうすれば……」

 顔をしかめるバルトスに、ルノは何気なく尋ねる。

「そんなにまずい相手なの?」

 バルトスに代わってリーリスが答える。

「竜種は魔物の中でも最強の存在ですからね。オークロードとは比べ物にならないほどやばいですよ」

 どうやら火竜は棲家を移そうとしているらしい。そうであるならば、バルトロス帝国が軍隊を出して討伐する必要があるのだが、今はタイミングがまずかった。
 バルトスが頭を抱えて言う。

「まさかこんなときに……エルフ王国との会談が終わっていない今、軍隊を動かすことはできんしのう」
「え、そうなの?」

 ルノが声を上げると、リーリスが説明する。

「今は、エルフ王国の国王がバルトロス帝国領土に近づいているんです。そんなときに帝国が軍隊を動かせば……良いふうには捉えないでしょうね」
「それなら事情を説明すれば……」

 ルノが疑問を挟むも、リーリスは首を横に振る。

「そんな簡単な話じゃないですよ。両国の関係は冷えきっているんですから。また仮に、軍隊を動かすとしても容易ではありません。兵糧ひょうろうの準備をし、竜種に対抗するための兵器を用意しないといけませんし」

 バルトスがため息交じりに付け加える。

「森に棲み着いたオオツノオークも討伐しなければならんぞ。あの森を抜けなければたどり着けんからな。まったく、次から次へと問題が起きるのう」

 彼のぼやきに呼応するように、帝国の兵士達は大きく肩を落とした。
 バルトスはさらに続ける。

「それにしてもこの地方は本当にどうなっておる? オオツノオークやオークロード、火竜まで現れるとは……」
「確かにおかしいですね。こんなに離れた地域まで、西の森で起きた生態系異常の影響が出ているんですかね。それは考えにくいですが……」

 リーリスがそう口にすると、兵士の隊長が神妙な面持ちで告げる。

「おかしいといえば……これは火山が噴火する前の話なのですが、何やら怪しい動きがあったようで……」
「ほう?」

 バルトスが反応すると、隊長は次のようなことを語った。
 火山が噴火する数日前、街に森人エルフ族の集団が訪れ、住民に妙な聞き込みをしたという。
 火竜の棲む火山はどこか、近辺にはどのような魔物が棲息しているのか、そうしたことを丹念に調べ回っていたらしい。
 火竜の居場所はともかく、魔物の情報は冒険者ギルドに尋ねるのが一番なのだが、なぜか彼らは街の住民にだけ聞いて回ったようだ。
 そして森人エルフ族の集団が去った翌日、火山が噴火し、火竜が出現した。
 兵士達の中には、その森人エルフ族が犯人だと決めつけている者までいるという。
 一通り話を聞き、バルトスとリーリスは首を傾げる。ルノも同じように、違和感を抱いていた。

森人エルフ族の集団がのう……」
「これは……エルフ王国が関与しているんでしょうかね?」
「う~んっ……」

 三人がしばらく無言になっていると、やがてバルトスが口を開く。

「エルフ王国の者達が関わっていると考えるのが普通じゃろうな。わしらがこの地を訪れるタイミングを狙って、火竜を動かしたのかもしれん。だがしかし、それにしては行動がどうにも目立ちすぎる」

 続いて、リーリスが疑問を口にする。

「それに、火竜を頼った意味が分かりませんね。火竜で私達を襲撃したら、護送している馬鹿王子も無事では済みませんから」
「魔物使い……だっけ? 魔物使いなら火竜を上手く操作して……」

 ルノがそう言うと、リーリスが否定する。

「魔物使いはそんなに万能な職業ではないですよ。竜種を使役するなんて……伝説に名前を刻むくらいの実力でないと」

 実際、竜種を操作するには、「英雄」ほどの実力がなければ不可能である。竜種を操れる魔物使いは、この時代に皆無だと言われていた。
 バルトスが言う。

「やはり、住民にだけ聞き回っていたということが気になるのう。何か理由があって冒険者ギルドを頼れなかったのだろうが、結果として多くの目撃情報を残してしまっておる。行動が雑すぎるのう」
「あの馬鹿王子じゃないんですから、慎重な森人エルフ族がここまで雑な行動をするとは思えませんね」
「でも、それならその集団は何者だったんだろう?」

 リーリスの言葉にルノがそう口にする。
 すると、バルトスが隊長に疑問を呈する。

「どんな容姿だったか分かるか?」
森人エルフ族であることは分かっているのですが、全員フードで頭部を覆い隠していまして……それでも住民からの情報を頼りに、一応は似顔絵を作成しています」
「ほう」

 隊長がバルトスにいくつかの似顔絵を手渡すと、バルトスは目つきを鋭くする。そして、すぐに首を横に振って、リーリスに絵を渡した。

「フードで見えなかった割に、ずいぶん描けているんじゃな。だが、儂には見覚えがないな。エルフ王国の有力者の顔はほぼ知っておるが、この中にはおらん」
「う~ん……フードで顔を隠したまま行動するのは怪しいですね。それにもかかわらず、街の住民には、森人エルフ族とばれてしまったわけですか……」
「ということは……」

 ルノがリーリスに続いてそう口にすると、バルトスが答える。

「エルフ王国のがね、とは限らんということじゃ。バルトロス帝国とエルフ王国に仲違なかたがいさせようとする、別の組織がいるのかもしれんのう」
「……魔王軍?」
「断定はできんがな……」

 ルノが言った「魔王軍」とは、バルトロス帝国領土内でテロ活動を引き起こす勢力である。バルトスはそれを否定せず、ひたいを押さえつつ言う。

「ともかく、今は火竜の件を何とかする必要があるのう。仕方ない。ここはエルフ王国に頼んで、会談を延期してもらうか」

 リーリスが意見を言う。

「ルノさんの魔法で、あの馬鹿王子を送り届ければいいんじゃないですか?」
「いや、ああ見えてもあの馬鹿王子は帝国にとっては大きな取引材料じゃ。易々と渡すわけにはいかん。残念だが、会談は延期じゃ。すまないが、ルノ殿。儂らを例の氷の車で帝都に送ってくれんか?」

 そこへ、ルノが妙な質問をする。

「あの……その火竜というのは、そんなに強いんですか?」
「「「「…………」」」」

 誰もが黙り込み、「何を言っているんだこいつは?」という表情を浮かべる。
 しかし、ルノは続ける。

「何なら、俺がその火竜を倒しましょうか? ほら、馬車にいたとき、竜種でも俺なら勝てると言ってましたよね?」
「「「「っ……!?」」」」

 バルトスは言った本人であるが、唖然あぜんとしていた。
 一方で、ルノは己の規格外の力を自覚し始めていた。自分なら火竜を倒せるのではないかと考えていたのだ。
 バルトスは我に返ると、慌てて止める。

「い、いや……確かにルノ殿ならば竜種を倒せるかもしれんが、しかし危険すぎる」
「でも、このまま放置していたら危ないんですよね?」
「まあ、そうですね。この街に襲いかかってきたら大きな被害が出るでしょう。今から住民を避難させても間に合うかどうか……」
「リーリス、余計なことを言うな!! これは帝国の問題じゃぞ!?」
「それなら、帝国に世話になっている俺が動いてもおかしくないんじゃないですか?」

 ルノの言葉に、皆押し黙ってしまった。
 すでに火竜と戦う覚悟を決めていたルノは、近くにいた兵士に尋ねる。

「その火竜というのは、どこにいるんですか?」
「え? えっと……新しい報告によるとこの街の東側に……」
「言うでない!!」
「も、申し訳ありません!!」

 バルトスに怒鳴どなりつけられた兵士は、慌てて頭を下げた。
 そこへ、轟音ごうおんが響き渡る。


「グガァアアアアアアアアッ!!」


 荒々しい鳴き声である。
 直後、建物が激しく振動した。何事かと全員がその鳴き声がしたほうに視線を向けると――慌てふためいた様子で一人の兵士が走ってきた。

「た、大変です!!」
「どうした!?」
「火竜が……火竜がこの砦に!!」

 即座にルノは外に飛びだすと、バルトス、リーリスも後に続く。
 崩壊した倉庫の上に、巨大な生物がいる。それは、西洋ファンタジーのドラゴンそのものの見た目をしていた。

「アァアアアアアアッ!!」

 体長十五メートルを超える巨体を前に、ルノは一歩後ずさる。

「くっ……!?」
「か、火竜……どうしてこんなに早くっ!?」

 火竜が着地した場所は、兵士達の武器を収めている武器庫であった。火竜の重量に耐えきれず崩れてしまったのだ。
 火竜は口を大きく開くと、口内を赤く輝かせる。

「まずい……炎を吐くつもりですよ!!」

 リーリスが声を上げた瞬間、火竜は炎の息を火炎放射器のように放った。

「アガァアアアアアアッ!!」
「「「「うわぁああああああっ!?」」」」
「いかんっ!!」

 逃げ惑う兵士達に向け、火竜は火炎を吐き散らす。
 バルトスが炎に呑まれそうになった兵士に手を伸ばしたところ、ルノが彼の前に立って手のひらをかざす。

「『氷塊』!!」
「アガァッ!?」
「えっ……!?」

 火竜は頭部に巨大な氷を叩きつけられ、後ろ向きに倒れた。
 火炎が上向きに放たれる。
 これで兵士を助けることはできたものの、激昂げっこうした火竜の標的がルノに移った。

「こっちだ!!」
「グガァッ!!」

 ルノが声を上げて挑発すると、火竜は身体を起こした。そして尻尾しっぽを振るって彼を押し潰そうとする。
 寸前でルノは回避するが、尻尾の先端が触れただけで建物が粉々になった。
 ここで戦うのはまずいと判断したルノは、「氷塊」の魔法で氷板スケボを足元に生みだして浮き上がる。

「こっちだ、トカゲっ!!」
「ガアアアアッ!!」
「だ、だめじゃっ!! 戻ってこい、ルノ殿!!」

 上空に飛んだルノを追うため、火竜も翼をはためかせて浮上する。バルトスが止めようとするが、ルノは戦闘準備を整えていく。
 ルノが追跡してくる火竜に視線を向けると、怪獣映画で観たような光景が広がっていた。

「さすがに今回はやばいかも……『氷塊』!!」

 ルノは「氷塊」を発動し、デブリ達の騒動の際に使用した氷鎧ひょうよろいをまとった。これで防御力を上昇させつつ、さらに氷板スケボの速度を上げる。

「アガァアッ!!」
「うわっ……隕石いんせき!?」

 火竜の口から出たのは、先ほどの火炎放射ではなく火炎の弾だった。
 まともに当たれば危険だと判断したルノは弾に手のひらを向け、いつもより大きな氷盾ひょうたてで受け止めた。

「くううっ!?」

 しかし、火竜は追撃とばかりに火炎の砲弾を撃ってくる。
 衝突するたびに氷盾が蒸発するが、氷鎧をまとっているため、ルノがダメージを受けることはない。

「やばい……螺旋氷弾らせんひょうだん!!」
「アガァッ!!」

 ルノが放った螺旋状の氷の砲弾と、火竜の放った火炎の砲弾がぶつかる。空中で火炎と氷の破片が四散した。

「くそ、この程度の攻撃じゃだめか……うわっ!?」
「グガァッ!!」

 火竜が大きく口を開いてルノを呑み込もうとしたが、彼はとっさに上昇して回避する。
 氷板スケボの移動速度をさらに上げて距離を取ろうとするが、火竜も速度を上げて追いついてくる。そして、至近距離から先ほどのように火炎を放射する。

「アガァアアアアアッ!!」
「くぅっ!?」

 氷鎧のおかげでダメージは受けなかったものの、強力な炎によって氷鎧は溶け始めていた。完全に溶かされる前にルノは炎から逃れようとするが、火竜は執拗しつように追ってくる。

「ガアアッ!!」
「うわっ!?」

 火竜が両翼を激しく羽ばたかせると、強風にあおられたルノは体勢を崩して落下してしまった。
 ルノは何とか体勢を整えようと手を伸ばし、風の能力を上昇させる強化スキル「暴風ぼうふう」を発動した状態で魔法を放つ。

「『風圧ふうあつ』!!」
「グギャッ!?」

 ルノの手のひらから竜巻たつまきが放たれ、火竜を吹き飛ばした。火竜は慌てて体勢を整えようとするが、そのまま地面に叩きつけられる。
 それでもまだ、火竜は向かってこようとする。

「グガァアアアアッ……!!」
「しつこいな……『白雷びゃくらい』!!」

 火竜の肉体に白い電流がほとばしった。火竜は苦悶くもんの表情を浮かべるが、なぜか電流は数秒ほどで消失してしまった。
 火竜が再び起き上がってくる。

「グガアアアアアッ!!」
「あれっ!?」

 通常であれば、「白雷」は生物を麻痺まひさせることができる。
 だが、火竜の身体が大きすぎたのか、雷属性の耐性を持つのか、どちらにしてもこれまで無類むるいの強さを誇った「白雷」は火竜に通じなかった。

「アガァッ!!」
「うわ、またあれか!?」

 火竜は火炎の砲弾を、ルノに向かって的確に放つ。
 ルノは、溶けかかった氷板スケボを操作して砲弾を避け続けた。一発でも当たれば、無事では済まないだろう。
 どう対抗するか考えていたルノは、火竜の足元が草にしげっていることに気づく。

「これはどうだ!! 『光球こうきゅう』!!」
「ガアッ……!?」

 複数の光の球を一度に生みだし、火竜の周囲に拡散させる。
 突然光の球体に囲まれ、火竜は戸惑う仕草しぐさを見せる。ルノはその隙を逃さず、光の魔法に作用する強化スキル「浄化じょうか」を発動させた。

からまれっ!!」
「ガアアアアッ!?」

 火竜の足元の草が急速に成長し、その巨体にまとわりつく。
 植物が火竜を完全に拘束した。火竜の動きを押さえることができ、ルノは気を抜いてしまうが――相手は生態系の頂点に座す竜種である。


「アガァアアアアアアアアアッ!!」

 火竜は力ずくで植物を振り払い、炎を吐いて一帯を焼き払った。
 焦ったルノは賭けに出ることにした。


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