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番外編
その後のリディア
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――魔王軍の幹部にして唯一生き残ったリディアはバルトロス王国の監視の元、現在は王城で魔獣の飼育係として暮らしていた。彼女が使役していたガーゴイルと牙竜に関しては城外で暮らしており、現在のリディアは王女が連れ帰ったユニコーンの世話役を任せられていた。
「ヒヒンッ!!」
「ちょ、痛い!?噛みつかないでよこの馬鹿馬!!どうして私に懐かないのよこいつ!?」
ユニコーンは自分の餌を用意したリディアの頭に噛みつき、近寄るなとばかりに鼻を鳴らす。基本的には魔物使いであるリディアは魔物に好かれやすい体質のはずだが、何故かユニコーンは懐く所か近付くことも気に喰わない様子だった。
「こ、こいつ……誰があんたの餌を用意してると思ってるのよ!!この駄馬!!」
「ヒィンッ!!」
「おっと、その程度の蹴りなんて当たるはずがないでしょ!!こっちだって何年も牙竜の世話をしてきたのよ!!」
自分を馬鹿にしたリディアに対してユニコーンは前脚を繰り出すが、リディアは攻撃を予測していたかの様に回避する。小さい頃から様々な魔物と接してきたリディアの身体能力は意外と高く、そのままユニコーンの背中に乗り込んで大人しくさせようとする。
「ほら、落ち着きなさいよ!!これ以上に暴れるとあんたのご主人様に言いつけるわよ!!」
「ヒヒンッ!!」
「ちょ、ちょっと!!いい加減にしなさいよ!?ああ、もう……それならルノに言いつけるわよ」
「ヒィンッ!?」
ユニコーンは飼い主であるジャンヌ王女よりもルノの名前を聞いただけで怖気づき、黙ってリディアの言葉に従う。その反応を見てリディアはユニコーンがルノを恐れている事に気付く。
「あんた、そういえば魔力を感じ取れる能力も持っていたわよね。だからルノの奴を恐れているのね……こいつに逆らえば命はないと理解しているのね」
「ヒヒンッ……」
ルノと相対したと気からユニコーンにとってはルノは自分が抗ってはならない存在だと思い知らされ、名前を聞くだけでも震えてしまう。基本的にはリディアと同様に魔物に好かれやすいルノだが、ユニコーンのような魔力に敏感な生物には恐れられるらしい。
どうにかユニコーンを大人しくさせたリディアは餌やりを終えた後、空の上からガーゴイルが荷物を携えて戻ってくるのを確認する。
「シャアアッ!!」
「あら、もう戻って来たの?随分と早かったわね……それで、ワン子の方は元気にしてた?」
「シャウッ!!」
リディアは数日程前にガーゴイルに獣人国に滞在しているワン子の元に派遣させ、彼女と手紙のやり取りを行っていた。獣人国の方では相変わらず王子たちの騒動で国は混乱から完全には立ち直ったとは言い切れないが、今の所は問題ないという。
魔王軍のせいで世界各国では大きな騒動が発生し、もしもルノが存在しなければいくつかの国は戦争状態に陥っていただろう。改めてリディアはルノという存在の大きさに驚かされる一方、彼の味方で居る限りは安心出来た。
「何だかんだでこの仕事も慣れてきたわね……魔王軍に居た頃と比べると身を偽る必要もないし、あんな演技をしなくて生活できるのはいいわね。まあ、楽な暮らしとは言えないけど……」
「シャアッ?」
「もしも私が魔王軍のままだったらあんたとも会う事は無かったわね」
リディアは首を傾げるガーゴイルに笑いかけると、仕事を中断して休憩を行う。魔王軍として活動していた頃と比べると現在の彼女は生き生きとしており、もう身分を偽る必要がなく生活出来る事に満足していた。
(魔王軍に居た頃は他の幹部共とは顔を合わせる度に喧嘩していたわね。それに比べるとこっちの方が気が楽ね、どいつもこいつも良い奴ばかりだし、給料も悪くないし、衣食住には困らないし……改めて考えると魔王軍の幹部でいた頃よりもまともな生活を送っているわね)
魔王軍の幹部だった頃は金払いは良いが、上司は最悪で他の幹部とは良好な関係を築いていたとは言い難く、それに比べると今のリディアはルノのお陰で罪は帳消しされ、バルトロス王国の監視下ではあるが人並みの生活を送っている。
(そういえば魔王軍と言えば……ガイアの奴は少し気の毒ね。あいつとはそれなりに長い付き合いではあったわね)
魔王軍の幹部であり、本性は蛇竜であるガイアの存在をリディアは不意に思い出す。ガイアはデキンと同様に「人化の薬」で姿形を変えた「竜種」だったが、実はリディアとは親交があった。元々は竜種であるガイアと魔物使いのリディアの相性は悪くなく、魔王軍の幹部の中では特に行動を共にすることが多かった。
(ルノに殺されたと聞いたけど、まあ、もしかしたらあいつの事だから実はしぶとく生き残っているかもしれないわね……ん?そういえばあいつとデキンの奴が飲んでいた「人化の薬」あれを作っていた薬師はどうなったのかしら?)
リディアは不意に魔王軍の協力者でクズノに「人化の薬」という魔物を人間の姿へと変貌させる薬を作り出していた人物の事を思い出す。彼女も何度か顔を合わせており、魔王軍に所属していたわけではないが、高額の報酬を支払う事を条件に薬を提供していた。
「名前は確か……ミル、だったかしら?」
人化の薬を作り出せる技術を持つ唯一の薬師の存在を思い出し、リディアは彼女の情報をバルトロス王国に報告し忘れていた事を思い出す。
※番外編はここまでです。次回から本編に戻りますが、更新は来月から再開予定になります。
「ヒヒンッ!!」
「ちょ、痛い!?噛みつかないでよこの馬鹿馬!!どうして私に懐かないのよこいつ!?」
ユニコーンは自分の餌を用意したリディアの頭に噛みつき、近寄るなとばかりに鼻を鳴らす。基本的には魔物使いであるリディアは魔物に好かれやすい体質のはずだが、何故かユニコーンは懐く所か近付くことも気に喰わない様子だった。
「こ、こいつ……誰があんたの餌を用意してると思ってるのよ!!この駄馬!!」
「ヒィンッ!!」
「おっと、その程度の蹴りなんて当たるはずがないでしょ!!こっちだって何年も牙竜の世話をしてきたのよ!!」
自分を馬鹿にしたリディアに対してユニコーンは前脚を繰り出すが、リディアは攻撃を予測していたかの様に回避する。小さい頃から様々な魔物と接してきたリディアの身体能力は意外と高く、そのままユニコーンの背中に乗り込んで大人しくさせようとする。
「ほら、落ち着きなさいよ!!これ以上に暴れるとあんたのご主人様に言いつけるわよ!!」
「ヒヒンッ!!」
「ちょ、ちょっと!!いい加減にしなさいよ!?ああ、もう……それならルノに言いつけるわよ」
「ヒィンッ!?」
ユニコーンは飼い主であるジャンヌ王女よりもルノの名前を聞いただけで怖気づき、黙ってリディアの言葉に従う。その反応を見てリディアはユニコーンがルノを恐れている事に気付く。
「あんた、そういえば魔力を感じ取れる能力も持っていたわよね。だからルノの奴を恐れているのね……こいつに逆らえば命はないと理解しているのね」
「ヒヒンッ……」
ルノと相対したと気からユニコーンにとってはルノは自分が抗ってはならない存在だと思い知らされ、名前を聞くだけでも震えてしまう。基本的にはリディアと同様に魔物に好かれやすいルノだが、ユニコーンのような魔力に敏感な生物には恐れられるらしい。
どうにかユニコーンを大人しくさせたリディアは餌やりを終えた後、空の上からガーゴイルが荷物を携えて戻ってくるのを確認する。
「シャアアッ!!」
「あら、もう戻って来たの?随分と早かったわね……それで、ワン子の方は元気にしてた?」
「シャウッ!!」
リディアは数日程前にガーゴイルに獣人国に滞在しているワン子の元に派遣させ、彼女と手紙のやり取りを行っていた。獣人国の方では相変わらず王子たちの騒動で国は混乱から完全には立ち直ったとは言い切れないが、今の所は問題ないという。
魔王軍のせいで世界各国では大きな騒動が発生し、もしもルノが存在しなければいくつかの国は戦争状態に陥っていただろう。改めてリディアはルノという存在の大きさに驚かされる一方、彼の味方で居る限りは安心出来た。
「何だかんだでこの仕事も慣れてきたわね……魔王軍に居た頃と比べると身を偽る必要もないし、あんな演技をしなくて生活できるのはいいわね。まあ、楽な暮らしとは言えないけど……」
「シャアッ?」
「もしも私が魔王軍のままだったらあんたとも会う事は無かったわね」
リディアは首を傾げるガーゴイルに笑いかけると、仕事を中断して休憩を行う。魔王軍として活動していた頃と比べると現在の彼女は生き生きとしており、もう身分を偽る必要がなく生活出来る事に満足していた。
(魔王軍に居た頃は他の幹部共とは顔を合わせる度に喧嘩していたわね。それに比べるとこっちの方が気が楽ね、どいつもこいつも良い奴ばかりだし、給料も悪くないし、衣食住には困らないし……改めて考えると魔王軍の幹部でいた頃よりもまともな生活を送っているわね)
魔王軍の幹部だった頃は金払いは良いが、上司は最悪で他の幹部とは良好な関係を築いていたとは言い難く、それに比べると今のリディアはルノのお陰で罪は帳消しされ、バルトロス王国の監視下ではあるが人並みの生活を送っている。
(そういえば魔王軍と言えば……ガイアの奴は少し気の毒ね。あいつとはそれなりに長い付き合いではあったわね)
魔王軍の幹部であり、本性は蛇竜であるガイアの存在をリディアは不意に思い出す。ガイアはデキンと同様に「人化の薬」で姿形を変えた「竜種」だったが、実はリディアとは親交があった。元々は竜種であるガイアと魔物使いのリディアの相性は悪くなく、魔王軍の幹部の中では特に行動を共にすることが多かった。
(ルノに殺されたと聞いたけど、まあ、もしかしたらあいつの事だから実はしぶとく生き残っているかもしれないわね……ん?そういえばあいつとデキンの奴が飲んでいた「人化の薬」あれを作っていた薬師はどうなったのかしら?)
リディアは不意に魔王軍の協力者でクズノに「人化の薬」という魔物を人間の姿へと変貌させる薬を作り出していた人物の事を思い出す。彼女も何度か顔を合わせており、魔王軍に所属していたわけではないが、高額の報酬を支払う事を条件に薬を提供していた。
「名前は確か……ミル、だったかしら?」
人化の薬を作り出せる技術を持つ唯一の薬師の存在を思い出し、リディアは彼女の情報をバルトロス王国に報告し忘れていた事を思い出す。
※番外編はここまでです。次回から本編に戻りますが、更新は来月から再開予定になります。
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