最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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外伝〈転移石を求めて〉

帰還の方法

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「その話は本当なのかりっちゃん!!」
「いや、なんで急にちゃん付けしたんですか。というかそんな呼ばれ方初めてなんですけど……」
「それは本当なのリーさん!!」
「あんたもかいっ!!とりあえず、落ち着いて下さいよ!!ちょ、揺らさないで……!!」
「……どうどう」
「落ち着けナオ!!」


あまりの衝撃的な出来事に冷静さを失ったルノとナオはリーリスの肩を掴んで激しく揺らすが、他の二人に抑えられてどうにか落ち着きを取り戻す。リーリスは髪の毛が乱れながらも自分の推測の根拠を告げる。


「この施設を作り出すには明らかに地球人の科学が必要です。だいたいこんな機会の材料を揃えるだけでも大変ですよ。ですからここを作り出した人間は何らかの方法で地球から機器を運び出した、あるいは材料を持ち運んで作り上げたかです」
「つまり、佐藤君達のように転移系の能力を持つ勇者の仕業なの?」
「それが一番可能性は高いですね。最もここを作り出した人間が勇者とは限りませんし、ルノさんのように巻き込まれた側の人間という可能性もあります。その場合は他の勇者の力を借りて作り上げたかもしれません。まあ、今の段階ではどれも仮説の域を出ませんが……」


この施設に存在する機器は少なくともこの世界で集められた材料で構成されたわけではなく、地球の素材を利用して構成された事は間違いないというのリーリスの考えだった。また、建物が数百年前に作り出された事から考えてもこの場所の機器が未だに稼働している辺り、色々と謎は残っていた。


「この研究施設が何時頃に作り出されたのかは知りませんが、今尚も活動している辺り、もしかしたら私達の時代よりも発達した科学で作り出された場所かもしれません」
「俺達の時代より?」
「文献によると過去に召喚された地球人は年代が全員バラバラなんですよ。例えば日の国を作り上げた地球人は戦国時代~江戸時代に召喚された人間だと思います。だけど、最初に召喚された初代勇者は明らかにルノさん達と同じ時代、もしくは少し前の時代に召喚された人間のはずです」
「その根拠は?」
「初代勇者の文献の中に「ケイタイ」と呼ばれる機器を所持していたという文章が残っています。つまり、少なくとも初代勇者は携帯電話を所持していた。という事は携帯電話が存在した時代に生まれた人間です」
「けいたい……?なんだそれは?」
「ルノが持っている「すまほ」というのとは違うの?」


リーリスの言葉にデブリとコトネは首を傾げ、この世界の住人である二人が携帯電話の存在を知らないのは無理はない。リーリスの予測では異世界召喚が行われる際に呼び出される勇者達は時代が異なるらしく、恐らくこの研究施設を作り出した人間はルノ達の時代よりも未来の時代から召喚された人間の可能性があった。


「この研究施設を作り上げた人間はどうやら地球上の生物のDNAを利用して未知の生物を生み出そうという研究をしていたようですね。どうしてそんな研究を始めたのかは不明ですが、このファイルによると地球上ではこの研究を禁じられていたようで出来なかったようです」
「どうしてそんな研究を……」
「恐らくは相当なマッドサイエンティストだったのかもしれません。この人は多分、地球では禁じられた研究でもこの世界で行う分には問題とでも判断して研究を続けていたのかもしれません。そして生み出されたのがあの生物かと……」
「マッドサイエンティストか……」
「…………」
「ちょっと、何で皆さん私に視線を向けたのか理由を聞こうじゃないですか」


マッドサイエンティストという言葉に全員が無意識にリーリスを注視してしまうが、ともかくこの研究施設の主は地球から科学機器を持ちだし、あるいは素材を運び出して作り上げたらしく、ここで地球上では禁じられた研究を行っていたらしい。そして生み出されたのがルノ達を襲った謎の生物であり、当の本人は既に死亡したとしか考えられない。


「この建物が作り出されたのは大迷宮と同じく数百年前で間違いありません。そして勇者といえど、寿命に関しては普通の人間と同じことからここを作り出した人間は既に死亡しているはずです。ですが、ここに暮らしていた人間が地球へ行き来する方法を知っていたのは間違いありません。その手掛かりを探してみましょう」
「もしも勇者の能力か何かで地球へ転移する能力を持っていただけなら意味はないんじゃないの?」
「それでも調べてみる価値はあります。もしかしたら科学の力で地球へ戻る方法を見つけ出したかも知れませんし、それにここは私もまだ調べきれてないんですよ。あの生物を追いかけ回してましたから」
「というか、リーリスはよく助かったね……精霊薬があったからといっても戦闘を挑むのは無謀過ぎたんじゃない?」
「まあ、冷静に振り返れば自分の行為の無謀さに恐ろしく感じますね……人間、精神的に追い詰められると何を仕出かすか分かりませんね」


ルノ達はリーリスの言葉に賛成して部屋の中を調べ回り、まずは有力な情報が残っていそうな本棚のファイルを全て調べる事にした。
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