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外伝〈転移石を求めて〉

生きていたリーリス

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「ふうっ……やっと死んだみたい」
「うわぁっ……改めてみると不気味な奴だな」
「師匠!!やりましたぞ!!」
「うん、分かったからとりあえずその舌は手放してくれないかな……」


謎の生物の死骸の元にルノ達は集まり、完全に死亡している事を確かめると改めてその不気味な外見に冷や汗を流す。複数の生物の特徴を併せ持ち、さらに感知スキルには感知されない謎の能力も持っていた。一体この生物がなんなのかは不明だが、ここで死体の様子を見てある事に気付く。


「……見て、この生物の足元。怪我をしてる」
「え?あ、本当だ……体毛が剥がれ落ちてるね」
「焦げてる、というよりは何か薬品のような物で溶かされたような……」
「薬品?それってもしかして……」


生物の左足の部分に怪我をしたような箇所が存在し、体毛が抜け落ちて皮膚がどろどろに溶けていた。その様子を見て何らかの薬品で溶かされたような跡だと思ったルノはここまでの道中で拾い上げた薬品の事を思い出した瞬間、通路の奥側から怒号が鳴り響く。


「おら、待てやぁあああっ!!何処に消えたんですかこのくそ野郎がぁあああっ!!」
「えっ!?リーリス!?」
「無事だったのか!!」
「あれ!?その声は……皆さんもここに来てたんですか!?」


通路の奥から駆け寄ってきたのは両手に薬品をリーリスが姿を現し、彼女はルノ達に気付くと慌てて立ち止まり、そして彼等の足元に転がっている死骸を見つけて大声を上げる。


「あ~!!やっと見つけましたよ、このバイオハザード!!」
「ちょ、落ち着いて!!」
「もうそいつは死んでるぞ!?」
「……何があったの?」


死骸に向けてリーリスが両手の薬瓶を投げつけようとしたが、慌ててデブリとナオが止めた。一体彼女にこれまで何があったのかを尋ねると、リーリスは事情を説明する。


「実は謎の落とし穴を見つけた私が覗き込んだ時、この生物に捕まって私はここまで連れてこられたんですよ!!隙を突いてどうにか皆さんが気付いてくれるように空の薬瓶を置いてきましたが……」
「捕まった!?大丈夫だったの?」
「あ、そこは大丈夫です。こいつに連れ去られた時、私は以前に開発していた竜種のおしっこのような臭いを放つ薬瓶を所持していたのでそれを利用して逃げる事に成功しました……ちょっと、なんで離れるんですか!!生き残るためには仕方ないでしょう!?」


排泄物の臭いを放つ薬品を持ち歩いていた事に全員が引いてしまうが、リーリスとしても生き延びるのに必死だったらしく、どうにか生物を撃退したらしい。


「でも、怪我がなくて良かったよ」
「いや、負傷はしましたよ?どうにか精霊薬(試作)も持ち歩いていたので死ぬ事は免れましたが大変でしたよ。あの生物、容赦なく私の身体を貫いてきましたから……死にかける寸前、どうにか精霊薬で蘇生に成功しました」
「大丈夫だったの!?」
「平気平気、精霊薬のお陰で破損した肉体も完全復活どころか、身体の悪い物は全部治ったせいかお陰で今は元気満々ですから!!」
「……本当だ、確かにお腹と背中に穴が開いてる」


リーリスは持参していた精霊薬のお陰で生き延びる事に成功したが、それでも一時的に気を失って倒れていたという。彼女がナオの千里眼のスキルで探知出来なかったのは目の前の生物に攫われて動き回っていた事が原因かもしれない。


「けど、こいつは何なの?こんな魔物、見た事がないけど……リーリスは知ってる?」
「いえ、私も初めてみる生き物です。ですが心当たりはあります」
「心当たり?」
「私がこいつに連れられた場所へ向かいましょう。そこに行けば分かります」
「え?こいつはどうするんだ?」
「その生物は帰りに死骸を回収しましょう。私が後で解剖して調べてみますから」


生物の正体はリーリスも知らないようだが、彼女はこの生物に誘拐された時に気になる物を見つけたらしく、全員をその場所まで案内した。部屋の場所はルノ達が存在した通路からそれほど遠くはなく、大きな扉の前でリーリスは立ち止まる。


「ここです。この部屋の中にあの生物は私を連れ込みました」
「この部屋か……よし、僕が開けるぞ!!ふんぎぎぎっ!!」
「あ、それ引き戸ですよ」
「それを早く言えっ!?」


デブリが気合を入れて扉を押して開けようとしたが、リーリスに指摘されると慌てて扉を引いて開く。すると中から光が差し込み、ルノ達は目を眩む。


「こ、ここは……」
「見ての通り、この部屋には「電気」が通ってるんですよ。ほら、天井を見てください。照明まで取り付けられてるでしょう?」
「ほ、本当だ!!」


リーリスの言葉にルノとナオは驚きの声を上げ、部屋の天井を確認するとそこには電気が通っている照明が存在し、更に部屋の中を見渡すと、まるでSF映画にでてくるような光景が広がっていた。壁際には巨大なコンピューターが並べられ、部屋の中央部には巨大な培養槽が設置されていた。
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