最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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外伝〈転移石を求めて〉

デブリとの合流

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「あれが甲殻獣……ナオ君の指弾も効かないぐらいに厄介な相手か」
「まあ、僕の指弾は正直に言って威力はそれほどないからね……オークぐらいなら倒せるけど、ゴーレムみたいに硬い外殻を持つ相手には通用しない場面が多いし」
「それは仕方ない、指弾は本来は相手を怯ませる程度の威力しか引き出せない戦技。むしろそれだけの威力が生み出せるだけで十分に凄い」


ナオと同じ暗殺者の職業でもあるコトネから見ればナオの指弾の威力は普通ではなく、試しにコトネが同じ戦技を使用したとしてもゴブリンを倒す事も出来ない。そもそも暗殺者は戦闘には向いておらず、本来は隠密行動を得意とする職業である。戦闘能力が低い事に関しては仕方がない面もあった。

最もナオが遭遇した甲殻獣は単体でもオークを蹴散らす程の力を誇り、場合によっては赤毛熊などの魔物でさえも打ち倒せる程の力を持つ。突進攻撃以外に行動は出来ないという弱点はあるが、移動速度も速く、通常種のゴーレムさえも上回るかもしれない頑丈な肉体は並みの冒険者では相手にならない程の危険な魔物である。


「それにしての森人族の人達はこんな魔物を飼育して騎獣として利用しているのか……凄いね、こんなに強いのなら昆虫種にも対抗出来たんじゃないの?」
「実際に昆虫種との戦闘で甲殻獣を利用して反撃に出向こうと主張する人も居たよ?だけど、昆虫種の大半は空を飛べるから地上に降りない限りはどうしようもなかったし、それに王国の甲殻獣を管理している飼育場は王都からかなり離れていたからどっちにしても無理だったけど……」
「……ご愁傷様」


かつてエルフ王国内で飼育されている甲殻獣は領地内に存在する飼育場で管理されているが、魔王軍による昆虫種の大群の襲撃を受けていた時には既に連絡が取れない状態に当たり、そもそもエルフ王国の王都は湖に囲まれた場所に存在した事が問題だった。

甲殻獣は頑丈な肉体の反面に体重が非常に重く、泳ぐ事を不得手としていた。なので湖に囲まれた王都へ乗り込む方法もなく、どちらにしろ甲殻獣の援軍は期待出来なかったという。


「それにしてもずっと走り回ってるね、餌でも探しているのかな……そういえば甲殻獣はどんな餌を食べるの?」
「基本的には雑食で何でも食べるらしいよ。王国で飼育されている甲殻獣は果物とか野菜とかを与えていたけど、野生の種は道端に生えている雑草とか、場合によっては大木を薙ぎ倒して餌にするとか……時々、他の魔獣の肉も食べる事もあるとか言ってたかな」
「え?草食獣じゃないの?」
「うん、普通に肉を食べるために他の魔物を襲う事もあるらしいよ。けど、王国で管理している甲殻獣には絶対に他の魔獣の肉は与えないようにしてるけどね。何でも肉の味を覚えさせると勝手に魔物を殺して食べようとするとかどうとか……」
「……そういえばカバも時々は動物の死骸を食べるとか聞いた事があるような気がする」


甲殻獣は雑食で基本的威には何でも食べるらしく、空腹に見舞われると見境なく暴れ出し、時には他の魔物に襲いかかって死肉を貪るらしい。ナオが追いかけ回されたのも彼の事を餌と判断して襲い掛かった可能性もあり、もしもナオ以外の者が甲殻獣に目を付けられていたら厄介な事になっていただろう。


「う~ん……結構探してるのにデブリもリーリスも見当たらないな。大分時間も経過しているし、二人とも無事だといいんだけど……」
「……大丈夫、どっちもしぶといから」
「コトネさん、間違ってはいないけどその言い方はどうかと……あ、待って!?何か見えた!!」
「えっ!?」


千里眼を発動させていたナオは大声を上げるとルノは氷自動車を停止させ、遂に二人のどちらかを発見したのかとナオに振り返る。ナオは丁度甲殻獣の群れの進行方向に向けて指差す。


「あっちの方にデブリ王子を見つけた!!草原を半裸で走ってるよ!!」
「は、半裸で?」
「……何か嫌な予感がする」


デブリを発見したと報告したナオに対してルノとコトネは安心する一方、彼が「半裸」で行動しているという点に疑問を抱き、一体どのような状況なのかをナオに問う。


「ナオ君、デブリは何をしているの?」
「えっとね、どういえばいいのかな……なんか、頭にハチマキみたいなのを巻きつけた状態で草原を走り続けてるよ。あ、よく見たら腰にロープが巻き付けて岩を引きずってる!!分かった、これ特訓してるんだ!!デブリ王子は身体を鍛えてるんだよ!!」
「この状況で何をしてるの!?」
「……やっぱり当たった」


どうやらデブリはこの状況下でも身体を鍛えぬいているらしく、甲殻獣の群れが生息する草原にて彼は身体を鍛えるために樹木を引きずりながら草原を走り回っているという。
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