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外伝〈転移石を求めて〉

生きている迷宮

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「え、ちょっ……今の何!?死体が床に消えちゃったけど!?」
「これが大迷宮の最大の謎ですよ。死体は一定時間を迎えると、何故かあんな風に吸い込まれてしまうらしいんです。まあ、私も噂だけで本当に消える所は初めて見ましたけど」
「……血の跡も残っていない。残っているのは死臭だけ」


コトネが試しにミノタウロスの死骸が吸収された箇所に足を踏みつけるが、彼女の足が泥のように飲み込まれる様子もなく、壁と同様に非常に硬い煉瓦製の床が広がっているだけである。ルノはどのような原理で魔物が吸い込まれてしまったのか気になったが、リーリスが考察を行う。


「あくまでも私の推測ですけど、もしかしたらこの大迷宮というのは生きているゴーレムの腹の中みたいな場所なのかもしれません。死亡した生物は吸収され、大迷宮の栄養の糧になるとか……」
「えっ!?じゃあ、俺達はずっと魔物のお腹の中に居たの!?」
「だからあくまでも推測ですよ。けど、さっき吸収された死骸の栄養分が何らかの形で変換されて別の魔物になったりしている可能性もあります。例えば、私達を襲ってきたゴーレムとか……」


リーリスの推測を聞いたルノ達はなんとなくだが彼女の言いたいことを察し、迷宮内で遭遇したゴーレムはこのように別の魔物の死骸から吸収された栄養分から生み出されていてもおかしくはない。突拍子もない話のように思えるが、実際に死体を迷宮が吸収するという時点で有り得ない話ではなく、彼女の言葉が真実である可能性もあった。

最も現段階では推測の域は出ず、大迷宮内では死亡した生物は吸収されてしまうという事実を理解したルノ達はあまり深く考えずに先に進む事にした。今回の目的はあくまでも転移石の回収のため、大迷宮の謎を解くわけに来たわけではない。


「それにしても結構歩いているけど、全然他の人に会わないな……俺たち以外にいないのかな?」
「その可能性もある。この辺には大きな街がないし、第四階層は現在行き来出来る階層の中でも危険な場所。冒険者であろうと無暗に立ち寄れる場所じゃない」
「普通の人にとってはゴーレムもミノタウロスも相当に厄介な相手ですからね」


第四階層に入ってからルノ達は1時間は探索をしているが、未だに他の人間と遭遇しておらず、鉢合わせる相手は全て魔物である。他に冒険者はいないのか、あるいは未だに遭遇していないだけなのかは不明だが、人の気配は感じられなかった。


「あ、見て……まあ大きな広間に出たよ」
「ここはさっき私達が通った場所とは違うようですね。規模も小さいですし、それに一つしか通路がありません」
「行き止まりか……でも、丁度いいからここで休憩しようよ。皆も歩き疲れてない?」
「師匠!!俺は体力が有り余ってますぞ!!」
「デブリ王子……収納石を忘れたからってそんなに大きな荷物を抱えているのによく平気だね」


デブリはこれまでに倒した魔物の素材を大きめの袋で抱えた状態で動き回り、ナオが気を遣って空間魔法で彼の荷物を引き取ろうとしたが、これも鍛錬だと言い張って譲らない。ちなみに素材の中身はゴーレムから回収した核と先ほど倒したミノタウロスの片方の角を抱えている。どちらも重量がある代物だが、デブリは何事も内容に持ち歩く。


「私は歩き疲れましたよ。ふうっ……気のせいか、普段よりも体力が消耗している気がします。慣れない場所を動き回ったせいですかね?」
「……大迷宮内では常に魔物に襲われる緊張感を抱いて行動しなければならない。精神的にも体力的にも知らず知らずのうちに追い込まれる」
「なら、やっぱり休憩しようよ。お弁当もいっぱい持ってきたし、ここは見た限りだと何もなさそうだし休めると思うよ?」


先ほどの広間は砂地の地面だったのに対し、新しく発見した広間は煉瓦製の床なので魔物が地中から現れる可能性は低い。最も壁の中から腕が突き出してきた事例もあるので油断は出来ないが、仮に魔物が現れたとしてもルノが対処すれば問題はない。


「そういえば大迷宮内には休憩地点と呼ばれる魔物が寄りつかない安全地帯があるそうです。もしかしたらここがそうかもしれませんね」
「へえ、そんな場所があるの?」
「ある。私も何度か利用した事がある……けど、第四階層では休憩地点を見つける前に抜け出したから何処にあるのかは知らない」
「ここがそうだと良いんだけど……」
「はっはっはっ!!皆は心配性だな、どんな魔物が現れようとこの僕の筋肉で粉砕するぞ!!」


皆が警戒心を強めながらも休憩を行う中、デブリは高笑いを浮かべて筋肉を見せつけ、ポージングを行う。その際に彼が抱えていた荷物が落ちてしまい、袋の中からゴーレムの核の1つが零れ落ちてしまう。


「あ、ちょっと!!何をしてるんですか勿体ない!!ゴーレムの核は希少なんですから傷一つでも付けたら価値が下がっちゃいますよ!!」
「おお、すまない……いや、これは僕のだから別にそんなに怒らなくても……」


リーリスに注意されてデブリは落としてしまったゴーレムの核を拾い上げようとした時、ある違和感を抱く。
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