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外伝〈転移石を求めて〉
大迷宮の謎
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「ぐうっ……流石は大迷宮、まさかこんな化物までいるとは……だが、師匠の所のミノタウロスと比べたら大したことはないな!!あいつは僕が飼っていた時から甲殻獣を殴り飛ばす程に強かったしな!!」
「ほら、大人しくして下さい。治療中ですから……はい、これで終わり」
「あいたぁっ!?せ、背中を叩く意味は!?」
デブリの剥き出しの背中にリーリスは治療の最期に張り手を食らわせると、ルノとナオは気絶したミノタウロスに視線を向け、身に着けている装備品を確認する。基本的には大迷宮内で倒した魔物の戦利品は倒した冒険者の所持物と認められ、仮に元々の所有者が現れたとしても返却する義務はない。もしも所有者がどうしても返却を求めた場合は当事者同士で交渉を行うしかない。
「この鎧と鉞はちょっと俺達の中では装備出来る人はいなそうだね。異空間に預けておこうか」
「あ、待って……腰に付けている袋の中にお金が入っていた。なんでこんな物を……」
「……魔物の中には戦利品代わりに人間からお金を奪う種もいる。特に綺麗に光る銀貨や金貨が奪われる事が多い」
「ちょっとちょっと、戦利品の分配なら私も参加させてくださいよ」
「待て待て、そのミノタウロスを倒したのは僕だぞ!?この中で一番お金に困っているのは僕なんだからな!!だからお金だけは譲ってください!!」
「なんて見事な土下座!?そこまで困ってるのデブリ!?」
装備品を剥ぎ取るルノ達の前でデブリは見栄も外聞も捨てて頭を下げ、金品の類だけは譲れない意思を伝える。現在のヨツバ王国は世界樹の崩壊の時に王族も民衆も兵士も着の身着のままの状態で抜け出したため、当然ながらにデブリも無一文である。
現在のヨツバ王国は復興中ではあるが、国が所有していた金品も素材もほぼ全てが失われてしまい、王族であるデブリでさえも生活に必要な最低限の支援しか受けていない。そのためにデブリは現在は帝国地方で働き、実家に仕送りを送っている始末であった。
「頼む!!ミノタウロスを倒したのは僕なんだからせめてお金だけでもくれ!!父上や兄上や姉上に仕送りしたいんだ!!」
「まあ、別にお金には困ってないから俺はいいけど……」
「そうですね、私の方も前回の魔人王の一件で予算を上げて貰いましたし、この程度のお金ならデブリ王子に恵んであげましょう」
「……そもそもミノタウロスを倒したのは王子だから、王子が貰うのが当たり前じゃないの?」
「そこはあれですよ、別に王子が頑張らなくてもルノさんなら指先一つでミノタウロスを殺せましたし、結果的にはデブリ王子が動かなくても何とかなりましたから」
「身の蓋もない話だね……でも、ヨツバ王国の復興のために俺もデブリ王子もたくさん仕送りをしなくちゃならないんだ。だから今回の大迷宮の探索でいっぱい稼がないとね」
「おおっ!!ナオの言う通りだ!!師匠、いっぱい魔物を倒して稼ぎましょう!!」
「そういう理由なら協力するよ。でも、先に出口を確保しようか」
ナオとデブリの立場を知ったルノは二人のためにも遭遇した魔物を見逃さず、全て倒して戦利品を回収した場合は二人の多めに分配する事を約束する。だが、その前に出口を見つけて外へ抜け出し、転移石を無事に外界まで運び出さなければならない。
「よし、装備品は全て剥ぎ取れましたね。じゃあ、可哀想ですけどさっさと止めを刺してください。あ、ミノタウロスの角だけは回収してくださいね。良い素材に成りますから」
「そうだね。なら、寝ている所を襲うのは気が引けるけど……ごめん!!」
「ッ……!?」
ルノは気絶したミノタウロスの頭部に向けて回収した鉞を振り翳し、力任せに振り落とす。鉞の刃がミノタウロスの頭部を切り裂き、通路内に鮮血が舞う。ルノの怪力によって頭部を切り裂かれたミノタウロスは痛みを感じる暇もなく絶滅し、装備品を引き剥がされた死体が横たわる。
「よし、じゃあ今の内に角を斬り落としましょう。誰かノコギリ持ってませんか?チェーンソーでも構いませんけど」
「どっちも持ってないよ!!」
「あ、丸鋸みたいのならあるけど」
「あるの!?」
リーリスの言葉にナオが突っ込むが、ルノが氷塊の魔法で「回転氷刃」を生み出すと、絶命したミノタウロスの頭部の角を斬り落とす。その後、残された死体に関しては特に使える部分はなく、このまま放置する事にした。
「回収出来る物は回収しましたし……じゃあ、行きましょうか」
「え?死体はどうするの?火葬とかしないの?」
「いえ、必要ありません。大迷宮内で死亡した魔物は一定の時間を過ぎると何時の間にか消えてなくなってしまう仕組みなんです。原理は不明ですが、大迷宮内で死亡した生物の死骸は溶けてなくなるように消えてしまうそうです」
「死体が消えるって……そんな事有り得るの?」
「……ルノ、あれを見る」
コトネがルノに声を掛けてミノタウロスの死骸を指摘すると、そこにはミノタウロスの肉体が徐々に煉瓦製の床の中に底なし沼のように沈む光景が広がり、驚いたルノ達は慌てて距離を取るとミノタウロスの死骸は完全に飲み込まれて消えてしまった。
「ほら、大人しくして下さい。治療中ですから……はい、これで終わり」
「あいたぁっ!?せ、背中を叩く意味は!?」
デブリの剥き出しの背中にリーリスは治療の最期に張り手を食らわせると、ルノとナオは気絶したミノタウロスに視線を向け、身に着けている装備品を確認する。基本的には大迷宮内で倒した魔物の戦利品は倒した冒険者の所持物と認められ、仮に元々の所有者が現れたとしても返却する義務はない。もしも所有者がどうしても返却を求めた場合は当事者同士で交渉を行うしかない。
「この鎧と鉞はちょっと俺達の中では装備出来る人はいなそうだね。異空間に預けておこうか」
「あ、待って……腰に付けている袋の中にお金が入っていた。なんでこんな物を……」
「……魔物の中には戦利品代わりに人間からお金を奪う種もいる。特に綺麗に光る銀貨や金貨が奪われる事が多い」
「ちょっとちょっと、戦利品の分配なら私も参加させてくださいよ」
「待て待て、そのミノタウロスを倒したのは僕だぞ!?この中で一番お金に困っているのは僕なんだからな!!だからお金だけは譲ってください!!」
「なんて見事な土下座!?そこまで困ってるのデブリ!?」
装備品を剥ぎ取るルノ達の前でデブリは見栄も外聞も捨てて頭を下げ、金品の類だけは譲れない意思を伝える。現在のヨツバ王国は世界樹の崩壊の時に王族も民衆も兵士も着の身着のままの状態で抜け出したため、当然ながらにデブリも無一文である。
現在のヨツバ王国は復興中ではあるが、国が所有していた金品も素材もほぼ全てが失われてしまい、王族であるデブリでさえも生活に必要な最低限の支援しか受けていない。そのためにデブリは現在は帝国地方で働き、実家に仕送りを送っている始末であった。
「頼む!!ミノタウロスを倒したのは僕なんだからせめてお金だけでもくれ!!父上や兄上や姉上に仕送りしたいんだ!!」
「まあ、別にお金には困ってないから俺はいいけど……」
「そうですね、私の方も前回の魔人王の一件で予算を上げて貰いましたし、この程度のお金ならデブリ王子に恵んであげましょう」
「……そもそもミノタウロスを倒したのは王子だから、王子が貰うのが当たり前じゃないの?」
「そこはあれですよ、別に王子が頑張らなくてもルノさんなら指先一つでミノタウロスを殺せましたし、結果的にはデブリ王子が動かなくても何とかなりましたから」
「身の蓋もない話だね……でも、ヨツバ王国の復興のために俺もデブリ王子もたくさん仕送りをしなくちゃならないんだ。だから今回の大迷宮の探索でいっぱい稼がないとね」
「おおっ!!ナオの言う通りだ!!師匠、いっぱい魔物を倒して稼ぎましょう!!」
「そういう理由なら協力するよ。でも、先に出口を確保しようか」
ナオとデブリの立場を知ったルノは二人のためにも遭遇した魔物を見逃さず、全て倒して戦利品を回収した場合は二人の多めに分配する事を約束する。だが、その前に出口を見つけて外へ抜け出し、転移石を無事に外界まで運び出さなければならない。
「よし、装備品は全て剥ぎ取れましたね。じゃあ、可哀想ですけどさっさと止めを刺してください。あ、ミノタウロスの角だけは回収してくださいね。良い素材に成りますから」
「そうだね。なら、寝ている所を襲うのは気が引けるけど……ごめん!!」
「ッ……!?」
ルノは気絶したミノタウロスの頭部に向けて回収した鉞を振り翳し、力任せに振り落とす。鉞の刃がミノタウロスの頭部を切り裂き、通路内に鮮血が舞う。ルノの怪力によって頭部を切り裂かれたミノタウロスは痛みを感じる暇もなく絶滅し、装備品を引き剥がされた死体が横たわる。
「よし、じゃあ今の内に角を斬り落としましょう。誰かノコギリ持ってませんか?チェーンソーでも構いませんけど」
「どっちも持ってないよ!!」
「あ、丸鋸みたいのならあるけど」
「あるの!?」
リーリスの言葉にナオが突っ込むが、ルノが氷塊の魔法で「回転氷刃」を生み出すと、絶命したミノタウロスの頭部の角を斬り落とす。その後、残された死体に関しては特に使える部分はなく、このまま放置する事にした。
「回収出来る物は回収しましたし……じゃあ、行きましょうか」
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「いえ、必要ありません。大迷宮内で死亡した魔物は一定の時間を過ぎると何時の間にか消えてなくなってしまう仕組みなんです。原理は不明ですが、大迷宮内で死亡した生物の死骸は溶けてなくなるように消えてしまうそうです」
「死体が消えるって……そんな事有り得るの?」
「……ルノ、あれを見る」
コトネがルノに声を掛けてミノタウロスの死骸を指摘すると、そこにはミノタウロスの肉体が徐々に煉瓦製の床の中に底なし沼のように沈む光景が広がり、驚いたルノ達は慌てて距離を取るとミノタウロスの死骸は完全に飲み込まれて消えてしまった。
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