最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
569 / 657
最終章 〈魔王と初級魔術師〉

クズノの最期

しおりを挟む
「これで最後だぁあああっ!!」
「舐めるなぁああああっ!!」


クズノは振り下ろされる拳を間近にして怒りの声を上げ、ネオ・オリハルコンを変形させてダンゴムシのような形へと変化を果たす。その結果、振り下ろされたルノの拳は弾かれてしまう。


「くっ……まだまだ!!」
「私はぁっ……魔王軍最高幹部、クズノだぁっ……こんな所で、終わる男ではない!!」
「ちょっと待ちなさいよ!!何だか様子がおかしいわ……」


ルノから逃げるように丸めた鎧を利用して転がって距離を取ると、クズノは身体を顔だけを鎧から出した状態で血走った目を見開き、やがて笑みを浮かべた。この状況でどうして笑う余裕があるのかと全員が身構える中、クズノは地面に落ちていたデュランダルを金属で構成した腕で拾い上げる。


「私にはまだ、これがある……!!」
「黒い、大剣?」
「無駄じゃ!!その大聖剣を扱えるのは異世界に召喚された勇者のみ!!それを扱えるのはこの場にはルノ殿とナオ殿だけのはず!!」


デュランダルを手にしたクズノに対して先帝が怒鳴りつけると、クズノは笑顔を浮かべたままデュランダルを振り翳す。聖剣の力が使えなければデュランダルはただの大剣でしかないはずだが、そんな物でルノに勝てると思い込んでいるのかクズノは笑い声をあげながら天空に翳す。


「見せてあげましょう……僕の究極の兵器を!!」
「なっ!?まさか、あんた!?」
「止めろ!?何をする気だ!!」
「……自殺!?」


天上に掲げたデュランダルを両手で握り閉めたクズノは自分の頭上に刃を移動させると、そのまま覚悟を決めたように瞼を閉じて刃を手放す。



「私は……」



彼が何を言い残そうとしたのかは誰にも聞き取れず、デュランダルの刃に鮮血が舞う。やがてクズノの肉体を覆い包んでいたネオ・オリハルコンが唐突に瓦解し、地面に散らばった。


「……死んだのか?」
「嘘っ……こいつが自殺するなんて、信じられないわ」
「でも、死んでいる……間違いない」


全員が唖然とした表情を浮かべて真っ二つに頭部を切り裂かれたクズノの死体に視線を向け、どう見ても完全に死亡していた。この状態からいかなる回復魔法や薬を施そうと生き返る事はないだろう。例え、精霊薬を持ち込んだとしても死んでしまった人間の肉体を治す事は出来ない。

魔王軍の最後の幹部にして実質上のトップであったクズノの死に際に全員が釈然としない気持ちを抱くが、これで魔王軍は完全に崩壊した事は間違いなく、もう国を脅かす存在は消えたのだ。


「何が何だか分からんが……これで世界は平和になったのか?」
「うむ……一応はな」
「クズノよ、お主は一体何を考えてこんな事を……」


皇帝達はクズノの死体を見て憐れみの視線を向ける中、クズノを追い詰めたルノは違和感を拭えなかった。本当にこれで全てが終わったとは思えず、その気持ちを抱いていたのはナオとリーリスも同じである。


「ちょっとすいません……死体を検視させてもらいますか?本当に死んだのかを確かめますから」
「いや、リーリスよぉっ……どう見ても死んでるだろうが」
「念のためですよ。ほら、コトネさんとリディアも手伝ってください」
「私も?」
「何で私は呼び捨てなのよ……」


リーリス達は恐る恐るクズノの死体に近付くと、まずは杖先で死体をつついて本物である事を確かめ、リーリスは死体から垂れる血液を採取して本物のである事を確かめるためにコトネに差しだす。


「どうですか?」
「……間違いなく人間の血、偽物じゃない」
「そうね、少なくとも動物の血を使って偽装している感じじゃないわ」
「そんな事まで分かるの?」


血の臭いを嗅ぐだけで本物かどうかを見抜くコトネとリディアにルノは素直に感心する中、リーリスは今度は足元に散らばっているネオ・オリハルコンの残骸に気付き、破片を拾い上げる。


「これがクズノが自慢していたネオ・オリハルコンとやらですか……確かに今までに見た事もない金属ですね、それに触れているだけで魔力が吸い取られる感覚がします。こんな物、どうやって作って……きゃあっ!?」
「リーリス!?」


破片を握り締めていたリーリスが悲鳴をあげて手放し、ルノは咄嗟に彼女の身体を受け止める。一体何事が起きたのか彼女に聞く前にナオが反応した。


「待って皆!!この破片……全部動いているよ!?」
「何ですって!?」
「そんな馬鹿な……うわ、本当だ!?」
「……ぐねぐねしてる」


砕けたはずの破片が地面の上でまるで「スライム」のように破片の一つ一つが動き出し、やがて全ての破片が一か所に集まっていく。戻りかけていた他の者達も何事かと振り返ると、徐々に破片の山が形成され、今度は破片同士で結合をすると、やがて金属の球体へと作り替わる。


「これはまさか……!?」
「な、何よこれ!?どうしてクズノの奴が死んだのに動いているの!?」
「死体は確かに死んでいました!!なのに主人がいないのに金属だけが動き出すなんて……」
「……不可解」
「まさか……!!」


出来上がった金属の球体に対してルノだけは心当たりが思い浮かび、自分がかつて相対した「魔王」の存在を思い出す。そして金属の表面に人間の顔面のようなしわが生まれ、中庭に高笑いが広がる。




※ルノ君のストレス度――100%




―――――――――――――

カタナヅキ「(;´・ω・)ガクガクブルブル」←核シェルターに避難
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。