最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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巨人国 侵攻編

巨人王

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――巨人国の王都は大型の魔物さえも寄せ付けないほどの分厚い巨大な壁に覆われ、数万人の民衆によって栄えていた。王都の中心地に存在する王城は恐らくは世界樹の内部で暮らしているエルフ王国を除けば世界最大規模を誇る巨大な城だった。

領地内には小髭族も数多く、彼等のお陰で巨人国の建設技術は非常に高く、帝国の王城の3倍の規模は誇る城内には一千を超える近衛兵が訓練を行っていた。彼等は巨人国の中でも精鋭の類で近衛兵を率いる隊長の中には元四柱将を務めた者も居る。兵士達は武術の訓練に励み、何時如何なる時も外敵から国王や国民を守るために精進する。


「腹筋100回!!腕立て伏せ100回!!これを交互に行いながら合計で1000回超えるまでやり通せ!!」
『はっ!!』
「終了次第、休憩を挟んでから今度は王城の外周20週すれば昼食を許可する!!もしも時間内に終わらせなければ昼食は抜きだ!!」


木刀を握り締めた指導官の指示に新兵の兵士達が従い、兵士達は急いで時間内に終わらせるために訓練に励む。普通の人間よりも食事量を必要とする巨人族にとって昼食だけでも抜かれる事は厳しく、必死になって腹筋と腕立て伏せを行う。

指導官を務めるのは片足が義足で右目に眼帯をした女性であった。彼女はコウの妻であり、元四柱将の一角ではあったが引退してギルスにその座を譲る。名前は「チウ」で四柱将を務めていた時は夫よりも目立ち、四柱将の筆頭を務めていたほどの実力者だった。


「ほらほら、もっと腕を下げな!!そこ、途中で休むんじゃないよ!!身体を動かし続けない方が逆にきつくなるからね!!」
「は、はい!!」
「申し訳ありません!!」
「よし、許す!!さあ、頑張りな!!」


木刀を握り締めながら新兵達の指導を行い、チウは訓練中の兵士達に注意を行う。だが、途中から腹筋を行っていた兵士達が身体を止め、空に視線を向けた状態で固まる。その様子を確認したチウはすぐに注意を行う。


「ほら、勝手に休むんじゃないよ!!まだ半分も終わっていないんだよ!!」
「ち、チウ指導官……あ、あれを見て下さい!!」
「何だってんだい……うおっ!?なんじゃありゃあっ!?」


腹筋をしていた兵士達が上空を指差したのでチウは視線を向けると、そこには空から王城に接近する物体が存在し、城内の中庭で訓練に励んでいたチウ達の元へ降下する。慌てて兵士達は着地点から離れると、物体の正体が氷の乗物である事に気付く。


「ここで降りていいんですか?」
「うむ、問題ない……それにしてもこんな短時間で辿り着くとは、魔法というのは凄まじいのう」
「言っておくけど、こいつがおかしいだけで普通の魔術師はこんな真似は出来ないわよ」
「あっはっはっ!!こっちの乗物の方が爽快感があって面白いね!!」
「……着地」


氷車に乗り込んだルノ達が中庭に降りると、慌てて兵士達を掻き分けてチウが5人の元へ向かい、突如として帰還してきた自分の夫の姿を見て驚愕する。


「こ、コウ!?どうしてあんたがここに……というか、誰だいこいつらは!?」
「おお、我が妻よ……やはりお前もここに居たか」
「え?コウさんの奥さん?どうも初めまして、帝国からやってきたルノと言います」
「あ、こりゃどうも……じゃなくて、一体何事なんだいこれは!?」


律儀にお辞儀を行うルノに対して危うく頭を下げそうになったチウだが、慌てて顔を上げて夫に詰め寄る。彼が空の上から現れた事も驚きだが、明らかに部外者を連れ出して無断で城内に入って来た事の方が問題だった。


「おい、あんたは本当にうちの夫かい!?それならあたしがあんたにプロポーズした時の言葉を教えな!!」
「ぬう……確か、俺のために毎日ブタンの丸焼き肉を作ってくれ、だったかのう?」
「いや、どんなプロポーズよ……」


チウとコウのやり取りにリディアは呆れた表情を浮かべるが、その間にルノは氷車の解除を行い、改めて城の様子を伺う。巨人族が住む事を想定して作り出された城のため、建物の構造も巨人族に適した間取りとなっており、扉の大きさも普通ではない。ルノの場合だと精いっぱい背伸びをしてもドアノブにまで手が届かず、まるで自分が子供に戻ったような感覚に陥る。


「へえ、ここが巨人族のお城かぁっ……思っていたよりもずっと凄いな」
「……むう、帝国の王城の方が綺麗」
「はあっ……凄いね、まさか生きている間に他の国の王城に入り込む機会に巡り合うなんて思わなったよ」
「なんであんた達は観光気分なのよ。もうちょっと緊張感持ちなさいよ……ここは敵の城の中なのよ?」


ルノと同様に城内の様子を物珍しそうに見ているコトネとサムカに対してもリディアは呆れ、この城の何処かにクズノが潜伏しているかもしれないと考えると彼女だけは緊張感を抱かざるを得ない。
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