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巨人国 侵攻編
パワードという男
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「貴様!!人間の分際でよくも将軍を!!」
「止めろ!!手を出したらぶっ殺すぞ!!」
「えっ!?」
パワードを殴りつけたサムカに他の兵士が抑えつけようとするが、それを見たパワードは怒声を張り上げて彼等を制止する。蹴り上げられた顎を撫でながらもパワードはギルスを振りはらい、鼻血を拭いながらもサムカを見つめて笑みを浮かべた。
「へへっ……良い蹴りだ。お陰で酔いが覚めたぜ」
「何だい?あれぐらいの蹴りで怖気ついたのかい?」
「馬鹿言うんじゃねえ。確かに人間にしては良い蹴りだったが、巨人族の女と比べれば大したことはねえ……だが、気の強い女は嫌いじゃねえよ。どうだ?俺の女になるか?」
「はんっ!!そういうセリフはあたしに勝ってからいいな!!」
「言ったな!!なら、望み通りに……うおっ!?」
サムカの言葉にパワードは近づこうとした瞬間、二人の間にルノが割って入り、両手を突き出して二人を軽く突き飛ばす。
「もう、いい加減にしてください!!」
「うおっ!?」
「おおっ!?」
「のわっ!?」
『しょ、将軍!?』
サムカは尻もちを着いたのに対し、パワードの方は強めに押し付けられて背後に立っていたギルスを巻き込んで地面に倒れ込む。その光景に兵士達は驚愕をの声を上げ、一方でルノは怒った風にサムカに叱りつける。
「サムカ将軍!!ここへ来たのは喧嘩するためじゃないって言ってたじゃないですか!!いきなり喧嘩を売るような真似をしちゃ駄目ですよ!!」
「そ、そうだったね……悪かったよ坊主」
「そこの貴方も!!急に殴り掛かるなんて危ないじゃないですか!!」
「わ、悪い……」
「パワード……落ち着け、彼を怒らせるな」
ルノに叱りつけられたサムカとパワードは呆然な表情を浮かべながらも突き飛ばされた部分に視線を向け、くっきりと掌の跡が残っていた。人間が繰り出したとは思えない膂力で突き飛ばされたパワードは動揺を隠せず、そんな彼に対してギルスは小声で事情を説明する。
「パワード、この少年はあの帝国の英雄だ。お前も聞いた事はあるだろう?」
「帝国の英雄……あの竜種を屠ったとかいう凄腕の魔術師か!?」
「そうだ。俺は彼とは交戦しなかったが、それでも噂が真実であった事を確信している。彼は実際に竜種を倒す事が出来る力を持っているんだ……!!」
「し、信じられねえ……」
ギルスの言葉にパワードは唖然とした表情を浮かべるが、自分の腹部に視線を向け、腹筋を貫かれたと思う程に強烈な一撃を受けた事を考えてもルノが只物ではない事を悟る。だが、どうしてギルスがそのルノと帝国の将軍であるサムカを連れて来た事に疑問を抱き、心を落ち着かせたパワードはギルスに事情を尋ねた。
「というかお前、何でここに居るんだよ?こいつら二人は何なんだ?どう見ても捕虜という感じじゃねえよな……帝国からの使者とも思えないんだが?」
「俺は……この二人に捕まった。俺以外の部隊の兵士も全員が拘束されたんだ。一部の兵士を除き、帝国領地の先行部隊は全員が拘束され、この要塞から少し離れた場所で待機している」
「はあっ!?どういう状況だよそれ!?」
パワードはギルスの言葉に信じられない表情を浮かべ、予定では既に帝国領地に侵入した1万の軍隊が巨人国に引き返しているだけではなく、帝国の捕虜として送り返されたという事実に頭の理解が追い付かない。だが、いくらパワードが信じられなくともギルスは自分の部隊が敗北した事をはっきりと告げ、この場所に訪れたのは交渉のためだと説明する。
「詳しい話をする前にまずは彼等を丁重に扱ってくれ。決して機嫌を損ねるな……特にあの少年は絶対に手を出すなよ!!」
「あ、ああ……分かったよ」
これまでに見た事がないほどに気迫を纏う同僚の言葉にパワードは従い、兵士達に命じて警戒態勢を解かせ、二人を岩山の頂上部で建設した建物の中に運び込む。頂上部と言っても大勢の巨人族が岩を削っているお陰で地面が平坦になっているため、傾いた場所で建物を建てたわけではない。
巨人族が使用するだけあって巨大な建築物のため、傍から見れば岩山の上に大きな城が建てられたようにも見えなくはない。パワードによればこの岩山には現在数千人の巨人族の兵士が滞在し、建築作業に励んでいるという。
「まずは改めて自己紹介だな……俺の名は四柱将のパワードだ。そこに立っているギルスとは同期だ」
「どうも、先ほどは突き飛ばしてすいません。帝国から訪れたルノと言います」
「……サムカだ。帝国の将軍、あんたらが帝国へ入り込まないようにホクヘキ山脈の守備を任されている女という方が分かりやすいかい?」
「んだと……その割には俺達の軍隊が帝国領地に侵入していた事も気付かなかったようだがな?職務怠慢か?帝国の女将軍殿?」
「パワード、先ほどの言葉をもう忘れたのか!?す、すまない……この男は俺よりも早く四柱将に選ばれた癖に喧嘩っ早くてな……」
「ちっ……」
パワードの言葉に慌ててギルスが代わりに頭を下げると、サムカとパワードは同時に舌打ちを行って顔を背き、お互いの第一印象は最悪な状況で交渉が開始された。
「止めろ!!手を出したらぶっ殺すぞ!!」
「えっ!?」
パワードを殴りつけたサムカに他の兵士が抑えつけようとするが、それを見たパワードは怒声を張り上げて彼等を制止する。蹴り上げられた顎を撫でながらもパワードはギルスを振りはらい、鼻血を拭いながらもサムカを見つめて笑みを浮かべた。
「へへっ……良い蹴りだ。お陰で酔いが覚めたぜ」
「何だい?あれぐらいの蹴りで怖気ついたのかい?」
「馬鹿言うんじゃねえ。確かに人間にしては良い蹴りだったが、巨人族の女と比べれば大したことはねえ……だが、気の強い女は嫌いじゃねえよ。どうだ?俺の女になるか?」
「はんっ!!そういうセリフはあたしに勝ってからいいな!!」
「言ったな!!なら、望み通りに……うおっ!?」
サムカの言葉にパワードは近づこうとした瞬間、二人の間にルノが割って入り、両手を突き出して二人を軽く突き飛ばす。
「もう、いい加減にしてください!!」
「うおっ!?」
「おおっ!?」
「のわっ!?」
『しょ、将軍!?』
サムカは尻もちを着いたのに対し、パワードの方は強めに押し付けられて背後に立っていたギルスを巻き込んで地面に倒れ込む。その光景に兵士達は驚愕をの声を上げ、一方でルノは怒った風にサムカに叱りつける。
「サムカ将軍!!ここへ来たのは喧嘩するためじゃないって言ってたじゃないですか!!いきなり喧嘩を売るような真似をしちゃ駄目ですよ!!」
「そ、そうだったね……悪かったよ坊主」
「そこの貴方も!!急に殴り掛かるなんて危ないじゃないですか!!」
「わ、悪い……」
「パワード……落ち着け、彼を怒らせるな」
ルノに叱りつけられたサムカとパワードは呆然な表情を浮かべながらも突き飛ばされた部分に視線を向け、くっきりと掌の跡が残っていた。人間が繰り出したとは思えない膂力で突き飛ばされたパワードは動揺を隠せず、そんな彼に対してギルスは小声で事情を説明する。
「パワード、この少年はあの帝国の英雄だ。お前も聞いた事はあるだろう?」
「帝国の英雄……あの竜種を屠ったとかいう凄腕の魔術師か!?」
「そうだ。俺は彼とは交戦しなかったが、それでも噂が真実であった事を確信している。彼は実際に竜種を倒す事が出来る力を持っているんだ……!!」
「し、信じられねえ……」
ギルスの言葉にパワードは唖然とした表情を浮かべるが、自分の腹部に視線を向け、腹筋を貫かれたと思う程に強烈な一撃を受けた事を考えてもルノが只物ではない事を悟る。だが、どうしてギルスがそのルノと帝国の将軍であるサムカを連れて来た事に疑問を抱き、心を落ち着かせたパワードはギルスに事情を尋ねた。
「というかお前、何でここに居るんだよ?こいつら二人は何なんだ?どう見ても捕虜という感じじゃねえよな……帝国からの使者とも思えないんだが?」
「俺は……この二人に捕まった。俺以外の部隊の兵士も全員が拘束されたんだ。一部の兵士を除き、帝国領地の先行部隊は全員が拘束され、この要塞から少し離れた場所で待機している」
「はあっ!?どういう状況だよそれ!?」
パワードはギルスの言葉に信じられない表情を浮かべ、予定では既に帝国領地に侵入した1万の軍隊が巨人国に引き返しているだけではなく、帝国の捕虜として送り返されたという事実に頭の理解が追い付かない。だが、いくらパワードが信じられなくともギルスは自分の部隊が敗北した事をはっきりと告げ、この場所に訪れたのは交渉のためだと説明する。
「詳しい話をする前にまずは彼等を丁重に扱ってくれ。決して機嫌を損ねるな……特にあの少年は絶対に手を出すなよ!!」
「あ、ああ……分かったよ」
これまでに見た事がないほどに気迫を纏う同僚の言葉にパワードは従い、兵士達に命じて警戒態勢を解かせ、二人を岩山の頂上部で建設した建物の中に運び込む。頂上部と言っても大勢の巨人族が岩を削っているお陰で地面が平坦になっているため、傾いた場所で建物を建てたわけではない。
巨人族が使用するだけあって巨大な建築物のため、傍から見れば岩山の上に大きな城が建てられたようにも見えなくはない。パワードによればこの岩山には現在数千人の巨人族の兵士が滞在し、建築作業に励んでいるという。
「まずは改めて自己紹介だな……俺の名は四柱将のパワードだ。そこに立っているギルスとは同期だ」
「どうも、先ほどは突き飛ばしてすいません。帝国から訪れたルノと言います」
「……サムカだ。帝国の将軍、あんたらが帝国へ入り込まないようにホクヘキ山脈の守備を任されている女という方が分かりやすいかい?」
「んだと……その割には俺達の軍隊が帝国領地に侵入していた事も気付かなかったようだがな?職務怠慢か?帝国の女将軍殿?」
「パワード、先ほどの言葉をもう忘れたのか!?す、すまない……この男は俺よりも早く四柱将に選ばれた癖に喧嘩っ早くてな……」
「ちっ……」
パワードの言葉に慌ててギルスが代わりに頭を下げると、サムカとパワードは同時に舌打ちを行って顔を背き、お互いの第一印象は最悪な状況で交渉が開始された。
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