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巨人国 侵攻編
公爵の娘
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(兵士の数は多いけど……これぐらいなら忍び込むのは訳ない)
コトネは音も立てずに屋敷に移動すると、鉄柵の隙間を潜り抜けるために「蛇動」と呼ばれる能力を発動させる。子の能力はリディアの養父も使用した関節を外して蛇のように移動を行う技能スキルだが、コトネの場合は彼よりも数段上で間接どころか身体の骨格さえも変化させて隙間を潜り抜ける。
身体に負担を掛ける能力なので普段は滅多に使用しないが、日影の頭領を務めるコトネは暗殺者の能力を全て極めている。屋敷に侵入を果たしたコトネは兵士に気付かれないように移動を行い、屋敷の内部に侵入すると天井へ張り付く。
(使用人の姿が殆ど見えない……中も兵士だらけ)
屋敷の管理を行うはずの使用人らしき人物は見えず、それどころか屋敷の中は引っ越しでも行うかのように家具が殆ど存在しなかった。不思議に思いながらもコトネは両手と両足の握力だけで天井を移動し、兵士達に気付かれないように移動を行う。
(……流石に疲れてきた。何処かで休みたい)
握力だけで天井にしがみつく行為は体力を消耗するため、小休止を挟むためにコトネは休める場所を確保するために短刀を引き抜く。そのまま天井を切り裂いて天井裏へ隠れる事を考えたが、その前に通路を歩く兵士達が動き出す。
「おい、飯の時間だぞ!!見張りはいいから早く食えっ!!」
「お、やっとか飯か……」
「今日の飯は何だ?」
どうやら兵士達の食事の準備が出来たらしく、急いで屋敷内の兵士達は食堂へ向かう。その様子を確認したコトネは安心して通路へ降り立つと、先ほど中に入った公爵の姿を探す。
(……この部屋から気配を感じる。でも、1つだけ?)
移動中にコトネはある部屋の前で立ち止まり、内部から人間の気配を感じとる。彼女は扉に耳を押し当てると確かに話し声が聞こえが、公爵の声で間違いない事を悟る。
「ミリア……もうすぐだ。もう少しでお前の病気を元に戻してやるからな」
「うう、あがぁっ……」
「ああ、大丈夫だ。お父さんを信じろ……必ず治してやるからな」
部屋の中から聞こえてくる会話の内容にコトネは疑問を抱き、公爵が話している相手の気配が感じられない事に違和感を抱く。やがて片方の足音が扉の方へ近づく気配を感じ取り、即座にコトネは天井に飛び移って身を隠す。
「じゃあ、ミリア……お父さんは少し外に出ているからね。勝手に外に出ては駄目だよ?」
「あうっ……」
扉から公爵が姿を現すと、部屋の中の人物に声を掛ける。公爵は扉を閉めた途端に目頭を抑え、その場でしばらくはうずくまっていたが、やがて気を引き締めたように立ち上がって通路を歩き去る。その様子を見たコトネは疑問を抱き、通路に降りると扉を僅かに開いて中の様子を覗く。
(……暗い、灯りが点いていない)
コトネは部屋の中が暗闇に覆われている事に気付き、彼女は音を立てないように慎重に部屋の中に忍び込んで鍵を掛ける。部屋の中はどうやら女性のしかも子供部屋らしく、可愛いぬいぐるみや綺麗な装飾品が部屋中に配置されていた。そして部屋の奥に存在するベッドには窓から差し込む月の光によって照らされた一人の少女が横たわっていた。
(この子が公爵の娘……ミリア?)
眠っているのかベッドの上で微動だにしない少女にコトネは近づこうとした時、不意に彼女は机の上に置いてある物を見て絶句してしまう。そこには先ほどまで生きていたと思われる一角兎の死骸が存在し、まるで獣に襲われたかの様に肉を引きちぎられ、臓物が食いちぎられた状態で横たわっていた。しかも1匹だけではなく、机の上には5体の一角兎の死骸が並べられていた。
(これは……!?)
死骸の様子を見てコトネは一角兎の「心臓」が存在しない事に気付き、何が起きているのかと彼女はベッドに視線を向けると、そこには先ほどまで存在したはずの少女の姿が消えている事に気付く。その光景を見てコトネは驚きを隠せず、咄嗟に部屋の中を見渡すと天井部分に張り付いている人影を発見する。
「うう、あああっ……!!」
「まさかっ……!?」
天井に張り付いていたのは血塗れのドレスを身に纏った少女が存在し、口元から血液を垂れ流しながらコトネを睨みつけていた。少女の姿を見て最初にコトネが考えたのは「アンデッド」だったが、少女の瞳が赤色に光り輝き、死人とは思えない程の肌には色艶があった。
その他にも普通のアンデッドならば生者を見た瞬間に襲いかかるのだが、少女の場合はコトネの姿を見ても警戒心を抱いたように動かず、天井から離れようとしない。コトネはそんな彼女の反応が気にかかり、試しに両手を上げて話しかける。
「……落ち着いて、私は貴女に危害を加えない」
「ううっ……あ?」
「大丈夫、降りてきて……」
コトネの言葉を理解出来るのか、アンデッドのような呻き声を上げながらも少女はゆっくりと天井から降りると、机を挟んでコトネと向き合う。
コトネは音も立てずに屋敷に移動すると、鉄柵の隙間を潜り抜けるために「蛇動」と呼ばれる能力を発動させる。子の能力はリディアの養父も使用した関節を外して蛇のように移動を行う技能スキルだが、コトネの場合は彼よりも数段上で間接どころか身体の骨格さえも変化させて隙間を潜り抜ける。
身体に負担を掛ける能力なので普段は滅多に使用しないが、日影の頭領を務めるコトネは暗殺者の能力を全て極めている。屋敷に侵入を果たしたコトネは兵士に気付かれないように移動を行い、屋敷の内部に侵入すると天井へ張り付く。
(使用人の姿が殆ど見えない……中も兵士だらけ)
屋敷の管理を行うはずの使用人らしき人物は見えず、それどころか屋敷の中は引っ越しでも行うかのように家具が殆ど存在しなかった。不思議に思いながらもコトネは両手と両足の握力だけで天井を移動し、兵士達に気付かれないように移動を行う。
(……流石に疲れてきた。何処かで休みたい)
握力だけで天井にしがみつく行為は体力を消耗するため、小休止を挟むためにコトネは休める場所を確保するために短刀を引き抜く。そのまま天井を切り裂いて天井裏へ隠れる事を考えたが、その前に通路を歩く兵士達が動き出す。
「おい、飯の時間だぞ!!見張りはいいから早く食えっ!!」
「お、やっとか飯か……」
「今日の飯は何だ?」
どうやら兵士達の食事の準備が出来たらしく、急いで屋敷内の兵士達は食堂へ向かう。その様子を確認したコトネは安心して通路へ降り立つと、先ほど中に入った公爵の姿を探す。
(……この部屋から気配を感じる。でも、1つだけ?)
移動中にコトネはある部屋の前で立ち止まり、内部から人間の気配を感じとる。彼女は扉に耳を押し当てると確かに話し声が聞こえが、公爵の声で間違いない事を悟る。
「ミリア……もうすぐだ。もう少しでお前の病気を元に戻してやるからな」
「うう、あがぁっ……」
「ああ、大丈夫だ。お父さんを信じろ……必ず治してやるからな」
部屋の中から聞こえてくる会話の内容にコトネは疑問を抱き、公爵が話している相手の気配が感じられない事に違和感を抱く。やがて片方の足音が扉の方へ近づく気配を感じ取り、即座にコトネは天井に飛び移って身を隠す。
「じゃあ、ミリア……お父さんは少し外に出ているからね。勝手に外に出ては駄目だよ?」
「あうっ……」
扉から公爵が姿を現すと、部屋の中の人物に声を掛ける。公爵は扉を閉めた途端に目頭を抑え、その場でしばらくはうずくまっていたが、やがて気を引き締めたように立ち上がって通路を歩き去る。その様子を見たコトネは疑問を抱き、通路に降りると扉を僅かに開いて中の様子を覗く。
(……暗い、灯りが点いていない)
コトネは部屋の中が暗闇に覆われている事に気付き、彼女は音を立てないように慎重に部屋の中に忍び込んで鍵を掛ける。部屋の中はどうやら女性のしかも子供部屋らしく、可愛いぬいぐるみや綺麗な装飾品が部屋中に配置されていた。そして部屋の奥に存在するベッドには窓から差し込む月の光によって照らされた一人の少女が横たわっていた。
(この子が公爵の娘……ミリア?)
眠っているのかベッドの上で微動だにしない少女にコトネは近づこうとした時、不意に彼女は机の上に置いてある物を見て絶句してしまう。そこには先ほどまで生きていたと思われる一角兎の死骸が存在し、まるで獣に襲われたかの様に肉を引きちぎられ、臓物が食いちぎられた状態で横たわっていた。しかも1匹だけではなく、机の上には5体の一角兎の死骸が並べられていた。
(これは……!?)
死骸の様子を見てコトネは一角兎の「心臓」が存在しない事に気付き、何が起きているのかと彼女はベッドに視線を向けると、そこには先ほどまで存在したはずの少女の姿が消えている事に気付く。その光景を見てコトネは驚きを隠せず、咄嗟に部屋の中を見渡すと天井部分に張り付いている人影を発見する。
「うう、あああっ……!!」
「まさかっ……!?」
天井に張り付いていたのは血塗れのドレスを身に纏った少女が存在し、口元から血液を垂れ流しながらコトネを睨みつけていた。少女の姿を見て最初にコトネが考えたのは「アンデッド」だったが、少女の瞳が赤色に光り輝き、死人とは思えない程の肌には色艶があった。
その他にも普通のアンデッドならば生者を見た瞬間に襲いかかるのだが、少女の場合はコトネの姿を見ても警戒心を抱いたように動かず、天井から離れようとしない。コトネはそんな彼女の反応が気にかかり、試しに両手を上げて話しかける。
「……落ち着いて、私は貴女に危害を加えない」
「ううっ……あ?」
「大丈夫、降りてきて……」
コトネの言葉を理解出来るのか、アンデッドのような呻き声を上げながらも少女はゆっくりと天井から降りると、机を挟んでコトネと向き合う。
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