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巨人国 侵攻編
閑話 〈世界樹の苗木〉
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――エルフ王国の民が無事に白原に到着した後、彼等は帝国の支援を受けてしばらくの間はこの地で過ごす事にした。だが、何時までも帝国の庇護下で過ごすわけにもいかず、国王はデブリを除いた他の子供達と生き延びた将軍達と共に今後の話し合いを行う。
「やはりこのまま帝国に甘えるわけにはいかんのう……近いうちにここを経ち、我等が領地に戻らねばならん」
「しかし、王都と世界樹が消失した今、我々は何処へ暮せばよいのでしょうか……」
「うむ、そこが問題じゃ。これだけの大勢の民が暮せる場所など限られておる……それに我々は財も失った。今は帝国からの支援を受けているが、いずれは帝国にも礼をしなければならない」
「国王様、その前に皆にあれを見せるべきでは……?」
「うむ、そうじゃのう」
国王の話を聞いた老臣の一人が立ち上がり、木箱に収まった苗木を差しだす。それを見た全員が首を傾げ、国王は苗木の正体を話す。
「皆の者、これをよく見ろ。この苗木は世界樹の種子を育て上げた物じゃ」
「せ、世界樹の!?」
「まさか!?」
「それは本当ですか父上!?」
完全に失われたと思われた世界樹だが、実は種子から育て上げた苗木が一つだけ残っており、それを見た全員が歓喜の声を上げる。森人族という種族にとって世界樹は何よりも大切な存在のため、まだ苗木の状態とはいえ世界樹が残っていた事を喜ぶ。しかし、彼等の喜び様を見ても国王の顔色は悪く、その事に気付いたリンが不思議に思って尋ねる。
「国王様、どうかされましたか?顔色が優れませんが……」
「うむ……実はこの苗木は数十年前から育てられているのだが、成長する様子が全く見られない」
「す、数十年!?」
「様々な肥料を与えたり、上質な水を与えているのだが、やはり育て方が間違っているのかこれ以上に大きくなる様子が無いのだ。そしてこれまでの研究の結果、この世界樹はどうやら栄養を与えるだけでは育つ事はない事が判明した」
「それではどうやって……?」
「儂の見立てでは恐らくこの苗木は魔力を糧として成長する代物じゃ。試しに水属性の魔石を粉々に砕いて肥料に混ぜ合わせたところ、ほんの僅かではあるが反応を示した。だが、それも一時的な物で魔石を与えなければすぐに元の状態に戻ってしまう」
「なるほど……」
「そもそも世界樹自体がどのように育ったのかも我々は知らない。かつて我等の先祖は大森林に暮らす様になったのはあの世界樹が存在したからだ。世界樹の周辺には不思議な事に凶悪な魔物は寄り付かず、世界樹の周辺では常に平和が保たれていた。例外があるとすれば昆虫種だけが世界樹に平気で近づいてきたが、奴等は操られていた節がある。そう考えれば世界樹は魔物を寄せ付けない特別な力を宿していたのだろう」
苗木を覗き込みながら国王は完全に燃え尽きた世界樹の事を思い出して涙を浮かべ、自分が産まれる前から存在した圧倒的で偉大な存在感を誇る世界樹と比べると、この苗木はあまりにも弱弱しく、頼りない。
「この世界樹をどうにか育てる事が出来れば再び我等は安寧の地を得られるかも知れないと思ったが、このままの状態では意味がない」
「国王様……」
「ああ、どうにかこの世界樹の成長を早める方法がないのか……魔力を分け与えると言っても、我々にはもう魔石を入手する術もない」
『…………』
嘆き悲しむ国王を前にして皆が押し黙り、植物を急成長させる方法など森人族である彼等も知らない。だが、もしもこの場にデブリが存在したのならば彼はこう宣言したであろう。植物の生長を促す事が出来る人物を知っていると――
※ルノ「ん?今、誰かに呼ばれたような……?」( ゚Д゚)?
「やはりこのまま帝国に甘えるわけにはいかんのう……近いうちにここを経ち、我等が領地に戻らねばならん」
「しかし、王都と世界樹が消失した今、我々は何処へ暮せばよいのでしょうか……」
「うむ、そこが問題じゃ。これだけの大勢の民が暮せる場所など限られておる……それに我々は財も失った。今は帝国からの支援を受けているが、いずれは帝国にも礼をしなければならない」
「国王様、その前に皆にあれを見せるべきでは……?」
「うむ、そうじゃのう」
国王の話を聞いた老臣の一人が立ち上がり、木箱に収まった苗木を差しだす。それを見た全員が首を傾げ、国王は苗木の正体を話す。
「皆の者、これをよく見ろ。この苗木は世界樹の種子を育て上げた物じゃ」
「せ、世界樹の!?」
「まさか!?」
「それは本当ですか父上!?」
完全に失われたと思われた世界樹だが、実は種子から育て上げた苗木が一つだけ残っており、それを見た全員が歓喜の声を上げる。森人族という種族にとって世界樹は何よりも大切な存在のため、まだ苗木の状態とはいえ世界樹が残っていた事を喜ぶ。しかし、彼等の喜び様を見ても国王の顔色は悪く、その事に気付いたリンが不思議に思って尋ねる。
「国王様、どうかされましたか?顔色が優れませんが……」
「うむ……実はこの苗木は数十年前から育てられているのだが、成長する様子が全く見られない」
「す、数十年!?」
「様々な肥料を与えたり、上質な水を与えているのだが、やはり育て方が間違っているのかこれ以上に大きくなる様子が無いのだ。そしてこれまでの研究の結果、この世界樹はどうやら栄養を与えるだけでは育つ事はない事が判明した」
「それではどうやって……?」
「儂の見立てでは恐らくこの苗木は魔力を糧として成長する代物じゃ。試しに水属性の魔石を粉々に砕いて肥料に混ぜ合わせたところ、ほんの僅かではあるが反応を示した。だが、それも一時的な物で魔石を与えなければすぐに元の状態に戻ってしまう」
「なるほど……」
「そもそも世界樹自体がどのように育ったのかも我々は知らない。かつて我等の先祖は大森林に暮らす様になったのはあの世界樹が存在したからだ。世界樹の周辺には不思議な事に凶悪な魔物は寄り付かず、世界樹の周辺では常に平和が保たれていた。例外があるとすれば昆虫種だけが世界樹に平気で近づいてきたが、奴等は操られていた節がある。そう考えれば世界樹は魔物を寄せ付けない特別な力を宿していたのだろう」
苗木を覗き込みながら国王は完全に燃え尽きた世界樹の事を思い出して涙を浮かべ、自分が産まれる前から存在した圧倒的で偉大な存在感を誇る世界樹と比べると、この苗木はあまりにも弱弱しく、頼りない。
「この世界樹をどうにか育てる事が出来れば再び我等は安寧の地を得られるかも知れないと思ったが、このままの状態では意味がない」
「国王様……」
「ああ、どうにかこの世界樹の成長を早める方法がないのか……魔力を分け与えると言っても、我々にはもう魔石を入手する術もない」
『…………』
嘆き悲しむ国王を前にして皆が押し黙り、植物を急成長させる方法など森人族である彼等も知らない。だが、もしもこの場にデブリが存在したのならば彼はこう宣言したであろう。植物の生長を促す事が出来る人物を知っていると――
※ルノ「ん?今、誰かに呼ばれたような……?」( ゚Д゚)?
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