最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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巨人国 侵攻編

ナオ、復活

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――ある程度の情報収集を終えたリーリスは宿屋に帰還すると、彼女が戻って来た直後にベッドの上で横たわっていたナオが目を覚ます。


「ううん……こ、ここは?」
「あ、起きました?私が誰か分かりますか?」
「えっと……ルールセさん!!」
「誰ですかそれはっ」
「ナオ様、大丈夫ですか!?」


時刻が深夜を迎えそうになった頃、遂に目を覚ましたナオは頭の上に乗っかっていた布を取って体調を確認する。ゆっくりと休んだ事で身体も完全に回復したらしく、空間魔法も千里眼も無事に発動出来る事を確認すると、心配をかけた二人に謝罪した。


「ありがとうございます。身体の方はもう大丈夫です、ご迷惑をお掛けしてすいませんでした」
「いえいえ、私達もナオさんに無理をさせましたからね。それにちょっと言いにくいんですが、もう少しだけ無理してもらうかも知れませんし……」
「ナオ様……実はこの街は巨人軍に包囲されたんです!!」
「えっ!?どういう事ですか?」


二人が手短に現在のこの街は巨人軍に包囲され、風前の灯火である事を話す。住民達は集会所に集まって話し合いを行っているが、巨人軍の目的は食料と武器と薬剤である。これらを全て渡せば住民達の命だけは見逃すという条件だが、彼等がそれを本当に守るかは分からない。

殆どの人間が命惜しさに彼等の要求を受け入れるべきだと主張するが、中には断固として要求を受け入れずに徹底抗戦を主張する人間も居た。だが、現実的に考えて恐らくは1万を超える巨人軍に敵う戦力などこの街には存在せず、せいぜい100人程度の兵士と数十人程度の冒険者しか存在しない。こんな戦力差で巨人軍に勝てるはずがなく、しかも戦力となる高ランク冒険者に至ってはノーズ公爵によって引き抜かれている。


「なるほど、そういう状況なんですか。巨人軍の動きをちょっと見て見ますね」
「大丈夫ですか?病み上がりなのに……」
「見るだけなら平気です……多分」


ナオは千里眼を発動させて街の外部を確認すると、確かに巨人軍が包囲している事を確認するが、陣内の様子を見て呆れてしまう。巨人軍はどうやら宴を行っているらしく、酒や食料に食らいついていた。どうやら完全に街が降伏して大量の物資を確保できると思い込んでいるらしい。

視点を変更させてナオは巨人軍の指揮官らしき人物を探していると、漆黒の鎧を纏った片目に刀傷を負った隻眼の巨人を発見し、この男だけは宴会に参加せずに幕の中で地図を確認していた。風格から察するにこの男が将軍だと判断し、ナオは二人に伝える。


「巨人軍は完全に油断しきってますね。それと多分ですけど将軍みたいな巨人を発見しました。なんか片目が刀傷を負っている漆黒の鎧を纏った巨人族ですけど……」
「隻眼に漆黒……もしやそれは巨人国の英雄と呼ばれているギルスでは!?」
「あのギルス……何度か帝国領地に攻め込んできた巨人国の中でも古参の将軍ですね」


巨人の特徴を聞いたジャンヌとリーリスは驚きの声を上げ、二人が知っている様子を見ると相当に有名な将軍らしい。ナオはギルスの様子を確認すると、どのような経緯で入手したのかは分からないが街の地図を確認して軍隊が攻める方法を考えている様子だった。


「このギルスという人、街に攻め入る作戦を一人で考えています。他に巨人の姿は見当たりませんけど……」
「なるほど、それは好機ですね。今から仕掛けましょう」
「仕掛ける?まさか……」
「ナオさん、おめえの出番だぞ!!」
「ええっ!?」


リーリスの言葉にナオは動揺するが、彼女はグリドンと呼ばれる木の実が入った小袋を差しだす――



――その一方、巨人軍の総指揮を任されているギルスは幕の中で地図と向かい合い、どのように攻め入れば味方の被害が少なく街を攻め落とせるのかを考えていた。正直に言えば街を攻め入る事はあまり気乗りしないが、国からの命令である以上はギルスは巨人軍にとって最善の方法を尽くすしかない。


「ふむ、こんな所か……おい、誰か居るか?」


作戦を立て終えて他の人間に意見を聞こうとギルスは幕の外に話しかけるが、何故か返事がなく、見張りの兵士も訪れる様子が無い。不思議に思ったギルスは幕の外に出ると、そこには倒れている兵士の姿が存在した。


「おい、どうした!?」
「ううん……ひっく」
「もう飲めません……」
「……馬鹿共が」


慌てて駆けつけたギルスは兵士の様子を見ると、傍には空の酒瓶が存在し、どうやら酔いつぶれて眠っている事に気付く。職務を放棄して飲んだくれる彼等にギルスは頭を抱え、既に街の人間が降伏して物資を明け渡すと考えている軍隊に呆れてしまう。

確かに街には既に巨人軍に対抗できる戦力は存在しないだろうが、それでも万が一の場合を考えてギルスは酒の飲酒はほどほどするように通達していた。だが、兵士達は長期間に渡って帝国領地で目立たぬように潜伏していたため、羽目を外して飲み過ぎたようだった。
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