最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

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巨人国 侵攻編

ジャンヌの判断

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――宿屋に引き返したリーリスはナオの看病を行っていたジャンヌに事情を説明すると、彼女は街が包囲されたという事実に衝撃を受ける。


「そんな……街が包囲されたなんて」
「とにかく、すぐに逃げ出せる準備をしておいてください。幸いにも軍隊はすぐに攻め込んでくる様子はありません。その間に街を離れる準備をしましょう」
「ですが、私達が逃げ出したからこの街の住民はどうなるのですか!?」
「……要求を受け入れれば殺さないと相手は言っています」


巨人国の軍隊が住民に要求したのは街中の食料、武器、薬剤の要求なので金品の類は奪うつもりはないらしく、要求を受け入れれば手出しはしないと宣言している。実際の所は要求を受け入れた後に情報漏洩を防ぐために街の人間を皆殺しにする可能性もあるだろうが、流石にそうなると兵士や冒険者の反撃も受けるだろう。

理由は不明だが帝国に侵入した軍隊は現地調達で物資を集めているところ、本国からの救援物資を受けられない状態なのだろう。それならば無駄な戦闘は避けるため、この街の住民を殺すなどという時間が掛かる事はしないだろう。問題があるとすれば物資を奪われた街の住民がどうやって生き延びるのかであり、他の街に救援を求めようにもその街が巨人軍に襲われない保証はない。


「リーリス、私達だけで逃げ出すなんて真似は出来ません!!どうにか軍隊と交渉を……」
「お姫様は自分の立場を分かっているんですか?帝国の唯一の後継者が捕まればこの国はどうなると思っているんです。きっと軍隊の中にお姫様の顔を知っている巨人も居ますよ」
「そ、それは……」


住民を見捨てて自分達が逃げ出す事にジャンヌは反感を覚えるが、彼女が表に出れば軍隊は何としてもジャンヌを捕まえようとするだろう。帝国の後継者であるジャンヌが巨人国に囚われれば帝国は滅びの運命を辿る。それは承知しているが、それでもジャンヌは街の住民を見捨てない方法はないのかを尋ねる。


「リーリス、どうにか出来ないのですか?せめて街の方々を逃がす方法があれば……」
「街を逃げ出したところでどうするんですか?家を捨てて生き延びてもその後はどうするんです?残念ですけど今の私達に出来る事はありません」
「それでも……!!」
「はあ……仕方ないですね、ならこうしましょう。ナオさんが起きてから話し合いましょう。戦うにしろ、逃げるにしろ、ナオさんの力が必要ですから」


唯一の希望があるとすれば勇者として召喚されたナオの力に期待するしかなく、この状況を打開できる力を持つ人間んがいるとすればナオしか存在しない。ジャンヌはリーリスの言葉に従い、ナオの様子を伺う。現在は熱を引いて穏やかに眠ってはいるが、しばらくは目覚める様子はない。


「ちょっと私は外に出て様子を見てきますね。あの捕まっていた支援魔術師の人を見つけたら何か他の情報を聞き出せるかもしれませんし、冒険者ギルドの様子も見てきます」
「分かりました……私も出立の準備は進めておきます」
「出来る限り急いでください。ああ、それとユニコーンを呼び出す準備だけはしておいてくださいね」
「はい……」


ジャンヌはリーリスの言葉に従い、眠っているナオの横顔を見て彼が一刻も早く目覚める事を祈っていると、そんな彼女の姿を見てリーリスは頭を掻く。


(……こういう役目はルノさんだと思うんですけどね、仕方ありません。やってやりますか)


万が一にも軍隊と戦う場合を想定し、リーリスは戦闘手段を確保するために動く――



――彼女が最初に訪れたのは冒険者ギルドだった。そこでは大勢の住民が集まり、冒険者に詰め寄っていた。どうやら大金を支払ってでも街から逃れるために彼等に協力を求める者と、街を守るように抗議する者に別れていた。


「おい、あんたらは強いんだろ!?頼むよ、この金で街の外まで護衛してくれよ!!」
「お前等!!普段はあんだけ威張ってるんだから兵士と一緒に戦うんだよな!?何としても街を守れよ!!」
「お、落ち着いて下さい皆さん!!今はギルド内で会議を行ってますのでどうかお話は会議が終わった後に……」
「ふざけんな!!お前等のために俺達がどれだけ金を払っていると思ってるんだ!?何とかしろよ!!」
「くそ、黙って聞いてれば好き勝手言いやがって!!こっちだって混乱してるんだよ!!お前等の相手なんかしてられるか!!」
「馬鹿、言い過ぎだぞ!!すいません皆さん、こいつは駆け出しの冒険者でして……」


ギルドの前では阿鼻叫喚の光景が広がり、冒険者に縋る者や罵倒する者で溢れかえっていた。その様子を見たリーリスはどうやら冒険者達も今回のような事態は想定していなかったらしく、彼等はノーズ公爵から話を受けていない者達は今回の事態に陥る事を知らなかったらしい。支援魔術師を公爵の元へ送り込んだギルドマスターならば事情は知っていたかもしれないが、今頃は逃げ出したか公爵に見捨てられたか、どちらにしろ碌な状況ではないだろう。
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