上 下
466 / 657
エルフ王国 決戦編

さあ、北方領地へ

しおりを挟む
「じゃあ、キバ君はしばらくは起きないの?」
「強い衝撃を与えない限りは平気よ。万が一に起きても人間は襲わないように命じているから何処かへ消えるわよ……多分、恐らく……だといいな」
「ちょっと待ってください、最後になんて言いました!?」


不穏な言葉を残すリディアにドリアは突っかかり、リディアを同行させる事にルノは思い悩む。出来ればここで帝国軍やエルフ王国の避難民の警護のために彼女は残ってほしいのだが、そもそもリディアは罪人なのであまり良い印象は持たれていない。

そもそもリディアを抑えられる戦力はこの場には帝国四天王ぐらいしか存在せず、彼女の目を離せば逃げてしまう可能性もある。一応はもう悪人ではないと思うが、やはりもうしばらくの間は自分の目の届く範囲に置いておくべきかと考えたルノはリディアの提案を受け入れた。


「分かったよしょうがないな……なら、ガー君も一緒に行くよ」
「やった!!」
「シャアアッ……」
「むうっ……この人、あんまり好きじゃない」


コトネは過去にリディアに襲われた経験があるので警戒するようにルノの服の袖を引くが、ここまでの道中でリディアは根っからの悪人ではない事を知っているルノは何とか彼女を宥め、皇帝に見つかる前に帝都へ出発する事にした。


「じゃあ、俺達はもう行きます。後の事はお願いします」
「うむ、任された」
「お気をつけて……」
「さあ、行くわよ!!ユニコーン捕獲に!!」
「シャアアッ!!」
「……お~」


リディアの号令にガーゴイルとコトネが手を上げ、ルノは乗り物を作り出す。出来る限り急いで移動を行う必要があるため、氷塊の飛行機を生み出す。


「よし、皆乗ったね。一応は点呼するよ、コトネ」
「ういっ」
「リディア」
「居るわよ」
「ガー君」
「シャウッ」
「デブリ君」
「はい!!」
「いや、誰よあんた!?」


ルノの点呼に何故かエルフ王国の王子であるデブリが反応し、リディアは驚いた表情を浮かべる。彼女はデブリと過去に何度も顔を合わせているが、減量に成功するだけでなく筋肉ムキムキになった彼を見て驚いた声を上げた。以前の面影は殆ど残っておらず、知り合いであるリディアでさえもデブリだと気づく事は出来なかった。デブリがどうして氷飛行機に乗り込んでいるのかはルノも疑問を抱き、一体何時の間に乗り込んだのかと尋ねる。


「つい名前を呼んじゃったけど……どうしてデブリ王子が乗ってるんですか?」
「ルノよ、いやルノさん!!敬語は不要ですぞ!!貴方は父上の恩人、いや、王国の恩人!!私如きに敬語を使う必要はありません!!」
「ち、父上?誰よこいつ……人間顔のオーガ?」
「リディア、テイムする」
「要らないわよこんなの!?」


デブリの声を聞いてもリディアは彼の正体に気付けず、謎のポージングを行いながらデブリは氷飛行機に乗り込んだ理由を話す。


「お願いですルノさん、僕も連れて行ってください!!だいたいの話は盗み聞きしていました!!どうか僕にも王女様の救助を手伝わせてほしい!!」
「ど、どうして?」
「僕は散々自分の国や王国の人々に迷惑を掛けてきた……だから何でもいいから罪滅ぼしがしたい!!そのためにこの身体を鍛えあげました!!」
「何で魔法が得意な森人族が肉体を鍛えているのよ!?普通、そこは魔法を鍛えなさいよ!?」
「はっ……!?も、盲点だった……」


リディアのツッコミにデブリは衝撃を受けた表情を浮かべ、ダイエットに成功した時にこの際に身体を極限まで鍛え上げようと考えたデブリには魔法を磨くという発想は思いつかなかった。しかし、本気で人の役に立ちたいという思いは嘘ではなく、デブリは土下座を行う。


「だけど、僕には魔法がなくとも筋肉がある!!どうかこの力を役立たせたい!!お願いです、連れて行って下さい!!」
「う、う~ん……連れて行くのはいいけど、そんな事をしたらエルフ王国の人達が困るんじゃ……」
「あ、それは大丈夫です。抜け出す前にちゃんと話は通しておきましたから」


家族に話はつけてきたらしく、デブリは既に旅支度を整えていたのか大きなリュックをぶら下げていた。そして思い出したように彼はリュックの底から大きな小袋を取り出し、ルノに差し出す。


「あ、そうだ。旅をするならきっとこれも役立つでしょう。どうかお使い下さい」
「これは?」
「僕のお小遣いです。コツコツと溜めていたので結構な額になると思いますけど……これを旅費として利用してください」
「いや、そんなの悪いですよ。お金には困ってないし……あっ」


ルノはこれまでに貯蓄したお金が全てアイリスに回収された事を思い出す。帝都に戻れば冒険者ギルドに預けたお金や帝国の人間からお金を借りれるかもしれないが、どちらも時間が掛かるだろう。それにデブリの想いは本当らしく、彼は何としても付いて行こうと頼み込む。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」

サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。