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エルフ王国 決戦編
王国の崩壊、最後の希望
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倒れた世界樹を中心に樹海に炎が燃え広がり、昆虫種が焼け死んでいく姿を氷飛行機の中から確認しながらルノは違和感を覚えた。どうして大量の昆虫種が迫りくる炎から逃げもせず、焼け死んでいく姿に疑問を抱くと、氷飛行機の正面から蟷螂が衝突した。
『ギルゥッ……!!』
「うわっ……まだ戦う気か?」
正面の窓に張り付いた蟷螂は鎌を振り下ろそうとしたが、何故か途中で動作が鈍くなると、瞳の色を怪しく光らせて氷飛行機から離れる。そのまま蟷螂は燃え盛る世界樹の方に向けて降下し、火の海の中に飛び込んで死亡した。その様子を見てルノ達は昆虫種が自ら進んで自殺している事に気付く。
「一体どうして昆虫種達が……」
「そういえばイヤンの話によれば魔王軍は世界樹ごと昆虫種を根絶やしにすると言っていたが……まさか、こ奴らも洗脳されているのか!?」
「そんなバカな!!これ程の数の昆虫種を操るなど人間の所業ではありません!!」
昆虫種が自殺するように火の海に身を投じていく光景にルノ達は混乱し、魔王軍に操られていたイヤンが知った計画では昆虫種を世界樹に引き寄せて共に焼き殺す計画を魔王軍は立てていた話は聞いていた。そして目の前では大量の昆虫種が自らの意思で火炎の中に飛び込み、自殺する光景にルノ達は戦慄する。
人間だけではなく、昆虫種さえも操る能力を持つかもしれない魔王軍の得体の知れない力に恐れを抱かずにはいられず、もしもこの力をルノのような存在に使用した場合はどうなるかと考えただけで国王たちは恐ろしく感じる。強大な力を持つルノが味方であるうちは心強いが、そのルノが敵に回った場合、国を滅ぼす最強の悪が産まれるだろう。
(この男は命の恩人である事は確かだ。だが、もしもその力が敵の手に渡れば……)
国王は氷飛行機の中でルノに視線を向け、仮に彼が魔王軍の手中に落ちれば世界は瞬く間に魔王軍に支配されるだろう。そう考えた国王は自分の恩人であるルノに対して恐怖を覚え、身体を震わせる。
(落ち着け、彼が敵になるとは限らん。だが、この得体の知れない力の秘密を解き明かさねばいずれ魔王軍は彼を狙うだろう)
魔獣を操作する方法はいくつか存在するが、昆虫種のような知能が低い生物ほど操る事は難しい。例えばリディアのような魔物使いですらも昆虫種を完全に操作する事は難しく、魔獣契約はある程度の知能を持つ生物にしか通用しない。
この世界に存在する「呪術師」と呼ばれる特殊な職業の人間は「洗脳」と呼ばれるスキルを習得できるが、この洗脳の能力は万能ではなく、あくまでも人間相手にしか使用できない。魔人族のような知能が人間のように高い魔物ならばともかく、昆虫種のような本能のままに生きる生物には効果がない事から今回の敵は上の二つ以外の何らかの方法で敵を操っている事になるだろう。
「……あの、このまま燃え広がったら大変な事になりますか?」
「いや、大丈夫じゃ。この炎は元々は魔石の爆発によるもの……時間が経過すれば自然に消火されるじゃろう。ほら、見ての通り炎の勢いも弱まってきた」
ルノが氷塊の魔法で消火を行うべきか尋ねようとしたが、国王は世界樹の全体を包む炎が既に弱まっている事に気付き、やがて完全に消え去る。残されたのは湖の中に沈む焼け焦げた巨木と、辺り一面を覆いつくす昆虫種の死骸だけが存在した。
エルフ王国の象徴である王都は見る影もなく、世界樹によって城下町は押しつぶされ、無事だった地域も火災によって焼失してしまう。この状態では最早人が住める事はなく、湖も昆虫種の死骸のせいで汚れてしまった。それを見て国王と兵士達は涙を流し、レナはそんな彼等にどんな言葉を掛けていいのか分からず、黙って帝国へ戻る事を決めた――
――その一方では地上で昆虫種の死骸を踏みつぶしながら空を見上げる人影が存在し、全身にフードを背負った男は消え去っていく氷飛行機を見て溜息を吐く。やがて隠れる必要もなくなった男はフードを脱ぐと、特徴的なシルクハットの帽子を頭に取り付けて傍に落ちていた蟷螂の死骸の頭を踏みつぶす。
「出来れば世界樹ごと共に死んでくれる事を願ったんですがね……まあ、手間のかかる昆虫種の処理だけでも済んで良しとしますか」
魔王軍の最高幹部であるクズノは周囲の光景を確認し、自分が呼び起こしたとはいえ大量に増殖して手に余っていた昆虫種を処理出来た事に溜息を吐く。今回の作戦のために大きな出費をしてしまい、帝国のデキンを利用して得ていた資金も底を付きかけていた。
「転移結晶は持ち去られましたか。まあ、別にいいですね。私にはまだ貴方様が残っている……さあ、最終段階に入りましょう」
クズノは自分の胸元に掲げている水晶製のペンダントに視線を向け、醜悪な表情を浮かべると杖を翳してその場を転移した――
『ギルゥッ……!!』
「うわっ……まだ戦う気か?」
正面の窓に張り付いた蟷螂は鎌を振り下ろそうとしたが、何故か途中で動作が鈍くなると、瞳の色を怪しく光らせて氷飛行機から離れる。そのまま蟷螂は燃え盛る世界樹の方に向けて降下し、火の海の中に飛び込んで死亡した。その様子を見てルノ達は昆虫種が自ら進んで自殺している事に気付く。
「一体どうして昆虫種達が……」
「そういえばイヤンの話によれば魔王軍は世界樹ごと昆虫種を根絶やしにすると言っていたが……まさか、こ奴らも洗脳されているのか!?」
「そんなバカな!!これ程の数の昆虫種を操るなど人間の所業ではありません!!」
昆虫種が自殺するように火の海に身を投じていく光景にルノ達は混乱し、魔王軍に操られていたイヤンが知った計画では昆虫種を世界樹に引き寄せて共に焼き殺す計画を魔王軍は立てていた話は聞いていた。そして目の前では大量の昆虫種が自らの意思で火炎の中に飛び込み、自殺する光景にルノ達は戦慄する。
人間だけではなく、昆虫種さえも操る能力を持つかもしれない魔王軍の得体の知れない力に恐れを抱かずにはいられず、もしもこの力をルノのような存在に使用した場合はどうなるかと考えただけで国王たちは恐ろしく感じる。強大な力を持つルノが味方であるうちは心強いが、そのルノが敵に回った場合、国を滅ぼす最強の悪が産まれるだろう。
(この男は命の恩人である事は確かだ。だが、もしもその力が敵の手に渡れば……)
国王は氷飛行機の中でルノに視線を向け、仮に彼が魔王軍の手中に落ちれば世界は瞬く間に魔王軍に支配されるだろう。そう考えた国王は自分の恩人であるルノに対して恐怖を覚え、身体を震わせる。
(落ち着け、彼が敵になるとは限らん。だが、この得体の知れない力の秘密を解き明かさねばいずれ魔王軍は彼を狙うだろう)
魔獣を操作する方法はいくつか存在するが、昆虫種のような知能が低い生物ほど操る事は難しい。例えばリディアのような魔物使いですらも昆虫種を完全に操作する事は難しく、魔獣契約はある程度の知能を持つ生物にしか通用しない。
この世界に存在する「呪術師」と呼ばれる特殊な職業の人間は「洗脳」と呼ばれるスキルを習得できるが、この洗脳の能力は万能ではなく、あくまでも人間相手にしか使用できない。魔人族のような知能が人間のように高い魔物ならばともかく、昆虫種のような本能のままに生きる生物には効果がない事から今回の敵は上の二つ以外の何らかの方法で敵を操っている事になるだろう。
「……あの、このまま燃え広がったら大変な事になりますか?」
「いや、大丈夫じゃ。この炎は元々は魔石の爆発によるもの……時間が経過すれば自然に消火されるじゃろう。ほら、見ての通り炎の勢いも弱まってきた」
ルノが氷塊の魔法で消火を行うべきか尋ねようとしたが、国王は世界樹の全体を包む炎が既に弱まっている事に気付き、やがて完全に消え去る。残されたのは湖の中に沈む焼け焦げた巨木と、辺り一面を覆いつくす昆虫種の死骸だけが存在した。
エルフ王国の象徴である王都は見る影もなく、世界樹によって城下町は押しつぶされ、無事だった地域も火災によって焼失してしまう。この状態では最早人が住める事はなく、湖も昆虫種の死骸のせいで汚れてしまった。それを見て国王と兵士達は涙を流し、レナはそんな彼等にどんな言葉を掛けていいのか分からず、黙って帝国へ戻る事を決めた――
――その一方では地上で昆虫種の死骸を踏みつぶしながら空を見上げる人影が存在し、全身にフードを背負った男は消え去っていく氷飛行機を見て溜息を吐く。やがて隠れる必要もなくなった男はフードを脱ぐと、特徴的なシルクハットの帽子を頭に取り付けて傍に落ちていた蟷螂の死骸の頭を踏みつぶす。
「出来れば世界樹ごと共に死んでくれる事を願ったんですがね……まあ、手間のかかる昆虫種の処理だけでも済んで良しとしますか」
魔王軍の最高幹部であるクズノは周囲の光景を確認し、自分が呼び起こしたとはいえ大量に増殖して手に余っていた昆虫種を処理出来た事に溜息を吐く。今回の作戦のために大きな出費をしてしまい、帝国のデキンを利用して得ていた資金も底を付きかけていた。
「転移結晶は持ち去られましたか。まあ、別にいいですね。私にはまだ貴方様が残っている……さあ、最終段階に入りましょう」
クズノは自分の胸元に掲げている水晶製のペンダントに視線を向け、醜悪な表情を浮かべると杖を翳してその場を転移した――
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