459 / 657
エルフ王国 決戦編
脱出の準備
しおりを挟む
「お、お前は……いや、貴方は帝国の英雄!?」
「何!?もしや、あの初級魔術師の……!?」
「おお、帝国最強の魔術師と言われているあの!?」
「援軍か!?遂に援軍が訪れたのか?」
ルノの正体に気付いた者達が歓喜の表情を浮かべ、たった一人とはいえ帝国軍が訪れた事から遂に援軍が到着したと希望を抱く。そんな彼等にルノは落ち着かせ、まずは状況を尋ねる。
「落ち着いて下さい、まずこの場所にはどれくらいの森人族が残っているんですか?」
「わ、分かりません……兵士の方々が我等を守るために出向いたのですが、戻って来たのは極僅か……恐らく、この場に300人程度の森人族しかいません」
「転移結晶は?」
「未だに転移を開始していますが、もう魔石を底に付きかけているそうです。だから魔石の変わりに魔力容量が大きい者達が代わりに魔力の提供を行っているようですが……」
残された森人族の人数を聞き、さらに転移が続けられている事を知ったルノは人々を掻き分け、扉の前に立つ。ルノが前に出てきたことで扉の前に集まっていた者達も道を開き、彼の行動を観察する。
「すいません!!声は聞こえますか?皆さんを助けに来ました!!ここを開けてください!!」
『むっ……そ、その声は!?』
扉の内側からルノにも聞き覚えがある声が響き、扉が開かれて疲弊した老人と兵士が現れた。それを見たルノは相手が国王だと悟り、一体中で何が起きていたのか全員の顔色が悪かった。
「お、おおっ……其方は帝国の、という事は援軍が間に合ったのか?」
「あ、あの……大丈夫ですか?気分でも悪いんですか?」
「うむ……魔石の代わりに我等が魔力を送り込んで転移結晶を発動させようとしたのだが、やはり老骨には答えるのう……3回分だけ送り込んだだけでこの様じゃ」
国王は兵士に肩を借りながら皆の前に姿を現し、中には他にも大勢の兵士達がへたり込んでいた。どうやら民衆を送り込むために兵士達が魔力を犠牲にしたらしく、全員が疲労困憊の状態に陥っている様子を見てルノは転移結晶に視線を向ける。
「これが転移結晶ですか?これを使えば帝国の白原にまで送り込めるんですよね?」
「ああ、その通りだが……ちょっと待て、どうしてそれをお主が知っておる?」
「既に息子さんから話を聞いています。送り込まれた森人族の方々は帝国が保護しているので安心してください」
「な、何と……!?」
援軍として赴いたとばかり思っていた国王はルノの思いもがけない言葉に動揺を隠せず、まさか既に帝国がエルフ王国の避難民を受け入れ、しかも転移結晶の存在を知っている事に驚きを隠せない。だが、彼の反応に気付かずにルノは転移結晶を覗き込み、そして日本語で記されている文章を発見して転移結晶の使い方を確認した。
転移結晶には周囲に複数の魔法陣が存在し、その内の一つにルノは近寄って掌を差し出すと、僅かながらに魔力を吸い取られる感覚を覚える。それを確かめたルノは魔力の吸収量から一つの魔法陣で吸収される量を推察し、この転移結晶を発動させるには魔法陣の数だけで人数かあるいは魔力を発する物体が必要である事に気付く。
「森人族以外でもこの上に魔石を置けば使用する事が出来るんですよね?」
「あ、ああ……確かにその通りだが、何をする気なのだ?」
「ちょっと実験を……光球!!」
ルノは掌を翳すと光球の魔法を発動させ、複数の光の塊を生み出す。ルノの行動に全員が不思議に思うが、やがて光球が全ての魔法陣の上に移動するのを確認すると、彼の思惑に気付く。
「まさか……!?」
「上手くいくかな……あ、いった」
「ぬおっ!?」
魔石の代わりに光球から放たれる光の魔力を魔法陣に吸収させる事で転移結晶が発動可能の状態に陥り、それを目撃した国王は慌てて身体の疲れを忘れて水晶の前に移動すると、転移が行えることを確認する。
「ま、まさか……こんな方法で転移結晶を発動する事が出来るとは!?」
「えっと、その転移結晶に書かれている文章によると魔法陣に設置するのは聖属性の魔石だけで十分なんですよ。一応は他の魔石もでも代用できるそうですけど、最も効率的なのは聖属性の魔石らしいので光球の魔法で代用出来ないのか試したんですけど……」
「お主、この文字を読めるのか!?」
「あ、はい。日本語だったので……」
ルノの言葉に国王は頭を抑え、まさか転移結晶の正しい使用法が今更ながらに発覚する。だが、落ち込んでいる暇はなく、国王は転移結晶が発動できる今のうちに残された者達の避難を再開させる。
「皆の者、一列に並んで魔法陣の前に移動するのだ!!決して焦らず争わず、女子供を優先して行動するのだ!!」
「ですが国王様、もう敵はそこまで……!!」
「大丈夫です、俺が食い止めますから皆さんは避難してください」
広間に集まった森人族はルノの言葉を聞いて顔を見合わせ、ここは彼を信じて国王の指示に従い、避難の準備を行う。
「何!?もしや、あの初級魔術師の……!?」
「おお、帝国最強の魔術師と言われているあの!?」
「援軍か!?遂に援軍が訪れたのか?」
ルノの正体に気付いた者達が歓喜の表情を浮かべ、たった一人とはいえ帝国軍が訪れた事から遂に援軍が到着したと希望を抱く。そんな彼等にルノは落ち着かせ、まずは状況を尋ねる。
「落ち着いて下さい、まずこの場所にはどれくらいの森人族が残っているんですか?」
「わ、分かりません……兵士の方々が我等を守るために出向いたのですが、戻って来たのは極僅か……恐らく、この場に300人程度の森人族しかいません」
「転移結晶は?」
「未だに転移を開始していますが、もう魔石を底に付きかけているそうです。だから魔石の変わりに魔力容量が大きい者達が代わりに魔力の提供を行っているようですが……」
残された森人族の人数を聞き、さらに転移が続けられている事を知ったルノは人々を掻き分け、扉の前に立つ。ルノが前に出てきたことで扉の前に集まっていた者達も道を開き、彼の行動を観察する。
「すいません!!声は聞こえますか?皆さんを助けに来ました!!ここを開けてください!!」
『むっ……そ、その声は!?』
扉の内側からルノにも聞き覚えがある声が響き、扉が開かれて疲弊した老人と兵士が現れた。それを見たルノは相手が国王だと悟り、一体中で何が起きていたのか全員の顔色が悪かった。
「お、おおっ……其方は帝国の、という事は援軍が間に合ったのか?」
「あ、あの……大丈夫ですか?気分でも悪いんですか?」
「うむ……魔石の代わりに我等が魔力を送り込んで転移結晶を発動させようとしたのだが、やはり老骨には答えるのう……3回分だけ送り込んだだけでこの様じゃ」
国王は兵士に肩を借りながら皆の前に姿を現し、中には他にも大勢の兵士達がへたり込んでいた。どうやら民衆を送り込むために兵士達が魔力を犠牲にしたらしく、全員が疲労困憊の状態に陥っている様子を見てルノは転移結晶に視線を向ける。
「これが転移結晶ですか?これを使えば帝国の白原にまで送り込めるんですよね?」
「ああ、その通りだが……ちょっと待て、どうしてそれをお主が知っておる?」
「既に息子さんから話を聞いています。送り込まれた森人族の方々は帝国が保護しているので安心してください」
「な、何と……!?」
援軍として赴いたとばかり思っていた国王はルノの思いもがけない言葉に動揺を隠せず、まさか既に帝国がエルフ王国の避難民を受け入れ、しかも転移結晶の存在を知っている事に驚きを隠せない。だが、彼の反応に気付かずにルノは転移結晶を覗き込み、そして日本語で記されている文章を発見して転移結晶の使い方を確認した。
転移結晶には周囲に複数の魔法陣が存在し、その内の一つにルノは近寄って掌を差し出すと、僅かながらに魔力を吸い取られる感覚を覚える。それを確かめたルノは魔力の吸収量から一つの魔法陣で吸収される量を推察し、この転移結晶を発動させるには魔法陣の数だけで人数かあるいは魔力を発する物体が必要である事に気付く。
「森人族以外でもこの上に魔石を置けば使用する事が出来るんですよね?」
「あ、ああ……確かにその通りだが、何をする気なのだ?」
「ちょっと実験を……光球!!」
ルノは掌を翳すと光球の魔法を発動させ、複数の光の塊を生み出す。ルノの行動に全員が不思議に思うが、やがて光球が全ての魔法陣の上に移動するのを確認すると、彼の思惑に気付く。
「まさか……!?」
「上手くいくかな……あ、いった」
「ぬおっ!?」
魔石の代わりに光球から放たれる光の魔力を魔法陣に吸収させる事で転移結晶が発動可能の状態に陥り、それを目撃した国王は慌てて身体の疲れを忘れて水晶の前に移動すると、転移が行えることを確認する。
「ま、まさか……こんな方法で転移結晶を発動する事が出来るとは!?」
「えっと、その転移結晶に書かれている文章によると魔法陣に設置するのは聖属性の魔石だけで十分なんですよ。一応は他の魔石もでも代用できるそうですけど、最も効率的なのは聖属性の魔石らしいので光球の魔法で代用出来ないのか試したんですけど……」
「お主、この文字を読めるのか!?」
「あ、はい。日本語だったので……」
ルノの言葉に国王は頭を抑え、まさか転移結晶の正しい使用法が今更ながらに発覚する。だが、落ち込んでいる暇はなく、国王は転移結晶が発動できる今のうちに残された者達の避難を再開させる。
「皆の者、一列に並んで魔法陣の前に移動するのだ!!決して焦らず争わず、女子供を優先して行動するのだ!!」
「ですが国王様、もう敵はそこまで……!!」
「大丈夫です、俺が食い止めますから皆さんは避難してください」
広間に集まった森人族はルノの言葉を聞いて顔を見合わせ、ここは彼を信じて国王の指示に従い、避難の準備を行う。
0
お気に入りに追加
11,312
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。