最弱職の初級魔術師 初級魔法を極めたらいつの間にか「千の魔術師」と呼ばれていました。

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
458 / 657
エルフ王国 決戦編

氷塊の剣士

しおりを挟む
『邪魔ぁっ!!』
『ギギィッ!?』
『えっ!?』


兵士に襲いかかろうとしていた昆虫種の大群にルノは突っ込み、盾と剣を振りかざして吹き飛ばす。その光景を見た兵士達は驚愕の表情を浮かべ、見た事もない氷の鎧を身に着ける人間を見て動揺を隠せない。


『大丈夫ですか?』
「あ、ああっ……」
「待て、何者だ!?お前は誰だ!?」
「いや、待て……この声、何処かで聞いたような」


唐突に現れたルノに対して兵士達は警戒心を抱くが、兵士の一人が以前に王国会談の護衛として同行していたらしく、ルノの声に聞き覚えがあった。だが、今は彼等に説明している暇はないのでルノは押し寄せる昆虫種の相手をしながら逃げるように促す。


『ここは俺に任せて!!早く逃げてください!!』
「し、しかし……」
『いいから早く!!』


ルノに急かされて兵士達は顔を見合わせ、自分達の命を救った相手の言葉を信じ、この場をルノに任せて避難を行う。兵士達が逃げる姿を確認すると、ルノは通路全体に氷の壁を生み出して昆虫種の進行を阻む。


『通行禁止!!』
『ギギィッ!?』


氷の壁に阻まれた昆虫種は壁に向けて鎌や牙を放つが、その程度の攻撃では破壊する事は出来ず、ルノは移動を行う。上の階層に移動する程に通路も複雑となり、あらゆる場所から兵士達と昆虫種の声が聞こえてきた。

世界樹の頂上付近まで間もなく辿り着くと思われるが、既に昆虫種はここまで侵攻していたらしく、激しい戦闘が繰り広げられていた。兵士と昆虫種の死骸が通路を塞ぎ、その様子を見てルノは頂上へ急ぐ。


「いやああああっ!!誰か助けてぇっ!?」
「うわぁあっ!?」
「馬鹿!!何をしている、早く奥へ逃げろ!!」


悲鳴の中には一般人と思われる声もちらほらと聞こえ始め、兵士だけでは抑えきれなかった昆虫種が既に一般人にも襲い掛かっている様子だった。ルノは悲鳴のした方向に駆けつけると、そこには3体の昆虫種に1人の兵士が盾を構え、その後ろには男女の若い森人族が座り込んでいた。

状況を見てルノは兵士が二人の若者を助けるために昆虫種の注意を自分に引いていると気づくが、昆虫種を間近に見て戦意を喪失したのか、男女は逃げる事も出来ない。必死に兵士が盾を構て彼等に逃げるように促すが、昆虫種はそんな彼等に容赦なく襲い掛かる。


『ギルゥッ!!』
「うわぁっ!?た、助け……」
『助けます!!』
「えっ!?」


盾を鎌で切り裂かれた兵士は恐怖の表情を浮かべ、腰を抜かしてしまう。その隙に他の蟷螂が噛みつこうとした時、ルノが飛び出して蟷螂の頭部に蹴りを繰り出して吹き飛ばす。


『ギィイッ!?』
『今の内です!!早く逃げて!!』
「え、あっ……」
『行けっ!!』


突如として出現したルノに兵士は呆気に取られた表情を浮かべるが、ルノの怒声を耳にして慌てて立ち上がり、腰を抜かした男女の森人族を無理やりに立たせて逃げる。それを確認したルノは3体の蟷螂と向かい合い、氷塊の剣と盾を放つ。


『らあっ!!』
『ギィアッ!?』
『どっせい!!』
『ギギィッ!?』


剣で斬るというよりは力任せに振り回して蟷螂の頭部を叩き割り、別方向から近づいてきた蟷螂を盾で殴り飛ばす。最後の個体には倒した蟷螂の1体を持ち上げ、勢いよく投げつけて吹き飛ばす。


『一丁上がり!!』
『ギィアッ!?』


同族の死体に押しつぶされた蟷螂は悲鳴をあげ、その間にルノは逃がした森人族の後を追いかけ、やがて大きな広間へと辿り着いた。そこには300人近くの森人族と負傷した大量の兵士の姿が存在し、広間に現れたルノを見て驚愕と恐怖が入り混じった悲鳴が広間内に響き渡る。


「ひいっ!?な、何だ!?」
「おい、誰だあれは!?あんな鎧、見た事ないぞ!?」
「まさか敵なのか……!?」
『あの……』


広間にはどうやら生きのこった森人族が全員集まっているらしく、彼等を確認したルノは近づこうとした時、負傷した兵士達が傷を抑えながらも立ち上がり、武器を構えた。


「そ、それ以上近づくな!!何者だ貴様は!?」
「まさか、魔王軍か!!」
「我々を殺しに来たのか!!」
『いや、待ってください。俺は……』
『ギギィイイイッ!!』


ルノは武器を構える兵士達を落ち着かせようとした時、広間に存在する3つの通路から昆虫種の鳴き声が響き渡る。その声を聞いた森人族達は顔面蒼白となり、これから数秒後には訪れるであろう昆虫種の大群を想像して悲鳴をあげる。


「いやああああっ!!もう終わりよぉっ!!」
「くそ、まだ次の奴の転移は終わらないのか!?」
「頼む、ここを開けてくれ!!見捨てないでくれぇっ!?」
『転移……?』


広間には大きな扉が存在し、その門の前に森人族が押し寄せる姿にルノは不思議に思うが、今は通路から迫る昆虫種に対応するためにルノは氷鎧を解除して本当の姿を晒す。鎧の中から人間の少年が現れた事に兵士達は驚き、その中にはルノの正体に気付く者も居た。



※新作「付与魔術師、最強を目指す」も投降しました。
しおりを挟む
感想 1,841

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。